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もし、どんなものでも貰えるとしたら、俺は何を望むのだろう。
いや、多分、何も望まないのではなかろうか、だって俺は、何も知らないんだから。
-春、出会いと別れの季節という印象がある。満開の桜と出会ったかと思えば、すぐに散って、
来年までその花弁達を見ることは出来ない、これも、一種の別れというものだと思う。
桜の木自体は今もそこに根を張って、生き続けていると言うのに。それを忘れているかのように。
校入学式を終え、新たな教室に入り、新たな席に座った新入生、橋口 蓮(ハシグチ レン)。
眼鏡を拭いている彼は まるで空気かのように、誰の目にも留まらない。
映ってはいるのに、そこにいるのに。 誰も彼に声をかけようとしない。
入学初日、皆お互いを知らなすぎて、 それぞれが元々知っている顔の元へ足を運ぶのだ。
蓮は、あまり人と関わらない中学時代を過ごしてきたため、悲しいことに友達などいなかった。
ボッチというやつである。
…とりあえず、平穏に過ごせればいいや。
入学してから数日が経った。新入生がある程度打ち解け合い、もう既にいくつかのグループが
出来ている。もちろん蓮は、どのグループにも混ざっていない。隣の席の生徒とすら、
最低限の会話しかしていない。周りの生徒も、蓮には目もくれない。完全に孤立している。
部活動どうしようかな、帰宅部かサッカー部か。
部活動勧誘の貼り紙を見て、ふと考える。蓮は小学生の頃からサッカーをしていて、
中学でもそこそこ強い学校で、そこそこの功績を残していた。
しかし、勉強に集中したいというのもあって、 高校からはサッカーを続けるかどうか
迷っていたのだ。サッカーも勉強も、蓮にとっては数少ない好きな事だったから。
「美 術 部 ど う で す か ー!」
「野 球 部 お い で ー!」
放課後、2、3年の部活動生達が、必死に部活動勧誘を進めている。
サッカー部の見学だけして帰ろう。
そう思って校舎を出る蓮、なんと、そんな彼に声をかける物好きがいたのだ。
『君!、バスケ部見学していかない?』
声でかいな…誰呼んでるんだろ。
『君だよ!おーい!』
早く気付いてあげなよ…。
『そこの君!メガネの!』
その人も眼鏡かけてるんだ。
早く気付いてあげなよ、と思いながらグラウンドに足を進めると、
不意に誰かの大きな手が肩を掴んできた。
え、ヤンキー?この時代に?
「すみません、何か用ですか…?」
驚いて後ろを振り返ると、綺麗なクリーム色の髪の、身長が少し高めの…
おそらく先輩が立っていた。
わぁ、童顔だけど顔綺麗な人…。
『ごめん、いきなり!バスケ部見学してかない?』
「えっ。」
さっきも聞いた声。 ここで初めて、俺はさっき声を掛けられていたのが自分だったことに気づく。
「すみません、自分が声を掛けられているとは思わず…。」
『いいよいいよ!ビックリさせちゃったろ?』
『俺、2年の加々見 渚(カガミ ナギサ)!なぁ、いきなりで悪いけど、バスケ部見学しに来ない?』
「え、俺…今からサッカー部の見学に行こうと思ってて。」
『え、まじで!?、サッカー出来んの?』
「まぁ…少しだけですけど…。」
『そっかそっか、じゃあバスケ部は無理か〜…。』
「まぁ、はい…すみません。」
変に期待させるより、素直に言って最初から折っておく方がいいよね。
『ごめんな!引き止めて、サッカー頑張って!』
「は、はい。ありがとうございます。」
あ、時間やば!、そう言って、体育館に駆け足で戻る先輩。
…優しい人だったなぁ。
俺も見学行かなきゃ…。