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おりと
50
紫音
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生放送の音楽番組を終え、仁人を伴い自宅の玄関をくぐると一気に緊張が緩んだようだった。タイトなスケジュールにより充分な練習ができないなかで大きなミスもなく収録を終えられたことにホッとする。SNSをチェックすればファンの反応も良さそうだ。何よりもファンが喜んでくれるのが嬉しかった。 勇斗だけでなく仁人も明日は午後からの仕事ということで打ち上げも兼ねて色々と買い込んできた。先に風呂も済ませ、今日ばかりは何も気にするまいと好きなものを食べる。少しだけと缶チューハイを開ければいつもより早くアルコールが回る感覚がある。仁人も半分も飲んでいないはずが明らかに言動がふわふわとしてきた。
「ふぅ……お腹いっぱいだぁ」
お腹をさすりながら仁人がソファに寝転がる。そのまま寝入ってしまいそうな様子に悪戯心が湧いてきた。
「じんちゃーん、食べてすぐ寝たらウシになっちゃうよ」
「ぼくたちは〜……みるくでーす……」
むにゃむにゃと怪しい呂律でいつものフレーズを言うが、手もまともに上がっていない。その無防備な脇腹に手を伸ばせば「うひっ!?」と甲高い声を出して身体を跳ねさせた。
「ほら起きて〜、もうちょっとお話ししようよぉ。あっなんならこれからインライする?ねむねむ仁ちゃん見たらみんな喜ぶかも」
「わは、はははっ、ちょ、くすぐったい!」
「あはは、弱いのう」
身をよじる仁人の腰付近を両手でくすぐればきゃらきゃらと笑うのが嬉しくて頬が緩む。更に追撃しようと手を這わせると、笑いすぎて涙目になった仁人が「もうおしまい!」と首に手を回してきた。
「ぐえっ」
引き寄せられて仁人の胸元に突っ伏す。乗り上げるような体勢に重いだろうと慌てて顔を上げれば、仁人は気にした様子もなくふにゃふにゃの笑みを向けてきた。
「今日さぁ、楽しかったねぇ」
いつも際立って白い肌が赤く火照り、触れている胸元がとくとくと鼓動を伝えてくる。何となく離れがたく、勇斗はそのままゆっくりと身体を預けた。
「……めちゃくちゃ緊張したけどね」
「んふふ、勇斗ガチガチだったね」
「そりゃ緊張するだろ!生放送だし国民的番組だし!……ほんと無事に終わってよかったなぁ」
しみじみと呟くと「勇斗がんばってたもんね」と頭を撫でてくる。手の先まで温かく、小さかったころの弟の体温を思い出した。普段の仁人なら既に寝ている時間だ。
段々とゆっくりになる仁人の瞬きを眺めていると、今にも夢へと旅立ちそうな様子で仁人が「思ったんだけどさ」と囁いた。
「……歌ったり踊ったり、好きなことしてファンのみんなに喜んでもらえて……美味しいごはんをお腹いっぱい食べて、M!LKのみんなと、勇斗とこうして一緒にいられて……」
勇斗の顔を見つめながら、仁人は綻ぶように笑った。
「──これが幸せってやつなのかも」
その言葉が聞こえた瞬間、不意に勇斗の目頭が熱くなった。顔を伏せた勇斗に気付いた様子もなく、仁人は目を閉じてくふくふ笑っている。
「来年も再来年も、十年後も……その先もこうしていられたらいいなぁ……」
次第に声が小さくなりいつしか寝息に変わった頃、勇斗は滲んだ視界で誰よりも長く自分と共にいるメンバーを見た。
誰よりも繊細で傷つきやすいこの男が、何の憂いもなく今を幸せだと断言したことに得も言われぬ喜びを感じる。それと同時に何があろうともこの幸せを守らなければと、使命感さえ芽生えていた。
「俺が……何があっても俺がM!LKを守るよ」
きっと仁人なら一人で抱えようとするなと勇斗を叱責するだろう。少しでも負担を減らそうと勇斗の支えになってくれるだろうし、現に今だって充分支えてもらっている自覚がある。
だがそれでもなお、健やかに眠る仁人の安寧を誰でもない自分が守ってやりたいと思うのだ。この感情をなんと表すのか分からないまま、勇斗はじっと仁人の寝顔を見つめていた。
コメント
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わあ、第1話からすごく温かい空気感でしたね…! ほろ酔いの仁人くんが「これが幸せってやつなのかも」って自然に言えるの、本当に愛おしいシーンでした。そしてその言葉に勇斗くんが目頭を熱くして、守りたいって思う気持ちの流れがすごく丁寧で…。ふたりの距離感の描き方が繊細で、読んでいてこちらまで胸がじんわりしました。続きがすごく気になります!