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「そんな……誰か連絡先を知ってたりとか……」
「心当たりを探ってみたが、番号を変えられていて繋がらなかった」
それってつまり、手詰まりという事では無いだろうか。
「それに、仮に居場所がわかったとして、俺は接触するべきか悩んでいる」
「え? それってどういう――」
凛の言葉に思わず聞き返そうとしたその時、テーブルの上に置いてあったスマホの着信を知らせるメロディが流れた。
画面を見ると、それは雪之丞からの電話だった。こんな時間に一体何事だろうか? 雪之丞は普段用がある時はメッセージアプリで済ませることが多い。
電話をしてくるなんて珍しい。なんだか胸騒ぎがする。
「兄さんごめん、ちょっと出てくるね」
凛にそう断りを入れ、そっとリビングを出て、スマホを耳に押し当てた。
「もしもし? 雪之丞、どうした?」
『蓮君、ゴメン。まだ起きてた?』
「流石にこんな時間には寝ないよ。それより、どうしたの?」
『引き受けたCGの件なんだけど、ちょっと困ったことがわかったんだ』
雪之丞の言葉に、蓮は思わず眉を寄せた。時計を確認すれば時刻はもうすぐ日付が変わろうとしている。
もしかして、あれからずっと彼女と一緒に残っているのだろうか?
「困った事って、何が……」
『あのね、ロボットを縮小させたり、大きくさせたり、動かすことは出来るんだ。色々な小技もファイルにデータが残ってたから何とかなりそうなんだけど。何度やってもグレートキャノンだけが出せなくって……。二階堂さんの話によれば、何か特殊なコマンドが使われてるらしくってそれを知ってるのは先輩さんだけなんだって』
グレートキャノンと言えば、毎話必ず最後に出て来る敵を倒す切り札の大砲の事だ。大砲が敵に命中し、倒した後、お決まりのセリフを放ち日常へと戻るのがセオリーになっている。
それが敵に打ち込めないとなると、迫力に欠けるし2,3話くらいは何とかなったとしても、最終話まで押し通すことは難しいだろう。合成で何処まで誤魔化せるかわからないが今はそれで凌ぐしかないだろう。
『取り敢えず、過去のグラフィックから引っ張って来て合成できないか試してみるつもり』
「……そうか。あまり根詰めすぎるなよ」
蓮はそれだけ言うと、通話を切った。
「何かトラブルか?」
「いや。配信楽しみだねって雪之丞から」
リビングに戻ると凛の隣に腰を下ろし、何事もなかったかのようにビールに口をつける。
兄に相談してみようかとも思ったが、笑えない冗談を言うほど疲れている兄にこれ以上負担を掛けるわけにはいかないと、黙っておくことにした。
顔に出にくい完璧なポーカーフェイスを演じるのは得意な方だ。
「そう言えば兄さん。さっき何を言いかけたの?」
「いや、何でもない」
「嘘。絶対何か知ってるでしょ?」
「……」
蓮が問い質しても凛は答えようとはしなかった。
どうあってもこの話題を終わらせたいらしい。
「兄さん!」
「……今日はもう戻る」
「え!? 兄さん! 待っ……」
蓮が止めるのも聞かず、凛は足早に家から出て行ってしまった。
一体兄は何を知っているのだろう?
風呂上がりに濡れた髪をタオルで適当に乾かした後、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。
無機質な天井の模様を意味もなく眺めながら、蓮は先ほどの事を思い出していた。
話がしたいと上がりこんで来ておきながら、結局大事な話をはぐらかしたまま帰ってしまった。
一体何がしたかったのだろう? ただ、膝枕されに来ただけ? いや、まさか……。
兄の事だから、きっと何かしらの情報を持っているはずだ。そして、恐らくそれを自分に話す気でいた。でも、何が原因なのかわからないけれど、それを躊躇った。
何がいけなかった? あの会話で可笑しなところなんて無かったはずだ。
しいて言うなら兄の方がおかしかった。自分とヤりたいとかそんな事を言う兄では無かったはずだ。
疲れすぎていて、魔が差したというやつだろうか?
疲れている時ほどムラムラするとはよく聞く言葉だが……まさかね。
だからって実の弟にまでうっかり発言をしてしまうほど切羽詰まっていたのだろうか?
兄の性事情はよく知らないが、仕事柄そういった欲求不満に陥りやすいのかもしれない。
でもだからって……堂々巡りになりそうな思考をぶんぶんと首を振って掻き消す。
兄は一体なにを隠しているのだろう? 何をそんなに躊躇っているんだ。
考えないようにと思っていても、気になって仕方がない。
もしかして、自分一人で解決しようとしているのではないだろうか?
いや、まさか。……、でも、兄の性格ならあり得ない話では無い。
自分じゃ、役には立てないのだろうか? いや、きっと何かあるはずだ。自分に出来る事。
きっと何か……。
溜息と共にごろりと寝返りを打ち、目を閉じる。
明日は朝一で仕事が入っている。早く眠らなければ……。そう思ってはいるのだが、中々睡魔が訪れてはくれそうにない。
……そう言えば、ナギは今頃どうしているだろうか? 今日はなんだかんだと事件が多すぎてあまり話す時間が無かった。
それに、いつもならちょこちょこと後をついて来るのに、兄が居たせいか近づいてすら来なかった。
帰る時にも気付けば居なくなってしまっていたし、少し寂しい。
「……って、寂しいってなんだ。酔っているのか? 僕は」
自分に自分でツッコミを入れ、苦笑しながら寝返りを打つ。
別に、ナギが何をしようと勝手じゃないか。
どうせ明日になれば、気付けば側に居てあのクリッとした瞳で見ているに違いない。
様々な思いが脳裏を駆け巡り、その夜は中々寝付けないでいた。
結局朝方まで眠れなかった。瞼が重い。頭も痛いし、身体も怠い。目の下には心なしか隈が出来ているし最悪だ。
こういう時、アクターで良かったとつくづく思う。マスクを被ってしまえば、大抵の事は誤魔化せる。
欠伸を噛み殺しながらスタジオに向かって歩いていると、ほんの少し先にフワフワとした茶色い髪が揺れているのが見えた。
どうやら、こちらには気付いていないらしい。少し驚かしてやろうか? なんていたずら心が芽生え、そっと背後から近づこうとして、ピタリとその足を止めた。
脇にある自販機に居た男がナギに近付いて行くのが視界に入ったからだ。
男は、馴れ馴れしくナギに声を掛けると、彼の細い腰に腕を回して抱き寄せるように密着しだした。
「もぅ、やめて下さいよぉ」
なんて言いながら、形ばかりの抵抗をみせるものの、満更でもないといった様子にイラつきを覚える。
何だよその態度は……。嫌ならはっきり断ればいいじゃないか。
その男に、蓮は見覚えがあった。だが、どこの誰だったのか思い出せない。
だが今はそんな事どうでもいい。
とにかく、ナギにベタベタ触るなと言いたかった。
知らない男が、彼の体に触れているという事実が堪らなく嫌だ。
蓮は二人に気付かれないように気配を消しつつ、ゆっくりと近づくと、仮面のような笑顔を張り付かせナギの肩にポンと手を置いた。
「っ! お、お兄……さんっ!?」
「おはよう、ナギ。随分楽しそうだね。こんな所でなにやってるの?」
自分でも驚くほど抑揚の無い声が出た。
感情を一切押し殺し、表情筋を総動員させて作り笑いを浮かべ二人を見比べる。
だが、いくら笑顔を装っていても目だけは笑ってはいなかったようだ。
目の前の男を射殺さんばかりに睨みつけてしまったらしい。
男は引き攣り笑いを浮かべ、慌ててナギから手を離した。
「あ、あー、ごめんねナギ君。用事を思い出したから、もう行くよ! さっきの話はまた今度!」
「あっ! 犬飼さん……っ!?」
(さっきの、話? 一体何のことだ?)
脱兎の如く勢いで走り去って行った男の後ろ姿を見送り、蓮はチッと舌打ちを一つ。
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