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「本当に大丈夫?」
あの時、しっかり引き止めていれば。
◇
もともと不安になりやすい人だった。
よく落とし穴に落ちるし、薬草を採りに行くと言って帰ってきたらボロボロだし。
その度、「不運」の一言で片付けてしまうのが、少し怖かったけど。
─ 今回もそうだった。
彼は、どうやら普段より危険な任務に臨むそうで。
それを聞いた私は、なんだか不安になって、支度をしている彼に尋ねた。
「本当に大丈夫なの?危ないよ」
「大丈夫だよ。なんせこの体質でここまでやってきたんだ。今更億劫になることない」
まるで私だけ心配しているかのように、彼は普段と同じような微笑みを見せた。
うーんと考えている私をよそに、彼は支度を終えたようで小さく、「よし」と呟いた。
「もう行くの?」
「あぁ、日が暮れてきたし、そろそろかな」
そう言いながら戸に手をかける彼の裾を、ぎゅっと掴む。
「・・・怪我して帰ってきたら、怒るから」
彼は、私の頭に手を置いて、
「どうだろう。僕、帰ってきたら〇〇にこっぴどく叱られてしまうかも。」
その言葉に、こっちは真面目なの!と一喝して、手を離す。
「冗談冗談。じゃあ、行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい。」
夕陽に照らされ進んでいく彼の、伸びる影を見つめて。
「行かないで」って言うのは、我儘だと分かっていたから。
◇
彼が任務に出かけて、二日程経った。
いつ帰ってきてもいいように長屋の掃除をしていると、棚やそこら中から出てくる彼の私物。
包帯や、籠。あと、包帯を作る用の・・・褌?
伊作の長屋は、というより、六年生は合同任務なので六年長屋はとても静かだった。
片付けを終わらせた頃には、もう日が落ちかかっていた。
ずっと一人でいると、なんだかそわそわして、誰かに会いたいような気がしてきて。
もう暗くなるけれど、町へ出ることにした。
もしかしたら、伊作に会えるかもしれないという淡い期待と一緒に。
◇
町に出ると、まだ思っているより賑やかだった。
もし六年がここに来ているなら、普通の人より体格がいいからすぐ分かるだろう。
周りを見回しながら歩いていて、前から歩いてくる人に気づけなかった。
ドン、と音を立てて、何かにぶつかる。
「大丈夫ですか?・・・って、」
驚いて声の方へ顔を向けると、そこには彼の同輩、及び同室の「食満留三郎」が立っていた。
「・・・お前、伊作の恋仲か?」
私がぶつかったのは、彼の胸板だったのだ。
「そうです!ぶつかってすみません・・・!・・あ、」
頭を下げて謝ると同時に、ある事を思い出しまたバッと顔を上げる。
「彼は・・・伊作は!?まだ帰ってきてませんか?」
そういうと、さっきまで驚いた顔をしていた彼は、悔しそうに顔を歪め、俯いた。
「・・・」
─ なかなか彼の口から言葉が出ない。その意図が分からず立ち尽くしてしまう。
「あの・・・?」
私が声をかけると、ハッと我に返ったように、平常心を取り戻す。
「あー、えっと、伊作はだな。・・・先に学園に戻ったぞ」
伊作は帰ってきていた。その事実に、「帰ってきたならもっと早く教えてよ!」という自分と「帰ってきてくれてよかった」と思っている自分がいた。
「ありがとうございます!会いに行ってきますね。」
そういい私は彼に一礼すると、学園の方へ踵を返した。
今、自分が背を向けている人物が酷く傷付いているとも知らずに。
◇