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夜のミアレシティには表の顔と裏の顔がある
表は煌びやかとした街明かりに照らされ、舞夜ポケモンバトルを勤しむトレーナー達やそんな夜景を見て癒されるカップルや家族等
そして、裏の顔は今オレの目の前で起こっていることというのだろうか
「コイツがサビ組のボスか?」
「ほ、ほんとにやったのか…!?」
「…ゲホッ……」
目の前で数人の男がカラスバを見て冷や汗をかきつつもニヤニヤと笑みを浮かべて見つめていた
今日はジプソが違い仕事で忙しくしていた為、一人で夜のミアレパトロールしていた所多勢に無勢というのか、突如として後ろから数人の男に襲われて今に至る
しかも、ポケモンの毒ではなく人間用の毒を盛られてしまい苦しく何度も咳き込む
「(ペンドラーを外に出したし、あと少ししたらジプソでも呼んでこっち来てくれるやろ)」
それまでの辛抱だ
そう自分に言い聞かせ、気丈に振る舞う
「コイツ、本当に毒効いてるのか?」
「オレはどくタイプ使いやで、どくくらい耐性ついとるわ」
本当はガッツリ効いている
幼少の頃、まともな飯を食べなかったからか背は伸びなかったし力もつかなかった
だからジプソ達に目付けられた時も逃げる方法に切りかえた
真正面から戦っても自分には勝てる要素がなかったから
「(ほんま悔しいわ)」
こんな身体の自分が嫌になる
「クソッ…お前らサビ組のせいでオレは!」
「ゔッ…!!ゲホッ!ゲホッ…!!」
男のうち1人がカラスバの腹を蹴る
それに対し、怖気付いていた周りの人間もカラスバに暴力を振るう
「…ッが!っ…は、はは…お前ら群れやないと生きてけんポチエナみたいやな」
「!!なん、だと!!お前自分の立場分かってんのか!?」
1人に胸ぐらを掴まれたと同時に口の端から血が垂れる
四足とも縛られており何も出来ないからと、暴力を振るうことしかしないコイツらが滑稽に思えて、小さく笑った
その笑いに顔を赤くさせて胸ぐらを掴んだままカラスバの顔面目掛け殴りかかろうとした瞬間だった────
──バタッ…
音を立てて、近くにいた仲間のひとりが倒れる
するのその倒れた影から、見た事のある人間が目に映る
「…だ、誰だ!?お前!!なにした!!」
「おい!お前大丈夫か!?」
「ゔ、ァ………ぐっ…」
慌てる男達
苦しそうに胸を抑えて、仲間の元へ手を伸ばそうとする男の手を誰かが踏み潰す
紫色の髪に、目を引くショッキングピンクの瞳
「…シオ、ン………?」
そう呟いた瞬間、シオンは次の男の元へ一気に間合いを詰めたかと思えば胸に小さなナイフを突き刺す
「ッアアアア!?い”っ!?ァ”!!」
「お前!な、なんだ!?サビ組のにん──うわッ!?な、なんだ!!前が見え…ッ!!」
一人が震えた手で銃を持ちシオンに向けるが、近くにあった男のジャケットを奪いその男に被せる
そしてそのまま間合いを詰めて、また胸へ小さなナイフを突き立てる
あまりにも早くて的確な動き
シオンのショッキングピンクの瞳に光はなく、いつものような笑顔もそこにはなかった
「く、来るな!!」
「多勢に無勢、ではないですか」
いつもの鈴がなるような明るい声ではなく、低い声が倉庫に木霊する
それに怯えた男が胸元から小さな小瓶を手に取る
「…!!シオッ…ゲホッゲホッ!」
あれは毒だ
慌ててシオンへ声をかけようとしたが、胸が痛みむせてしまう
そんなカラスバを見て、目を見開いたシオンが男に向かって走る
しかし、それに驚いた男がシオン目掛け小瓶の蓋を開けて毒をかけた
「ひっ!?く!喰らえ!!」
「ッ!?」
パシャッ!という音ともにシオンの顔に毒がかけられる
ポケモン用の毒ではなく人間用の毒をあんな大量に被ってしまえば、命はない
カラスバの顔が青ざめる
「は、ははッ!?やった───か…?」
「…どいて」
シオンの冷たい声が響いたかと思うと、男の胸には小さなナイフが刺さっていた
「が、はッ………なん、で……」
「私、毒は効かないように造られてるから」
男は苦しそうに顔を歪めながらそのまま倒れ込む
そしてそれを見たシオンはすぐにカラスバの元へ駆け寄り縄を解く
「だ、大丈夫ですか!?カラスバさんのペンドラーが1人で街あるいてるなんて珍しいと思ったら…こんなことになってたなんて……」
先程の冷たい声をしたシオンはどこへ行ったのか、いつもの高い声に戻りアワアワと眉を下げながらカラスバの身体を触る
「ッゲホッ…お前、あれ…ッ…」
「毒盛られてるじゃないですか!?大変!!早く病院行かないと…!」
そう言いながらカラスバを軽々しく持ち上げ倉庫の入口を目指そうと走った瞬間だった
シオンがガクッ、と左に傾きカラスバごと地面に倒れ込んでしまう
「っ!?シオン…!大丈夫か───」
「い”ッ……、あ、大丈夫です!」
よく見ると左足から血が流れていることに気づく
「は、はは……しね…ッ…」
男の1人が自分の胸に刺さったナイフを抜いてシオンが通り過ぎる直前、足を切りつけたのだろう
「っ!カラスバさん、行きましょ!ごめんなさい、落としてしまって」
男を少し蹴った後慌ててカラスバを再度持ち上げて、走るシオン
しかし深く傷つけられたのか、左足から血が落ち地面に線を引いている
「シオン!下ろせ!!」
「ちょ!暴れないで下さい〜!!また落としますよ!?」
少し怒り気味でカラスバに話すシオン
男を持っている分、足にも負担がいくだろう
現に左足が地面に着く度ガクッと足が力なく沈みこんでいる時がある
「ゲホッゲホッ!こ、これくらい、歩けるわ!」
「そんな真っ青な顔で何言ってるんですか?」
眉をひそめつつカラスバへ怒っていると、2人の前に黒い車が止まり運転席からジプソが出てくる
「カラスバ様!!申し訳ありません…遅くなっ──お前は…!!」
「ジプソ、ちゃう。コイツが助けてくれたんや」
シオンの顔に血がついてるからだろうか、シオンの顔を見てシオンへ今にも殴りかかりそうな表情をするジプソを見て慌てて止めに入る
「わかり、ました…訳は後で聞きます。とりあえず貴方も中へ」
「え!?いや、私は別に…」
「どこ行く気や、はよ来い」
「あ、はい……」
先に車に乗ったカラスバから服を捕まれ、流石に断ることも出来ず渋々中に入る
「ッ、は……」
「…大丈夫ですか……?」
「人の心配しよる場合ちゃうやろ…お前足は」
「あ、ジプソさんが包帯くれたので…とりあえずは大丈夫です」
いつも持っている強めの解毒剤を自分に打つが、まだ苦しそうに息をするカラスバを心配そうに見つめるシオン
ついた場所は病院ではなくサビ組で、そのままカラスバはジプソに持ち上げられサビ組の休憩室にあるベットへ乗せられる
「アイツは」
「アチラに」
部屋の隅でどこか気まずそうにけれども目は心配そうにカラスバを見つめているシオン
「こっち来ぃ」
「…は、はい………」
ゆっくりカラスバの方へ近寄ると、手を握られる
「えっ!?エッ!?」
「ジプソ、こいつと話すことがあるさかい。席外してくれる?」
「かしこまりました」
手を握られ戸惑うシオンを他所にジプソに席を外すよう伝えた後、言う通りジプソは頭を下げ部屋を後にする
「だ、大丈夫ですか?一旦寝た方が…」
「そらお前もやろ」
「えっ!?わっ!?」
そう言うとカラスバに手を強く引っ張られそのままベッドの上に倒れ込むように乗るシオン
目の前にはカラスバの顔が近くにあって、逃げようとするが手を強く握られ逃げることが出来ない
「や、やだ〜…凄いイチャイチャしてる〜…」
引きつった笑みで話すがカラスバは真顔のままシオンの顔を見つめている
「──お前、ただもんやないやろ」
「……じゃあ何者でしょうか」
カラスバの言葉に少し目を見開くがすぐにいつもの余裕そうな笑みに戻りカラスバに問う
まるでカラスバを試しているように
「(そらあんなん見たら一択やろ)」
コイツは普通の人間やない、的確にアイツらの胸を刺していた
それに小さなナイフを何個も持っていたという事は、常に持ち歩いて居たのだろうか
そんな物騒なものもつ人間は犯罪を犯そうとしてる人間か、はたまた誰かを狙っている…暗殺者か
きっとあの動きならばシオンは後者だろう
最初の頃、あんなに近づいてきたのも怪しかった
やはりコイツは自分の命を狙っていた
その事実がカラスバの胸をえぐる
「…何もんやお前、わからんわ。」
「えっ?」
カラスバの言葉に目を見開き、口をポカンと開けるシオン
そんなシオンの肩を抱き寄せそのまま抱きしめる
「……え”ッ!?!?」
シオンの驚く声が聞こえる
「うるさい、疲れとんや。」
「えっ?な、なにこれ………」
シオンを抱きしめメガネをとり、そのまま目を瞑るカラスバ
そんなカラスバに対し、顔を赤くしたシオンが「えっなんで今の流れでこうなるの…えっ、警戒心とか皆無なのかな…」と呟く
シオンの考えている事は分からないが、カラスバが自分の正体に気づいているという事は確信しているはず
だからこそ、何故そんな人間を態々こんな近くに置いている理由が分からず戸惑っているようだった
そんなシオンもしばらくはモゾモゾと動いていたが、少しすると動かなくなり見てみると目を瞑りそのまま寝てしまっていた
「…警戒心ないのはお前やろ」
自分の胸の中で眠っているシオンを見て呟く
もし明日目が覚めたら、このまま胸を1突きされて死んでいるかもしれない
目の前にいる女は、そういう目的をもった人間だ
しかし今の今まで何も手を出さして来なかったシオンの心理が知りたかった
あそこまでの殺傷能力があるのならば、きっと殺ろうと思えばいつでも殺れたはずだ
今なんか絶好の機会だろう
演技かもしれないが、こんなにも無防備に寝ているシオンの心理が分からない
オレを殺す気やなかったのか
オレを何故今まで殺さなかったのか
もしかしたらシオンはオレの事を───
なんて浅はかな気持ちを抱いてしまい、慌てて取り消した