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アダムとイヴの物語

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アダムとイヴの物語

13 - 第13話 どこにいても

♥

16

2025年03月10日

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もうすぐ夏休みに入る前の土曜日。

今日は合唱部の一学期最後の練習だ。


俺は、奏(そう)ちゃんの顔見るのが辛いのに練習だけは真面目に出ていた。自分を褒めてあげたい。マジで偉い。


「おい、沢尻。今日空いてる?合唱部の奴らで花火見に行こうって話してるんだけど」

先輩が話しかけてくる。


花火大会。奏ちゃんも行くのかな。


「あー今日はちょっと用事があって」

「何だよ、デートかよ」

「いや、友達と約束があるんで。すみません」


「おーい、藤村!沢尻はデートで来られないって!」


先輩が冷やかして言う。

やめろって、ばか!

気まずいだろが。


「響、デートなの?」

奏ちゃんがいつもの優しい笑顔で言う。

あ、その顔やめて。また気持ちが戻るから。


「違います!友達と遊ぶ約束しているだけです」


「そっか、残念だね」


残念だね。


そんなもんですか、奏ちゃんの感情は。

俺は未だに奏ちゃんの一挙手一投足に踊らされているよ。


「そんなに否定するところが怪しいよなー」


また先輩が冷やかす。

頼むから黙っていてくれ。


「まぁ、行ける人だけで行こう」

奏ちゃんが先輩の話を遮ったので、助かった。


奏ちゃんも行くのか。花火大会。

本当は一緒に行きたかった。


もしかしたら偶然会えるかな。

毎年ひどい人混みだから会えるわけないか。


それに、今日は前からあさ美と花火大会に行く約束をしている。


そして今日で、あさ美の優しさに甘えるのも終わりにしよう。


嫌だな、人を傷つけるのは。

傷つけられる方が楽かもな、悲劇のヒロイン面して泣いていればいいし。


その罰として、俺は明日からはちゃんと孤独と向き合うよ。

乗り越えないと一生前に進めないままだ。




夕方になって、あさ美と待ち合わせの公園に行く。


あ、また夕焼け。

心がギュッと痛くなった。

面倒だな、人間の感情は。


「響!」

あさ美が浴衣姿で走ってくる。


「おい、危ないから走るなよ」

「早く、浴衣姿見てもらいたくて。響に」

「似合ってる、可愛いよ」

「嬉しいっ」


あさ美は、学校の女子の中でも可愛い方だ。

性格も良い。

あさ美、俺のために浴衣着てきてくれたのかな。

その気持が申し訳なくなる。


奏ちゃんに出会っていなかったら。

多分あさ美と付き合っていただろう。


「花火大会楽しみだね!」

「うん」


あさ美がはしゃいでいる。

こんな楽しそうなあさ美を寂しさを埋めるためだけに利用して、はいサヨナラ、なんて出来るのか。

脈がない奏ちゃんのことなんて忘れて、あさ美と付き合った方が幸せなんじゃないか?


なんて都合の良い考えが頭をよぎる。

また俺は逃げようとしている。

始めたのが俺なら終わりもきちんとしなきゃ。


もう恋愛なんか二度とごめんだ。

ごめんな、あさ美。


花火大会の会場に着くと、楽しそうなカップルや家族連れ、友達同士でワイワイ来ている奴らでごった返していた。


あさ美と俺も楽しそうなカップルに見えるのかな。


毎年、この川の土手で行われる花火大会は遠方からはるばる来る人もいるくらい大きな大会だ。


奏ちゃん。会えるわけないよな。


せめて今日はあさ美が楽しく過ごせるよう、奏ちゃんのことは頭から消そう。


「響!ねぇ、たこ焼き食べたい!屋台行こー」

あさ美が目を輝かせて言う。

楽しそうだな。


「屋台もすごい混んでるよ?」

「じゃあさ、手繋いでいこ」


俺はためらったけど、凄い人混みだし離れても大変なので手を繋いだ。


あさ美の頬が赤らんでいる。

嬉しそうな顔のあさ美を見ると辛くなる。


俺はこれから、こんな良い子を傷付けるのか?

俺、なんてことしたんだよ。

結果なんて最初からわかってたじゃん。


奏ちゃんより好きな人なんて出来るわけがないんだ。


屋台への道を歩きながら思わず言ってしまう。


「あさ美…ごめんな…。」


賢いあさ美のことだ。

何かを察したのだろう。


「今日だけは恋人だよ?」

と言って、俺の手をさらに強く握った。


屋台の方に行くとさらに人混みがすごくなる。

「なぁ、あさ美。会場出てからなんか食べない?」


「えーやだー。屋台で食べるのが夏の思い出なんだよ!」


「しょーがねーなぁ」

とあさ美の手を引っ張って人混みを抜ける。


「響!あっちの屋台なら空いてる!」


出来るだけ空いている店に行こうと道を横切ると、

あの人の声が聞こえた気がした。


「響!」


そんな訳無いよ、こんな人混みで。


俺は振り返った。


どうして会ってしまうんだ。

どんな人混みでも、俺は、貴方は見つけてしまうんだ。互いを。


「奏ちゃん…」


花火の音が遠くで聞こえた。

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