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部屋の中は、もう何日もカーテンを開けていなかった。
時計の針の音さえ、ノイズに感じる。
夜なのか昼なのか、そんなことはどうでもよかった。
人と話すことが、億劫になったのはいつからだろう。
「疲れた」って言葉を何百回も繰り返して、
気づけば、何にも感じない自分だけが残っていた。
スマホの通知を見ても、心は動かない。
グループチャットの未読が溜まっていくのを、
ただ見ていた。
「誰でもいいから、気づいてくれよ……」
そう思っても、口には出せなかった。
助けを求めるのが、すでに恥ずかしいことみたいで。
弱さを見せたら、全部壊れてしまいそうで。
──毎晩、変な夢を見るようになったのは、そこからだった。
最初は、曖昧で断片的な夢だった。
でも、どんどんハッキリしていく。
現実よりも、夢の中の方がリアルになっていく。
夢の中の「街」は、どこか懐かしかった。
でも、行ったことのないはずの景色ばかりだった。
そこで、誰かがこっちを見ていた。
目が合った。
……いや、初めてじゃない気がした。
「君は、まだ気づいてないんだね」
夢の中の誰かが、そう言った。
次の日も、また夢を見た。
同じ街。
同じ人物たち。
でも少しずつ、違っていく。
夢の中で過ごす時間が長くなっていく。
起きてる間は虚無なのに、
夢の中では、心がザワついて止まらない。
(……俺は、どっちにいるんだろう?)
だんだん分からなくなってきた。
テレビも、スマホも、YouTubeも──
何を見ても、つまらない。
夢の中で会った“あいつら”の方が、生きてる気がした。
現実の自分は、死んでるみたいだった。
もう、どうでもよかった。
どうせ誰も気づかないなら、
いっそ、あっちに行ってしまった方が楽かもしれない。
そう思い始めた時。
いつも通り夢に入った瞬間、景色が急に崩れた。
空が割れて、
地面が反転して、
自分の体が重力から切り離される。
(あれ……?)
夢の中のあいつが、こっちに手を伸ばしてきた。
「ようこそ、“本当の場所”へ」
次の瞬間、
全身が電流に包まれたようにビリビリして──
気づけば、自分の足は地面についていた。
夢の中だったはずの場所が、
手に触れて、
空気を吸って、
まるで現実になっていた。
「うそ……まって、なんで……」
震える声が喉から漏れた。
でも、もう戻れなかった。
「入っちゃった……」
そう呟いた時には、もう“向こう側”の住人だった。