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次の日の朝、私が食堂に行くとジェラードがパンを食べていた。
今はジェラードも、お屋敷に部屋を用意してもらっているそうだ。
「アイナちゃん、おはよう!」
「おはようございます。何だかお久し振り、ですね」
「あはは、いろいろと出掛けてるからね~♪」
「最近は何をしているんですか?」
「ちょっとした調べ物かな? 教えても良いんだけど、変な顔されるから止めておくよ♪」
「へ、変な顔なんてしませんよ!?」
「そう? それじゃ教えてあげるね。
今は、人魚伝説を調べているんだ」
「は?」
……人魚? ここにきて、何で突然のファンタジー展開なの?
「ほら! やっぱり変な顔した!」
「っ!! ……す、すいません。ちょっと意表を突かれたので……」
「まぁ、今のところは役に立たないとは思うけどね。
でも僕は、二手も三手も先を読むのが仕事だから♪」
「はぁ……。二手か三手か先に、人魚伝説が必要になることがあるんですか……?」
ジェラードは一体、どういう未来を見ているんだろう。
もしかして異種族ハーレムを作るとか……?
まさかジェラードがそんなことをするなんて――……いや、すごくあり得そうだ。
「……アイナちゃん、何か変なことイメージしてない?」
「察しが良いですね。……じゃなくて、してませんよ?」
「その棒読みの台詞は何かな~……?
――さて、それじゃ僕はそろそろ行こうかな。これから、伝説に詳しい人に会いにいくんだ♪」
「へ~。私も行ってみたいですけど、工房に行く予定があって」
「話は聞いてるよ。『野菜用の栄養剤』を大量に作っているんだよね?
野菜も十分に流通するようになれば良いんだけど」
「きっと大丈夫ですよ。栄養剤の効果はガルーナ村で実証済みですから!」
「クレントスは、それに頼るしかなさそうだからね。
ちなみにクレントス以外のところでは、他の国からの輸入で賄おうとしているみたいだよ。
全部を賄えるわけでもないだろうけど」
「クレントスについては私が頑張るので、クレントス以外は国の方で頑張って欲しいですね」
……『野菜用の栄養剤』に頼るか、輸入に頼るか。
前者であれば農家の人にも収入が出来るし、やっぱりそっちの方が良いよね。
後者であれば、この国のお金が他の国に流れちゃうわけだし。
「――っと、それじゃ本当に行くね。
アイナちゃんも頑張って!」
「はい、ジェラードさんも頑張ってください!」
ジェラードは挨拶をすると、機嫌の良いまま食堂を出て行った。
これから話を聞きに行くのって、女の子だったりするのかなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食を取ったあとはいつも通り、ルークとエミリアさんと一緒に工房へ向かう。
「そういえばエミリアさんも、各地の伝説を調べてましたよね」
「最近は時間を取れていないのですが、そうですね。
王都を出てからは全然ですけど……」
「何やらジェラードさんが人魚伝説を調べているそうなんですよ。
ルークは何か知ってる?」
「いえ、この辺りで……というのであれば、特には。
一般的なおとぎ話、くらいでしょうか」
「んー。
ジェラードさんは、ここら辺のものを調べてる感じだったかな……?」
「でも何で突然、人魚伝説なんでしょうね。
クレントスは今も大変な時期なんだから、もっと他にもやることがあるような……」
……その気持ちは分かる。
王国軍との戦いが終わったとは言え、やるべきことはたくさんあるのだ。
そんなときに人魚伝説だなんて――
「でもまぁ、ジェラードさんのことだから、きっと何か理由があるんでしょう。
私たちは私たちで、できることをやっていきますか」
「そうですね! それでは今日も、私たちは工房を厳重にお護りします!」
「ところで2日ほど護って頂いてますけど、怪しい人はいました?」
「まったくいませんね!」
……平和そのものである。
でも私も立場が立場だから、油断ができないんだよなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
工房に着くと、いつものメンバーで早速作業を始めることに。
「師匠! 今日の素材は500個分です!!」
「どんどん増えていきますね……」
一昨日は100個分、昨日は300個分、そして今日が500個分である。
『野菜用の栄養剤』を作るのは一瞬だから、問題は説明書の方だ。
さすがにここまでくると、印刷でこなしたいという気持ちが生まれてくる。
でも印刷って、錬金術とは相性が悪いんだよね。私の錬金術は、デザインみたいな細かい調整が苦手だから。
「……まぁ、根性で頑張りますか」
「「「はい!!」」」
――根性で頑張った結果、納品までに完成したのは90枚。
徐々にスピードアップはしているものの、作り終えたあとはやっぱり手がしんどい。
「……はぁ、今日もお疲れ様でした。
でもよくよく考えてみれば、午後の何もない時間に説明書を作っておけば良いかもですね」
「「「確かに!!」」」
何で私たち、タイムアタックみたいに説明書を作っていたんだろう……。
ひとまず今日の夕方までは、説明書を作ってもらうことにした。
ただ、説明書は必須ということでもなくて、使い方を間違えないでもらうためのものだから――情報がしっかり伝われば、説明書は作らなくても良いんだよね。
無駄な仕事をしていても仕方がないし、そのうち配る人にヒアリングをしてみたいところだ。
「説明書を作らないで良いならすぐに終わるから……これだけ、何とかしたいですね。
まぁ、今日は一旦終わりますか」
「はい! 師匠、お疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
工房からお屋敷に向かっていると、元獣星のグレーゴルさんがポチに乗って飛んできた。
「アイナ殿にエミリア殿、ルーク殿。
屋敷に戻るところかな?」
「グレーゴルさんも、お久し振りですね。
今は用事が終わったので、帰っているところです」
「グレーゴルさんとポチは何をしていたんですか?」
「うん、アイナ殿が作った『野菜用の栄養剤』を配っていたんだ。
大量に運ぶのは馬車を中心としたチームなんだが、僻地にぽつんとある農家もあってなぁ。
そういう場所は、俺がメインで運んでるんだよ」
「おぉ、ポチの機動力を上手く活かしていますね!」
「そういうことだな!
ところで配布のついでに、こんなものを手に入れてきたんだ」
そう言いながら、グレーゴルさんは土にまみれた卵を鞄から出した。
「たまご、ですか」
「これは魔獣の卵なんだ。きっと、鳥系が生まれると思うぞ!」
「おぉ……。
ところで話は変わりますが、ポチも卵から生まれたんですか?
いかにも合成獣……って感じですけど」
「ああ、ポチは魔術を絡めているんだ。
魔獣の卵をいくつか用意して、俺のスキルを加えながら孵化させるとこうなる」
「あ、そういう感じなんですね」
「俺もいろいろ研究中なんだが、その分いろいろな可能性があるぞ!
アイナ殿には、餌とか装身具とかで協力をお願いしたいんだ」
「お願い?」
不意にでてきた言葉に、エミリアさんが尋ねた。
「以前に約束をしてまして。
グレーゴルさんのお手伝いをすることになっているんですよ」
「早くポチの仲間を育てないといけないからな!
もし良ければ、エミリア殿とルーク殿も手伝ってくれると嬉しいぞ!」
「わーい、お手伝いします!」
「私で役に立つのであれば……?」
ノリノリのエミリアさんに、少し戸惑うルーク。
……ルークはあんまり、ノリで約束するタイプじゃないからね。