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放課後の教室は、妙に静かだった。
窓の外では運動部の声が響いているのに、ここだけ切り離されたみたいに音が遠い。
玲央は、違和感に気づいていた。
「……遅いな」
ぽつりと呟く。
朝比奈が戻ってこない。
ついさっき、「先生に呼ばれた」と言って職員室の方へ向かったはずだった。
普通なら、とっくに帰ってきている時間。
胸の奥に、嫌な予感が沈む。
玲央は立ち上がった。
「……見てくる」
ちょうど廊下にいた陽翔に声をかける。
「俺も行くわ」
軽い調子で返した陽翔だったが、その目は少しだけ鋭かった。
二人で人気の少ない校舎の奥へ向かう。
──その途中だった。
微かに、何かが落ちるような音。
玲央は足を止める。
「……今の」
陽翔も頷いた。
音のした方へ、二人は走る。
そして、扉を開けた瞬間。
時間が止まった。
そこにあったのは、言葉にできない光景だった。
床に座り込んでいる湊。
体は震え、視線はどこにも合っていない。
乱れた服。
そして、異様な空気。
玲央は一瞬で理解した。
理解してしまった。
「……湊」
声が、少しだけ低くなる。
陽翔はすぐに自分の学ランを脱いで、湊の肩にかけた。
「大丈夫、大丈夫……」
できるだけ優しく、ゆっくりと。
湊は反応しない。
ただ、小さく震えている。
「……湊、俺らいるから」
陽翔がしゃがみ込む。
玲央は周囲を確認し、静かに扉を閉めた。
外の世界を遮断するように。
しばらくして。
かすれた声が、ようやく漏れる。
「……やだ……」
それだけだった。
それ以上、言葉にならない。
陽翔は何も聞かなかった。
ただ、背中をさする。
一定のリズムで。
「もういい、無理に話さなくていい」
玲央の声は静かだった。
だが、確実にそこにあった。
「……ここから出よう」
二人で支えながら、ゆっくりと立たせる。
湊の足は力が入っていなかった。
それでも。
二人は離さなかった。
湊は女教師から”強姦”された
これが中学の頃に起きた話
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──それから、時間が経った。
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高校の昼休み。
「なぁ陽翔、パン買ってこいよ」
「いやお前が行けよ」
教室に笑い声が響く。
その中心にいるのは、朝比奈湊。
明るくて、よく笑う。
クラスの中心みたいな存在。
「玲央〜、こいつサボろうとしてる」
「事実だろ」
「冷たっ!」
いつも通りのやり取り。
何も変わっていないように見える日常。
だけど。
玲央は知っている。
陽翔も知っている。
あの日のことを。
そして。
湊が、無意識に女子と距離を取っていることも。
「……」
玲央は何も言わない。
ただ、見ている。
必要な時だけ、動くために。
陽翔は、わざと明るく振る舞う。
空気を壊さないように。
そして湊は——
「次、体育だろ?行こうぜ」
いつも通り、笑っている。
まるで何もなかったかのように。
それでも。
その笑顔を、二人は知っている。
本当の意味で守るべきものを。