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◆放課後
校舎の影がのびる時間、モモは部活のラケットケースを握りながら、
正門の前でそわそわしていた。
(え、ほんとに今日テレビと雑誌?昨日まで魔法少女の訓練してクタクタだったよね!?
中1の生活ってこんなハードなんだっけ!?)
その時――
「モモ、こっち」
ミオの落ち着いた声が響く。
制服のままなのに、妙に“絵になる”佇まい。
ライナは明るく手を振った。
「撮影車こっちに来てるって!急ご!」
星守院の黒いワゴンが、通学生の列を避けて静かに停まった。
ドアが開くと、綺宮 露花が笑顔で迎えた。
「三人とも、お疲れさま。
今日はルピナスの“顔合わせ撮影”と“番組コメント収録”よ。
はい、早く乗って。」
モモ「……は、はいっ」
ミオ「……(緊張……してない……はず)」
ライナ「やば……私ちょっと楽しみかも……!」
⸻
◆ ◆ メイクルーム
撮影スタジオの中は、学校とはまるで違う世界だった。
ライト、カメラ、スタッフの声。
匂いも空気も違う。
「わぁ!何ここ、本当にアイドルみたい!」
「ルピナスの公式ビジュアル撮るんだって!
ポーズとか決めるらしいよ!」
ミオだけが少し引き気味だった。
「……写真……苦手……」
露花がミオに近付き、バチッとウインク。
「大丈夫よミオちゃん。あなたは氷の魔法少女。
『無表情=氷』として最高の個性だから。」
……個性……なの?」
「そうよ。クールで綺麗。それだけで武器になるわ」
ミオは少しだけ頬を染め、小さくうなずいた。
⸻
◆ ◆ 魔法少女の衣装に変身
三人は、それぞれの控室で正装に着替えた。
🌸 モモ → ピンクの双短刀スタイル
⚡️ミオ → 水色のクリスタルブレード
❄️ライナ → 雷の弓を背負ったイエローのアーチャー
「……うわ……やっぱりこれ、すごく可愛い……!」
「映えるね〜!!カメラで絶対映える!!」
ミオだけは鏡を見て、静かに呟いた。
「……昨日、この衣装でアビス倒したんだよね」
その言葉に、二人が静かになる。
「……でも今日は戦わない。笑う!そうでしょ?」
「そうそう!はいミオ、笑顔練習〜!」
「む、無理……」
⸻
◆ ◆ ルピナス、初めての撮影
「ルピナスの皆さん、中央へお願いしまーす!」
三人が並ぶと、ライトが一気に強くなり、
目の前に巨大なレンズが構えられた。
「じゃあ、まずは決め顔いきまーす!
サクラ・モモ、中央で武器構えて!」
「えっ!?わ、わたし!?中央!?主役!?え!?」
「……主役でしょ。
昨日いちばん最初に前に出たの、ノノだったし」
「そそっ!ほら、胸張って!」
モモは半泣きになりながら双短刀を構える。
バシャッ!
スタッフ「いいね!!初めてとは思えないよ!!」
(死ぬ……恥ずかしすぎて死ぬ……)
続けてミオとライナも撮影され、
三人そろってのポーズ撮影が始まった。
⸻
◆ ◆ テレビコメント撮影
小さなセットに移動し、
マイクの前に三人が座る。
ディレクター「じゃあ、“ルピナスとしての意気込み”を
10秒くらいでお願いします!」
「えっ、10秒!?短っ!!」
「私いけるよ!私喋るね!」
「……無理……ライナ頼んだ……」
「お任せ!」
カメラ前。
ライトが点灯。
「3、2、1――」
「はじめまして!私たちルピナスは、
みんなの“日常”を守れるように頑張ります!!」
「、、力を合わせて!」
「、、、よろしくお願いします」
カット。
ディレクター「はい!初回にしてはかなり良いよ!!」
露花は満足そうに拍手した。
「三人とも、今日から本格的に“ルピナス”として活動していくわ。
戦闘も、撮影も、番組も、学校も全部があなたたちの仕事よ」
「そんなに沢山!?大変だ、、」
「忙しすぎる、、」
「でもさ、私たちならできるんじゃない!?」
三人は顔を見合わせ、
少しだけ笑った。
こうして、
ルピナスの“表の顔”が世の中に広まり始めた――
◆ルピナスのテレビ出演から1週間後
放課後のチャイムが鳴った。
モモは体育館から全力で走りながら思った。
(今日……校内で私の顔見て二度見した人、多すぎない!? テレビ出たから?雑誌の撮影載ったから? てかバド部のみんな、あきらかに私に距離近くなってない!?)
部活帰りのジャージ姿のまま、
正門でミオとライナを待つ。
すぐに二人が出てきた。
ミオは相変わらず無表情だが、
今日はやや困った顔をしている。
ライナは苦笑い。
「ふたりとも遅かったね!どうしたの?」
「いや……なんか……帰り道、すごい見られてた……」
……七回声かけられた」
「えっ!?七回!?」
ミオが珍しく疲れた溜息をつく。
「『テレビの子だよね?』とか
『ルピナスのミオちゃん?』とか、、 男子にも詰め寄られて、、」
「でもミオのビジュアルはバレるよー!
クール系魔法少女そのまんまだもん」
「……否定できないのがつらい」
モモは笑いをこらえながら二人の間に入る。
「じゃ、とりあえず駅前行こ?
今日アイス安い日なんだって!」
⸻
◆ ◆ 駅前の広場
三人がアイスを買って並んで歩いていると、
急に前から数人の中学生グループが走ってきた。
「やっぱり!!ルピナスの人たちじゃん!!」
「えっ、あ、やばっ……!」
「きたっ!!」
「……深呼吸……(自分に言い聞かせる)」
女子数人が興奮した顔で近づいてくる。
「テレビで見たよ!本物!?
マジで!?ポスターのルピナス!?」
「あっ、ありがとうございます、、!?」
緊張で敬語になるモモ。
ライナは明るく笑った。
「見てくれたの?嬉しいよー!」
「写真いいですか!?サインとか……!」
ミオの肩がピクリと跳ねる。
(ミオやばい顔してる……!)
ライナがそっとミオの背中を押して前に出す。
「ミオ、ほら……一緒に写ろ?」
「、、、うん、、」
でも、ミオは逃げなかった。
三人並んで写真を撮られ、
軽く声をかけられ、笑顔を向ける。
モモはスマホの光の中で、なんだか不思議に思った。
昨日までは、ただの中1だったのに。
今日、知らない誰かが自分たちを見て喜んでる。
それって――
魔法で戦うより難しいことなんじゃないか。
やっと人混みから離れた時、
三人は同時に深い息を吐いた。
「……つ、疲れたぁぁぁぁ!!」
「けど……嬉しかった……よね?」
ミオはアイスの棒を見つめて呟く。
「……私たち……もう戻れないね。
普通の帰り道には」
モモは迷いなく笑った。
「戻らなくていいよ!私たち……
――ルピナスだもん!」
三人は夕焼けの街を並んで歩いた。
その背中はまだぎこちないけど、
確かに“誰かに見守られるヒーローの背中”だった。