処刑の日。明るい青空と観衆の悪意に挟まれて、青年は微笑んでいた。
爆豪.勝己。経歴不詳で早熟の神官長。髪の代理として魔女狩りを行う金髪の聖職者。
人々の称賛を耳にするたびに、吹き出しそうになるのをこらえたものだった。
聖職者の身分など真っ赤な嘘。次々に魔女を裁く彼こそが、不老長寿の魔術師だ。
禁忌の魔術に手を出し、肉体は時を止めた。長すぎる生を持て余し、国から国へと放浪しては退屈しのぎに不幸をばらまいてゆく。
最近手を出した暇つぶしが、聖職者というあえて危険な場所に身を置き、無実の者たちを魔女として裁く手伝いをする遊びだった。
数え切れないほどの人々が犠牲になった。本物の魔女など一人もいなかったのに。
人間の残酷さ、浅ましさが剥き出しになる魔女狩りは、それなりには楽しめた。が、半分くらいはうんざりしていた。
人間の愚かさを嘲笑うのは好きだ。
けれど、醜悪なものは嫌いだった。
そんなふうに日々を過ごしていた頃、魔女狩りの餌食になった出久を裁判で見かけた。碧色の髪に翡翠色の瞳で、男にしては可愛らしい少年だった。
だが、青ざめ、絶望し、悲嘆にくれる姿はそれまでの者たちとは何も変わらない。特に面白みもなかった。
けれど、火刑の寸前。
気まぐれで見物に行った爆豪は、出久が悲しげに微笑むのを見た。……とても、綺麗だった。
彼は自分の瞳と似た色の昏い空を見上げた。そうして、静かに目を閉じたのだ。
欲しい、と思った。
気づけば、その場の人間を魔術で皆殺しにして、眠らせた出久を抱えて走っていた。火などに暮れてやるには惜しかった。その足で出久の家に行き、家族全員を家ごと燃やした。
当然、神官長の座から転げ落ち、異端に魔術師として国家に追われた。襲いかかる刺客を殺して、殺して。一体どれほどの人間を死体に変えただろうか。
それでも、鎖に繋いだ出久に合うときだけは、神官長のフリをした。
魔術師であるという事実を知られたくなかった。出久にだけは、絶対に。
心の欠け落ちた死にぞこない。笑わない少年。
時折苛立っても、会わずには居られなかった。鎖に触れるたび安心した。
決して、愛してなどいなかったけれど。
「あ゙ー…死ぬなあ、俺」
燃え盛る 炎の中 、横たわる出久の顔を見つめながら、勝己はため息混じりにつぶやく。咳き込むと、唇からポタポタと血が溢れた。
笑っては居ないが、安らかな顔だった。まるで眠っているよう。まだ生きている勝己のほうが、よほどひどい有様だった。
本当は抱きしめたかったが、右腕は切り落とされてしまった。仕方がないので、左手を出久の髪に絡めておく。撫でる力すら残っていない。
出久の言った通り、出久を捨てて逃げることはできた。そうしなかったのは、人間ごときに出久を燃やされるのが許せなかったから。
出久のすべてが勝己のものだ。だから、殺すのも自分。
「結局、最期まで笑わねエし…。呼ぶ方も神官長のままだし…。役職であって名前じゃねえっての…」
紫色の唇で文句をいう。そろそろ足くらいは炎に包まれていそうだが、もう感覚もない。視界もぼやけて、出久がよく見えない。
だが、ココにいる。
勝己が壊して、生かして、殺した少年は、もう本当に、どこにもいけないのだ。
「まア、いいか。疲れたし、ちょっと眠ろ…」
…次に目覚めたときには、いくらか本当のことを話してやろう。口づけと、愚かにも好きだと言ってくれたことへのお礼に。
本当は一度も魔女だと思っていなかったこと。世話をするのがそれなりに楽しかったこと。
それから。
「笑わねぇテメエも…嫌いじゃねえ」
笑わない出久だけが、勝己のものだったから。
荒れ狂う炎に飲み込まれていく。
一度だけため息をこぼして、小さく微笑む。あの時の出久のように。
そして、静かに目を閉じた。
コメント
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OMG!!滝のように目から感動しました🥹🥹