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4月。 桜が咲いては散り、芽が顔を出しまた咲く。
この光景にも慣れたものだ。
紫音は無事高校へ入学した。
それとほぼ同時に退院し、今は実家で月1程度で受診を受けている。
俺はと言うと居候先を母の実家から、紫音の実家へと引越しさせてもらった。
なぜって?
蕾さんと顔を合わせるのが気まずいからだ。
「おはようございまーす……」
ムニャムニャと残る眠気と戦いながら、俺はおばさんに挨拶する。
「守君、おはよう。紫音の様子見に行ってくれる?」
「はーい……」
トボトボと廊下を歩き、彼女の部屋の前に来る。
「しおーん、入るぞー」
「……………………」
返事がない。さてはまだ寝てるな?
ガチャ。
ドアを開ける。
部屋の中央にはベッド。
その横には歩行器と車椅子。
「スピー」
やっぱり寝ていた。
気持ちよさそうに鼻ちょうちんまで膨らませていた。
「おーい」
ゆさゆさ。
ベットを揺らす。
「守は甲斐性なし」
「待て、どんな夢見ている!?」
「そんでもってハゲる」
「フサフサのボーボーだ!ハゲる要素はない!」
「それは股間の毛のことかな?」
「さては既に起きてるだろ!?」
パチ。
両の眼が開眼する。
「けっけっけー、おはよーう」
ニタニタとしてやったり顔だ。
「はいはい、おはよう。早く飯食おうぜ」
「はーい、起こしてー」
ベットのギャッチアップを70度くらいまで上げる。
「ほーい」
紫音が身体をゆっくりとベットから離れる。
俺は歩行器を紫音が手にかけやすい位置に引いてくる。
「苦しゅうない」
ガラガラと歩き出す。
俺は部屋のドアを開けて、彼女の部屋から廊下へ通りやすいように道を作る。
「守」
「うん?」
「疲れた」
「まだ10歩程度だろ……。俺と並んで登校したいなら甘えるなー」
「彼女が苦しんでるのに、助けてくれない。やっぱり甲斐性なしだ」
「これは愛のムチだ」
「アメだけでいいよー」
うわーんと泣き真似をする。
そんなこんなでリビングへ。
「ほらよ」
紫音の椅子を彼女に向ける。
彼女は椅子と反対側を向く。
紫音の両手を掴み、ゆっくりと腰をおろさせる。
「ありがとう」
「よし、アメは与えたな。次は厳しく行ってもいいだろう」
「これは当然の支援だ!椅子に座れず頭打つわ!」
#ラブコメ
こげ丸
梨本和広
「ふふふ、いつもありがとう。守君」
「いえいえ、居候させて頂いてるので、これくらいは」
紫音のお母さんが優しく微笑む。
そしていざ、登校。
さすがに歩行器では学校まで遠すぎるので、車椅子を押してやる。
太陽は穏やかで風は暖かい。
桜の葉がひらひらと舞い、地面に落ちる。
「守と同じクラスが良かったなー」
「無茶言うな。学年が違うわ」
「わざと留年して、学年合わせようよ」
「嫌だわ。俺の学歴に傷がつく」
「自分の身を第1に考える。彼氏以前に人間失格だね」
「1000人に同じ質問してみろー。絶対同じ答えが帰ってくるわ」
「世の中って残酷だね」
「でもその残酷に打ち勝って今、お前と一緒にいるわけだし」
「守って無意識に相手を照れさせるよね」
顔が赤くなる紫音。
「は?照れる要素あったか?」
ポカーン。何かおかしなこと言っただろうか?
「とりあえず、僕以外の前では自重しなさい」
「まるで意味がわからんぞ」
「そういうところ!」
何故か怒られてしまった。
そんなこんなで学校へ。
今年から車椅子の生徒が通学するので、学校側がスロープを用意してくれた。
緩やかな坂道を上がり昇降口へ。
1学年の教室は、1階にさせてもらっていた。
高等部1学年と記された教室札の前でガラッと扉を開けて紫音とともに中へ。
「おっはよーう」
「紫音さんおはようございます」
「しおちゃんおはうだぜ」
紫音の挨拶で、既に登校していたクラスメイト2人も反応する。
「陽太ようた君、かしこまらずにっていつも言ってるだろぃ。ルミちゃんもおはよう」
「だって歳上ですし、敬語はしっかり使わないと……」
「敬語って相手を敬うために使う言葉なんだぜ?あたし相手にその要素ある?」
「……………………」
とても困った表情をする陽太君。
「そうだぜ、陽太。しおちゃんは年齢はあたしたちより上だけど、今はクラスメイト。もっとフランクに行こうぜー」
ルミちゃんがグッと親指を立てる。
「わか……った」
「うむうむ、ゆっくりでいいからちょっとずつタメ口に行こう」
紫音がとりあえず、妥協といった感じでしめる。
「じゃあ、俺は自分のクラス行くわ」
「うわーん、行かないでー愛しの彼氏よー」
紫音の泣き真似をスルーしつつ教室へ。
「さて、新学期に入ってからだが、早速クラス委員長を決めるぞー」
美咲先生の言葉で、俺たち5人はサッと顔を逸らす。
「と言っても、既にあたいの方で決めてあるがな。委員長は希導守」
「はいぃ!?」
思わず上擦った声が出る。
「副委員長は相川恵」
「うちは今年は副委員長かいな」
「待ってください、先生!俺はこの学校に転入してきてまだ日が浅いんですよ!」
「うるさい黙れ、あたいの可愛い妹を振った罰だ」
「完全に私怨!」
ほんとに蕾さんのことを思っての行動だろうが、横暴すぎる。
「まぁ、冗談はこのくらいにして」
ふぅっと体内の空気の入れ替えをする美咲先生。
「希導、何もあたいが考え無しに決めたと思うか?」
「どんな意図があったんですか?」
「わずかだが、お前には人を引っ張っていくカリスマ性がある」
「はぁ……」
自分ではそんな感覚ないけどなぁ。
「それをこの1年で高めていけ。相川を副委員長にしたのは、去年1年クラス委員長を務めたからだ。サポート頼むぞ」
「はいな」
というわけで、クラス委員長に任命されてしまった。
「けっけっけ、人を引っ張っていくカリスマ性ねぇ。美咲先生はやっぱり生徒をちゃんと見てる」
昼休み。
俺は1学年の教室で紫音と弁当をつついていた。
机を提供してくれたのはルミちゃんだ。
彼女は2学年の教室で昼を食べるのとの事。
どうやら恵さんとルミちゃんは姉妹らしい。
今頃俺の机で、昼飯を摂っているだろう。
もっもっも。
紫音のお母さんのお手製お弁当を頬張る。
唐揚げに卵焼きにミニトマト。
ありきたりだが、彩り鮮やかで食欲がそそる。
「これがお袋の味かー」
「食べるの初じゃないだろ」
「本人の前だと気恥ずかしくて言えないからねぇ。それに今まで病院食だったんだ。きちんと噛み締めておかないとね」
「そうだな」
ピンポンパンポーン。
校内放送が流れる。
『2学年クラス委員長、希導守。昼飯を食い終わってからで構わん。職員室へ来い』
美咲先生からの呼び出し。
「けっけっけ、委員長も大変だねぇ」
「まったくだ」
ふぅっと体内の空気をはく。
5分ほどして、弁当を完食する。
「じゃあ行くわ」
「おうよ、また放課後なー」
1度空の弁当箱を置きに教室に戻る。
ルミちゃんと恵さんが談笑していた。
「ルミ、今週末釣り行かへんか?」
「いいね!イカでも釣ってばっちゃんにイカ焼き作ってもらおうぜ!」
「ええなぁ、それ」
昼はもう食べ終わったらしく、綺麗に弁当袋へ片付けられていた。
「用事は終わったかいな?」
俺の存在に気づいた恵さんが訊く。
「いや、これからです」
「ほなら、行くかー。ルミもぼちぼち戻りぃ」
「おうよ!」
ルミちゃんが元気よく姉の指示に従う。
「呼ばれたの俺だけですし、気を使わなくても……」
「美咲先生はスパルタやからなぁ。うちも一緒でええやろ。怒られるのは希導、お前だけやろしなぁ」
「なら尚更ひとりで行かせてください」
「いや、真面目な話、美咲先生はかなり厳しいで?」
ピンポンパンポーン
『希導守、早く来い』
ピンポンパンポーン
「ほな、行くか。これ以上待たせたらアカン」
ガタッと席を立つ恵さん。
「あたいは希導だけを呼んだんだがな」
「うちは副委員長やろ?新米委員長のサポートは必要やろ。先生自身サポート頼むと言ってたさかい」
「まぁいいだろう。これを配ってこい」
山に積まれた書類。
「なんですか?これ」
「小中高、全クラスに配布する書類だ」
「高等部だけでいいのでは!?」
「見ての通り、この学校は教員の人数が少ない。それにこの島に不慣れな赴任の教師もいる。慣れているあたいが主に全学部へのサポートだ」
「なるほど」
「本当は昼休み中に配って欲しかったが仕方ない。今日中に配らなくてはいけない書類でな。先生たちには、あたいから話しておく。午後の授業遅れてもいいし、他クラスの授業中でも構わん。配ってこい」
キーンコーンカーンコーン。
「予鈴だ。急げ」
「咲倉先生、何もそこまで……」
「あたいもそう思います。ただの鬱憤晴らしですがね。あいつをこき使いたいんです」
「それで授業に支障が出たら?」
「問題ないでしょう、その辺は」
ガラッと机の戸を開き、数枚のA4用紙を取り出し、相手へと渡す。
「これは……!?」
「あいつがこの学校の転入試験を受けた時の試験結果です。全て満点。しかも、1校レベルのものをです」
「すごいですね……!」
「あいつ自身にも言いましたが、微力ながらカリスマ性があります。それをあと2年で限界まで伸ばすつもりです」
「はぁ……。そこまで考えてらっしゃるとは」
「まぁ半分は私怨ですけどね」
咲倉美咲は、自嘲気味に苦い笑みを浮かべた。
「はぁ……終わった」
「お疲れ様さん」
俺は本日の学級日誌を書き終えた。
外は既に夕暮れだ。
オレンジ色の陽の日が雲の隙間から地上へ光を灯す。
「全学部へのプリント配り。いつもあんな感じなんですか?」
「いや、去年はそんなことなかったで」
「えぇ……」
「うちも去年までと違ってびっくりしとる」
完全に八つ当たりじゃねぇか、あの先生。
「まぁ、はよそれ提出して帰宅せぇや」
「はい、お疲れ様でした。また明日」
「ほなお疲れ様さん。また明日な」
オレンジ色に輝く廊下を歩き、職員室へ。
「遅い。いつまで待たせるんだ」
「学級日誌って書くの初めてで」
「そうか、初日なら許そう。恋人が待ちぼうけてるぞ。早く行ってやれ」
「そうだった!それでは先生、お疲れ様でした!また明日!」
ダッダッダと走らない程度に足速で紫音の元へと向かう。
ガラッと1学年の教室の戸を開ける。
「紫音!ごめん!」
スマホを操作する彼女。
「メッセージ、既読無し。愛する彼女を置いて帰ったかと思ったぜ」
「ごめん!委員長の仕事が忙しくて」
言い訳がましくも謝罪する。
「けっけっけ、わかってるよ。午後の授業中にプリント配りに来た時に察しはついてた。ただ罰だ。だいぶ前に言ってた本屋今度行こうぜ」
「ありがとう。今週末にでも行こうな」
「けっけっけ。許そう」
そして迎えた週末。
紫音と件の本屋へと来ていた。
「見てよ、守!ブル○カの画集ある!」
「こっちにはヘ○バンのもあるぜ!」
「うっひょおお!何だこの本屋!漫画もラノベの品揃えも抜群だー!」
テンション爆上がりの紫音。
「この本屋さんの品はね、全部私が店主さんにお願いしたの。この島、結構オタク多いでしょ?」
俺たちの興奮した会話に引き寄せられるように顔を見せたのは、蕾さんだった。
黒煙色の髪をポニーテールに結んでヒナコのTシャツに黒いスウェットだ。
「あ、どうも……」
俺はつい尻込みする。
「そんなに気を使わなくていいよ、守君」
「でも……」
「私はあなたの選択に否定はないよ。未練はあるけど」
「そう、ですよね……」
失恋というのは簡単に割り切れるものではないらしい。
「恋人は1人だけ、二股も掛けたら逆に許さないよ。だからね、いいの。私はこれまで通り接して欲しいな」
「はい、善処します」
「ふふ、だったら明日大島屋に来て。私も桜花ちゃんもシフト入ってるから」
「はい……」
「それじゃあね。2人に久しぶりに会えて良かった」
ぎこちない笑顔で去っていく蕾さん。
その後ろ姿を見送って、まだ彼女も割り切れてないことを知る。
「どんな戦いにも勝者も敗者もいる。ちょっとずつ以前の関係に戻りたいのさ。つぼっちはさ」
「明日の昼は決まったな」
「そうだね」
俺達はシンした雰囲気で本を漁る。
「勇気出して僕たちに話しかけてくれたつぼっちを称えて1番高いの注文するかー」
「ちなみにそれ支払うのは?」
「ん」
紫音は指で俺に払えと命じる。
「遅くなった入学祝いに何か買ってあげようと思ったけど、やっぱりなしな」
「酷い!」
そんなこんなで本を漁る。
「見てよ守!花咲く○ろはの小説ある!」
「こっちには多○欠あるぜ!」
数分後には元のテンションに戻っていた。