キリが目覚める十数分前
サイド ルネ
ダイチが死んだところを目の当たりにした俺は、泣き叫ぶ少女の姿を見て、何者かが自殺に巻き込まれたことを知った。
普通なら悲劇のヒロインとして報道されるだろう。けれど、そんなことはなかった。
「ほら、あの家の……」「あの子が男の子を突き飛ばしたんじゃね……」「そうに違いないわ!だって、人殺しの娘だもの」
ヒソヒソと嗤う声。沢山の人がいたのに、誰も救急車や警察を呼ぼうともしない。
むせかえるような強い血の臭いと相まって、吐き気がしたなぁ。
「お姉ちゃんは、そんな人じゃない!」
意志のある声で少女は叫ぶ。けれど、その叫びは届かなかった。後は知っての通りだよ。
事故として片付けられた。誰も真実を伝えなかった。ネットで嘘が囁かれた。
ダイチの葬式で、その嘘を信じたんだよ、君たちが。
ユズちゃん含んでもたった五人しかいなかったもんね。
「……俺は、兄ちゃんの意志を継ぐ。事故なんかで片付けられない世界に、変えてやる!」
……本当のことを言おうか、迷った。けれど、結局は話せなかった。
ダイチの本心を、なるべく隠してあげたかったんだ。だから、せめて自分に出来ることをしようと思った。
「ルネ。出来ればモンダイジ団のメンバーになって欲しい」
「あはは……。それ、ダイチにも言われたなぁ」
本当、顔だけじゃなくて中身もそっくりだよね。
「ダイチさ……みんなのこと大好きだって、何かあったら頼むって言ってたんだよね。……ダイチの代わりにはなれないけど、出来る限り力になるよ」
「ルネは無理しなくていい。俺が団長として、兄ちゃんの代わりになる」
名字で読んで欲しいって言ったのも、これが最初だったよね。ユイカも「ダイキ……ううん、キノを一人にさせない」ってタエって名乗るし。
このとき、決めたんだ。ずっと笑って、見守ろう。力になろう、って。
……そうして、三年がたった。
「タダイマー!!」
「きゃあああぁぁぁっ!!」
「キノ、帰って来たのか」
なんというか、既視感を感じた。
「コイツ、新しい仲間だ!」
「またオマエは勝手に……」
……驚いたよ。キノが背負っていた女の子に、あの泣き叫んでいた少女の面影があったから。
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