テラーノベル
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暗闇が、ゆっくりとほどける。
「……あれ」
みことが目を開ける。
20⁄23
白い天井。
冷たい床。
血の匂いも、警告音も、ない。
「ここは……?」
「おはよ、みこちゃん」
すちの声。
みことが勢いよく起き上がる。
「なんで……?」
「俺は、みんなが助かれば…
…それでいいって……」
言葉が途中で崩れる。
理解が追いつかないまま、涙が溢れる。
「俺、残るって……決めたのに……」
すちは、しゃがんで視線を合わせる。
「……罪悪感で死ぬことないよ」
やわらかい声。
「みこちゃんは、もっとわがままで
いていいんだよ」
みことは、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、
首を振る。
「でも……俺のせいで……」
「違う」
すちは静かに言う。
「それにさ」
ふっと、少しだけ空気を変える。
「みこちゃん、こんなに軽いじゃん」
「……ぇ?」
「これじゃ、みこちゃんがいようが
いまいが、エレベーターは動かない」
みことが、瞬きをする。
「……そうなの?」
「うん」
即答。
「だから、自己犠牲は意味ない」
少し間を置いて、すちは続ける。
「みこちゃん……もうちょい頑張れる?」
その問いは優しいけど、逃げ道はない。
みことは唇を噛み、涙を拭う。
「……うん」
小さく、でも確かに頷いた。
その返事を聞いて、すちは立ち上がる。
(まだ使える)
そう思ったことは、口にしない。
ただ、次の扉へ視線を向けた。
ーーー
エレベーターの前に、もう一度立つ。
今度は誰も何も言わない。
みことは自力では立てない。
すちの背中に、静かに体を預けている。
軽い。
驚くほど軽い。
「……重くない?」
小さな声。
「うん。全然」
すちは即答する。
いるまとなつも、無言で乗り込む。
三人とも、もう万全じゃない。
すち、いるま、なつは片足を
みことは両足を犠牲にしてエレベーターに
乗り込んだ。
立ち方が不自然で、
重心の置き方がぎこちない。
それでも。
赤い警告灯は――点かない。
静かな機械音とともに、扉が閉まる。
ウィン、と低い駆動音。
ゆっくりと、上昇が始まる。
誰も安堵しない。
助かったわけじゃないと、
分かっているから。
みことが、すちの肩越しに小さく呟く。
「……俺、ちゃんと頑張るから」
「うん」
短い返事。
いるまはなつの手を強く握っている。
もう隠そうともしない。
エレベーターは止まらない。
ただ、静かに上へ。
欠けたままの四人を乗せて。
ーーー
エレベーターを降りた先。
そこにあったのは――階段だった。
終わりが見えないほど、
上へ続く長い階段。
天井は暗闇に飲まれ、
どこまで続いているのか分からない。
自然と二手に分かれる。
いるまとなつは、無言のまま先へ。
すちは、背中のみことを支え直してから、
一歩踏み出した。
ゆっくり。
確実に。
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