不真面目な先輩1
俺は今、サッカー部の見学に来ている。正直俺のことは誰も知らないと思っていたが、
小学生、中学生の頃からサッカーをしていた人達の中には、俺を知っている人もいた。
―知らなくていいのに。
とりあえず、見学者は簡単にリフティングとドリブル、あと少しシュートをして、
あとは見るだけ。運動部というものはこの時期、どこも大きな大会が控えており、
部内が 少しピリついた雰囲気を纏っている。特に、今年が最後の3年生達の眼差しは、
人付き合いのない、部外者の俺でも分かった。
―下手に喋らない方が良さそうだな…。
ほぼ直感だが、そう感じた。今ここに踏み込めば、多分俺はタダでは済まされない。
先輩方は皆、見学者の俺達に優しく振舞おうとしているらしいが、
練習に集中させろオーラが伝わってくる。
―もう帰ろうかな、とりあえず入部届だけコーチに出して、もう見学に来るのはやめよう。
あ、あと…
キュッキュと、シューズが床を擦る音と、 バンッ、ダンッと、ボールが強く打たれる音と、
カッカッカッと、ピンポン玉が台を何度も往復する音が響く。
サッカー部の見学を早々に切り上げた俺は、時間に余裕が出来たので体育館にも出向いた。
―加々見先輩だっけ…バスケ部って言ってたかな。
もう入部する部活が決まっている中、他の部活動見学へ出向く俺は、多分性格が悪い。
―あ…いた。
やはり目立つクリーム色の髪に、170はありそうな身長。
ゴール前、他の方からボールを受け取り華麗にドリブルをした彼は、
リングに向かって片手で ボールを投げ込む、ボールはそのまま、綺麗にリングをの中を抜けた。
一瞬のことだった、時間にすれば、5秒もなかった。バスケ初心者の俺でも分かるほど、
そのまるで台本のような 洗礼された美しい一連の動きに、思わず息を飲む。
―かっこよかった…。
家に帰り、自室で勉強をしながら、頭の隅ではまだあの先輩が何度も浮き上がる。
それは自分で制御ができないほど、掴めない何かだった。そして、溢れ出る好奇心。
―かっこよかった、俺もあんなふうに_
無意識に、”ああなりたい”と思った。別に、バスケがしたいとかではなくて、
ただ単純に、先輩のような人に。多分、憧れだろうか、意味だけは知っている。
でも…
―自分のかなわない相手憧れにして、苦しむのは自分だ、なれると思うな、出来ると思うな。
錯覚はやめろ。俺が憧れたのはあの一面だけで、それしか知らないくせに。分かったフリして
簡単に憧れを抱くのはやめろ。
でも…
ああはなれなくとも、もし、近付けたら?0.01mmでも近づけたら、それは大きな進歩で、
もし…0.1mm近付けたら?0.1mm、1mm…1cm_
―あぁ…試したい。近付きたい。
知らない、だって、何かに憧れた覚えはないから、だから…
これが俺の、初めてだ。
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