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「ふむ、客人か。我の名はラージェントフェリム。数多の世界を股にかける伝説のクリエルテス人だリム」


家から出てきた水晶の少女は、いきなり物々しい自己紹介を始めた。


「ん? たしか『ラッチ』というなま──」

「わーわー! 違うもん! それは仮の名! ラージェントフェリムは魂の名! 覚えておくがいいリムよ!」

「はぁ……」


ミューゼ達はいきなり面倒くさそうだと思っていた。少女はパルミラ似だが、性格はまるで違うようだ。

名前や口調の事は後回しにしておいて、ミューゼは1通の手紙を少女に渡す。その差出人の名前を見た瞬間、ミューゼ達の顔と手紙を交互に見始めた。


「えっと……ふははは、よくぞここまで来たリムな! ついてくるがよい、客人としてもてなすリムよ」

「あ、はい。お邪魔するのよー」


家の中に招かれ、一同はリビングらしき場所でくつろぐよう言われた。

家と言っても、そこは壁の中に作られた部屋。明かりの水晶に照らされている部屋の中は、磨かれた岩肌がむき出しである。

しかし椅子やテーブルといった家具は木製。クリエルテス人は木製家具などを他リージョンから輸入し、生活に活用しているのだ。石類しかないせいか、木製家具を持つ事はひとつのステータスとなっている。

事前にピアーニャから聞いていたので、ミューゼとパフィはナルホドと納得していた。

アリエッタも穴の中の家が珍しく、キョロキョロと見渡している。


「それにしても、真剣に読んでるね」

「ひさしぶりのパルミラからのテガミらしいからな。しばらくまっていればいいだろ」

「私達宛の手紙にもあったけど、案内役になってくれるのよ? 普通に喋ってくれる方がありがたいのよ」

「……そうなんだがなぁ」


クリエルテスに来たのには、もちろん理由があった。当然仕事である。しかも調査には、総長のピアーニャが同行という、少し変わった内容だった。

というのも、数日前にピアーニャが事前調査と報告をする為に王城に向かったのだが、その時パルミラからとある相談をされ、その時にクリエルテスに行く事が決まった。

詳細を聞いたピアーニャは、ミューゼ達の協力がいると考えた。パルミラも故郷の事なので手伝いたかったが、仕事を放りだすわけにはいかず、手紙と紹介という形で協力する事になった。それがミューゼパフィ宛と、今回紹介されたラッチ宛の2通である。

ミューゼ達は自分達宛の手紙をもう一度確認しつつ、ラッチが読み終えるのを待つことにした。

なお、ミューゼ達に宛てられた手紙にはこう書かれていた。


──最近クリエルテスで妙な生き物を見たっていう話を聞いたんですよ! なんでも半透明の大きな鳥が暴れているとか。

別に半透明の生き物は珍しいわけでもないですが、空が無いクリエルテスにはそんな生き物いません。もしかしたら他のリージョンから流れてきたのかもしれません。

一応リージョンシーカーでも調査を始めたらしいですが、半透明という所で例のスラッタルのようなものかもしれないと、ネフテリア様もおっしゃっています。

そ・こ・で! 巨大スラッタルに対抗出来ていたミューゼさんとパフィさんに、調査をお願いしたいんですよ! わたしは見ていませんでしたけど、誰も触れられない本体?をやっつけたとか!

ピアーニャ総長にも同行をお願いしておいたので、よろしくお願いします!

あ、ネフテリア様はしばらく外出禁止なので、行けません。シスさんとフレア様でボコボコにしてるので、安心して向かってください。

クリエルテスに着いたら、まずはガーネの町に向かってください。もう1枚の手紙をラッチという子に渡せば、手伝ってくれますので。変な子ですけど、実力は保障します。いつかファナリアに来たいと言っている子なので、それを条件にすれば何でもしてくれますよ。

町の地図を同封しておきますね、よろしくお願いします。

パルミラより

追伸、今度オシャレになったアリエッタちゃんを連れてきてくださいね!──


なんだかテンションが高い気がする手紙を読み返しながら、パフィはため息をついた。


「危険かもしれない場所にアリエッタを連れていくのは、やっぱり嫌なのよ……」

「うーむ……」


そんな時はピアーニャが護ればいいのだが、そこはそれ。心構えも無い小さな子供を、武器を持参しなければならない仕事に連れていくのは、普通ならばあり得ない。

今までのように巻き込まれたり、傍に置いておいた方が安全という状況ではなく、今回は自分達で連れていく事になっているのだ。その事で出発前にも散々揉めていた。

現在アリエッタを預けられるのは4か所ある。リージョンシーカー、ヴィーアンドクリーム、フラウリージェ、そして王城。

そのうちフラウリージェと王城は即却下された。アリエッタにとって危険過ぎる為である。

クリムのヴィーアンドクリームはというと、営業中は忙しく、その間1人にさせるのはちょっと…という理由で、クリムから断られていた。

リージョンシーカーも、大体同じ理由である。面倒を見れるリリは重役でもある為、基本放置状態になりかねないのだ。そんな中で迷子になったり他の受付嬢などに目をつけられたら、どうなるか分からない。


「今度各所でアリエッタを慣らさないといけないのよ。いざとなったら王様脅してパルミラをアリエッタの専属にしてもらうのよ」

「まぁ、うん、なんてゆーか……わかった」


一般人が国王を脅すなよと言いたかったピアーニャだったが、それが実際に可能なせいで、微妙な顔で唸って終わった。

一方、当のアリエッタはというと、知らない世界の旅行だと思っているようで、ミューゼの傍から離れないように気を付けつつも周囲の風景を楽しんでいる。


(この綺麗な世界で何を見るんだろうなー楽しみだなー)

「……このキラキラした目を見ると、すっごく預け辛い」

「うぅむ……」


過保護な保護者だけでなく、ピアーニャですら置いて行くのを躊躇う程、楽しそうな目で家の中を眺めていた。

話が途切れた所で、手紙を読んだラッチが戻ってきた。


「待たせたリムな……何かあったの?」

「気にしなくていいのよ」


パフィはラッチの口調の変化が気になりつつも、先に話を進めるよう促した。


「話は分かったリム。とりあえずパルミラお母さんの言う通り、そなたたちを導こう。その代わり、条件があるリムよ」

「……? えーっと、ファナリアに行くのが報酬でいいのね?」

「うむ! 新天地が我を呼んでいる! その為ならばいかなる敵をも打ち倒してやるリムよ!」

「わ、わかったのよ。よろしくなのよ」

(なんかテンション高いぱるみら?だなぁ……)


話が分からないアリエッタは首を傾げながら会話を見ているが、それ以上にミューゼとパフィの頭が混乱していた。ちなみにピアーニャはそんな2人を見て、あーあ…と言いたげな顔でため息をついていた。


「ところで……その……今パルミラの事をなんて?」


聞き間違いかと思ったが、どうしても気になり、その事を聞き返す。


「? パルミラお母さんがどうかした?」

「お、え……」

「お……」

『おかあさん!?』


いまいちキャラの定まっていない目の前の相手の登場よりも、遥かに衝撃を受けていた。なにしろパルミラの外見はミューゼとあまり変わらないのだ。すぐ横にピアーニャという例外がいても驚いてしまう。

驚いた2人は小声で話し始めた。


ひそひそひそ……

「えっと……」


どうしてそんな反応をされるのか分からないという顔で、ラッチとアリエッタはピアーニャを見た。


「すまんな。ちゃんとセツメイしてなかった」

「む?」

「そ、そうなのか?」


アリエッタは会話内容が分からないので、リアクションを合わせているだけである。どうやら周囲に合わせて動き、リアクションから読み取る事を覚えたようだ。

すぐに戻ってきたミューゼとパフィが、一旦気持ちを落ち着けて質問した。


「貴女はいくつなのよ?」

「あーし? こほん、我は7歳だ」

『!?』


再び後ろを向いて小声で相談し始めた。

今度はアリエッタも一緒になって難しい顔をしている。当然雰囲気を合わせているだけだが。


「パルミラって何歳なのよ?」

「17歳って言ってたよ」

(ぱるみら最近会ってないね)

「ってことは10歳で? どーゆーことなのよ?」

「おい……ふたりとも……」

「総長は黙ってて、今大事な話をしてるの」

「いやいや……」


混乱した2人がピアーニャの話に耳を傾けるのは、しばらく後の事だった。


「クリエルテスじんは、5さいでオトナになる」

「早っ!」


ようやく落ち着いた2人に対し、クリエルテス人についての説明をしていくピアーニャ。

クリエルテス人は生まれてから短期間で成長し、5歳から大人として活動する。その後はおよそ10歳で子を産む。その方法は体の一部を切り離す分裂である為、性別は一切関係無く、1人で子を作る事が出来る。


「あれ? 外歩いてた時に、男性と女性がいたのよ。アレはなんなのよ?」


パフィの言う通り、クリエルテス人にも性別はある。分裂した子供は親と同じ性別だが、長い時間をかけて変体する事も可能だという。男性型は体積や硬さがあり、女性型は器用で変幻自在という差がある……のだが、本人達は好みだけで軽く性別を決めていたりする。

ラッチを産んだパルミラは、ラッチが大人になった2年前にファナリアに出て、いつしか王城で働く事になったのだった。


「……というわけだ」

「理解したのよ」

「男性が出産……ゴクリ」


ミューゼがおかしな所におかしな反応をしているが、概ね理解した様子。

この後、ラッチからはファナリアを中心とした他リージョンについて色々質問されることになった。そのお陰もあってか、話が終わる頃にはラッチは完全にミューゼ達に懐いていた。

からふるシーカーズ

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