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【嫉妬作戦その3】
「もう撮れる、絶対今度こそ撮れるって!」
スタッフ室の片隅で、数名のスタッフがモニター前に集まっていた。今回のターゲットは「元貴の油断した寝顔」、そして、ひろとがそれを見て嫉妬する――という構図。
言い出しっぺは、例の“真のエロ顔を見たい”チームである。
「ほら、元貴くん来た来た!」
控え室のソファに、タブレット片手にふわふわの髪を揺らして現れた元貴。
軽く唇を尖らせ、タブレットの画面をじーっと見つめている。
「メロディー…どこいったの、僕の頭の中…」と呟きながら、首を傾げて曲をいじっているうちに、ふにゃっとした瞬間が訪れた。
目がとろんとしてきた。ついに…ウトウトタイムだ!
「よし……今だ……!」
スタッフ達の緊張が一気に高まる。
その時。
「……何してんの?」
低く抑えた声がモニター越しに響いた。
振り返ると、いつの間にか、滉人が立っていた。
スタッフ全員が、動きを止める。
まるで猛獣に睨まれたシカの群れである。
「な、な、なんでもないっす!ちょっと、確認というか、配線のテストを……!」
言い訳の最中にも、モニター内では、ふにゃふにゃの元貴がソファに体を預けて完全に寝落ちていた。
滉人は無言でモニターを見つめた。
そして、モニターの中の彼自身が、静かに元貴のそばに腰を下ろし、そっと手を伸ばし――
髪を撫で、額にキス。
「……っ」
スタッフ、全滅。
「あっ……あの、今のって、その、えっと」
「削除よろしく」
滉人の言葉に、スタッフは大きく頷くしかなかった。
だが、その後に聞こえた、眠る元貴の甘い寝息と、滉人が小さく「可愛すぎるんだよ、もう…」と呟く声で、誰かが鼻血を噴いた。
⸻
【作戦その2:ファンスタッフ登場&壁ドン事件】
懲りないスタッフたちが次に選んだのは、ずっと元貴のファンだったという若手スタッフの“突撃愛の告白”だった。
「もーとーきさんっ!!」
勢いよく控室に飛び込んできたその青年は、瞳をキラキラと輝かせていた。
「ずっと前から……ずっと、ファンでした!初めてCD聴いた時からもう、人生変わって!曲作りの視点とか、声の使い方とか、もう……本当に……っ!」
「あ、ありがとう……嬉しいよ。えっと……ごめん、泣いてる?」
「だって、本物ですよ……っ!!」
号泣する若手を前に、元貴は困ったように笑って「そんなに泣かなくていいって」と優しく言いながら、ティッシュを差し出す。
その優しさがまた破壊力だった。
スタッフ一同(裏から隠し撮影中)、静かに崩れ落ちた。
告白(?)後、若手は泣きながら部屋を出て行く。
その直後だった。
「……さっきのは?」
低く響く声。滉人、登場。
「ん? あ、スタッフだよ、何か僕らのファンなんだって……すごい熱量で、ちょっとびっくりした」
元貴が何の警戒もなく言ったその瞬間。
滉人が歩み寄り、壁へと追い詰める。
「ちょ、わか――」
「……ずっとファンだった?人生変わった?本物?……はは、そっか。……で、おまえは何て言った?」
「え?え、あ、聞いてたの?僕……なんか、ありがとうって」
滉人の腕が元貴の肩を固定し、もう片方の手で後頭部を押さえる。
そして、真顔で、熱く、長く、キスを落とした。
スタッフ陣、息絶える。
⸻
【その夜と翌朝】
滉人の怒りはその夜、穏やかな微笑と共に「じゃあ、ちゃんと俺のことだけ考える練習しよっか?」という罰になって返ってきた。
キスはいつもより深く、囁きは容赦なく。
「おまえ、寝顔も人懐こさも、全部ヤバすぎんの。……ファンサも程々にしろ」
「え、あの、練習って……それって、あっ、あんっ、やだ、ちょ、無理、そこだめ――」
「練習だろ?かわいい声で『ひろとだけ』って何回も言って」
そして翌朝――。
スタッフ陣が見たのは、妖艶な色気を纏い、どこか腰をかばうように歩く元貴の姿。
滉人は涼しい顔で元貴の肩を支えていた。
「え、なに?僕、なんかついてる?」
何も知らないふりをする天使に、スタッフたちは再び崩れ落ちた。