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プルルルルプルルルルと電話の音が鳴り響く
もそもそとしながら男は起き上がりスマホを開く
「はい…」
電話先の声を聞いて男は目を見開いた
「おはよう、カイトくん。今は6時半だけど暇?」
桐生さん…
昨日の出来事が頭の中でフラッシュバックする
よく電話かけられたなこの人…
裏世界の人間はよく分かんないほど頭が狂っている
なんでこの人たちが一般の仕事につけているのか不思議なぐらいだ
「暇ですけど」
「じゃあ美容室で会える?」
「いやです」
当たり前だろ
昨日みたいな事になったら次こそ死ぬ
まだこの体と魂には仲良くしていたい
「なんで?」
「あなた昨日のこと覚えてますか?」
「うん」
さも当然かのように言ってるがそれは桐生さんが俺に被害を与えたことを認めたようなもんだからな?!
と言いたくなったがグッとこらえる
「昨日みたいなことにはなりたくないので嫌です」
「あーなるほど」
「大丈夫だよカイトくん。もう実験し終わったから」
「え?」
やめるじゃなくやり終わった
つまり誰かに試したってことか?
誰に、
いや、分かってるはずだろ。昨日逃げたあの時点で
あの現場を見られてしまった。理由はそれだけでいい
あの女性で試した
俺が殺したようなものか
無意味な人殺しはしたくないのに…
そう思ってしまった
今更何言ってるんだ
人を沢山殺した俺にそんなこと思う権利なんてない
これからもどうせ沢山殺すのだから
「カイトくん、だからおいで?僕君に会いたいな」
「…嫌です」
「なんでそう嫌がるのかな」
「この仕事やってるので警戒心が強いんですよ」
「僕は身内なのに?」
「身内でもです。そもそもなんで会わなきゃいけないんですか。電話だとダメなことなんですか?」
「ううん、電話でもいいけど長くなっちゃうよ」
「大丈夫です。話してください」
「うん、わかった」
彼の内容はまとめるとこんな感じだった
まず鈴木さんにはお嫁さんがいるということ
お嫁さんの実家は厳しく子供産んで子孫に自分の優秀な血を継がせるというような典型的な昔の思想が根付いているということ
そしてお子さんを産めなかった奥さんの立場が危ういということ
鈴木さんがもうすぐ死んでしまうということ
「なるほど、ありがとうございます」
「ううん、また来てね」
「…はい」
そして俺は電話を切った
なんでもうすぐ自分が死ぬのに奥さんを殺す依頼なんかを…?
ますます謎が深まるばかりだった
うんうんと唸っていると仕事用のスマホがなった
「はい」
「あ、ナルさんでしょうか?」
「そうですが何かありました?」
「突然すいません。出来れば今日の夜実行して欲しいんですが」
今日…?
方法も分からないままやらないといけないのか
くっそ、ただ殺すなら一日で終わったのに…
「分かりました。今日の夜実行します」
そういうしか無かった
そしてとある人に急いで電話をかける
「はぁい、どーしたのぉ?こんなに朝早くから」
「前の依頼の事なんですけどどうすればいいか分かりますか?」
「まえぇ?あ、殺さずに死ぬだっけ?」
「逆です。死なずに殺す方法です」
「お願いです!遥斗さん!」
「んん〜」
「今度、依頼を無料で手伝わせて頂きます。今回教えてくれれば報酬の4分の1をお渡しします」
「半分だ」
さっきとは違い急にハキハキと喋り始める
「頼みます、俺にも生活はあるんです」
「知ってるよ?はるちゃんにもあるからね〜」
電話越しでもわかる。こいつは今ゲスい顔で笑っている
「何が望みですか?」
「昨日の事♡」
「昨日?」
「桐生に会ったでしょ?なんかされた?」
「…なんの関係が?」
「さぁね」
これ以上の情報は与える気は無いけど俺の情報は欲しいって訳か
不平等だ
だけど教えてもらう立場だ。何も言えない
お金じゃないだけまだマシだと思おう
「分かりました…」
「ありがとぉ、じゃ教えるね」
言われた方法はなんとも意外だった
目的も理由も全部分からない
だけどこれは依頼だ
遂行しよう
「さっすが、あんだけの金持ってきただけある」
彼の家は思った以上に大きかった
お嬢様と結婚しているのもあるだろうが彼の家もなかなかに金持ちなのだろう
羨ましい
俺は金に余裕が全くないから少しぐらいこんな生活をしてみたいもんだ
そう思いながら家、というか屋敷の塀を乗り越える
「失礼します…」
屋敷の中は外見と比例していて整っていた
横から執事やらメイドやらが出てきてもおかしくは無い
さて、お嬢様の部屋はどこかな
地図などがある訳では無いし適当にぶらぶら歩いてみるか
いや、もっと効率的なやり方がある
スマホを取りだして桐生さんにメールする
数分もしないうちに返信が返ってきた
俺が彼に頼んだのは屋敷の構造だ
奥様の部屋は…
2階か
地図を見ながら進んでみるとそれらしい部屋をみつけた
コンコン
「はーい!」
元気な女性の声がする
これから死ぬとも知らずに
扉が開いて出てきた女性は鈴木さんと同じ年齢ぐらいだった
「すいませんお嬢様」
「死んでください」
そう言って銃を突きつけた時だった
サイレンが街中に響き渡る
それを合図に奥さんは俺に体当たりをし部屋を出る
あんまり抵抗して欲しくないんだけどなぁ
そう思いながらも奥さんに向けて2発打つ
1発はハズレあと1発は肩に当たった
あー今日ダメな日か
サイレンの音的に近いな
もうあと数分もしたら着くだろう
…タイミングが良すぎるな
狙ったかのような時間だ。まるで誰かが警察に伝えたような…
そんな気がしてならない
考えたところで仕方ない。とりあえず逃げよう
「それで失敗したんだ」
「はい、残念ながら…」
「んで、依頼主から金は取れたの?」
「いえ、翌日病気で倒れたらしいです」
その次の日カフェに向かい一応報告をした
「タイミング良すぎませんか?」
「まぁねぇ…」
遥斗さんは少し考えたあとこういった
「答え合わせでもしよっか?」
「答え合わせ?」
「うん、けどこれははるちゃんの予想だから合ってるか分からないけどね♡それでも聞きたい?」
「えぇ、ぜひ」
この人の予想はだいたい当たる
あの日遥斗さんにこう言われた
全力で殺しにいけ
その真意が分からず戸惑ってしまったりしたがやっと答え合わせができるようだ
「まず、鈴木さんは殺す気がなかったんだよ」
「は?」
殺す気がないのに依頼した?
そんなの金の無駄じゃないか
「うんうん、そう思うよねぇ。鈴木さんの家庭的な話さっき聞いたけど多分鈴木さんは最低な男で死にたかったんだと思う」
鈴木さんは病気で死ぬ
それは確定している事だった
なら、せめていい男で死にたいんじゃないのか?
奥さんの記憶に残れるように
いい人だったって思い出させるように
「鈴木さんが亡くなったら奥さんはまた新しい旦那さんを探さなければならない。子供を産むために」
「だーけど奥さんは多分鈴木さん以外を愛せる自信がなかった。それほどまでに鈴木さんを愛していたんだよ」
遥斗さんは自身の人差し指同士を絡める
「そうなったら奥さんの立場が危うい。それにいち早く気づいた鈴木さんは自分のイメージを下げて次の男を探して欲しかった、そうしなければならなかった」
「そこで君に依頼した」
もし、自分を殺す依頼をしていたことがバレたら間違いなく絶望するだろう
愛は憎しみに変わりやすい
だが依頼通り彼女が死んでは元の子もない
だから死なずに殺して欲しいと言った
あのタイミングでサツが来たのも俺が来る時間を知っていた鈴木さんが通報したなら納得出来る
「どうやってバラすかなんて分からないけどこんな計画を思いつく彼ならできるよ」
「そう、ですね」
これで本当に良かったのだろうか
これが正解なんだろうか
俺には分からなかった
2人1緒に心中でもしたら良かったのに
そう思ってしまったがきっとそれは違うのだろう
鈴木さんは奥さんに前に進んで欲しかった
幸せになって欲しかった、生きて欲しかった
だからこの依頼をした
自分の幸せを潰してでも
きっと彼はこれから死ぬまで彼女に恨まれるだろう
死んだ後も
だって彼女からしたら自分を殺そうとした相手にほかならない
そこまで彼が損する必要があったか?
そこまで彼が苦しむ必要があるのだろうか
「愛ってよく分かりませんね」
そう言うと彼は微笑んだ
「そうだね。きっといちばん綺麗で一番醜いんだよ」
いつも通り安っぽい3文小説のセリフのようだった
しかし彼はどこか儚げだった
「そうゆう恋でもしたんですか?」
「それは秘密だよぉ。はるちゃんのプライベート♡」
「…そうですか」
「御協力ありがとうございます。それでは」
そう言って出ていこうとした時だった
「まぁまぁ今日は一緒に喋ろうよ。どうせ暇でしょ?」
「いや、暇じゃないんですけど」
「いいからいいから」
そう言ってさっき座った場所に座らされる
「それじゃ、お仕事お疲れ様」
「かんぱーい!」
コーヒーのカップを合わせる音がカフェの中に響く
「奢りですか?」
「まーたそーゆうこと聞く!奢りだよ!!」
なら今日だけは付き合ってあげよう
珍しくそう思ってしまった
ーーー裏話ーーー
桐生弓弦は自分の店の店員を実験後に殺した