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――それから1週間は、基本的に同じことの繰り返しだった。


午前中に『野菜用の栄養剤』を作って、昼過ぎに納品をして。

今まで頑張って作っていた説明書は、口頭での説明が上手くいっているとのことだったので、作ることを止めることにした。


必要になったときは残りの余っている分を配って、それでも足りなければ各自で作成してもらう。

説明書に書いてあるのは簡単な注意だけだから、わざわざ私たちがやらなくても良い、というのが結論だった。


ちなみにこの1週間で、変わってきたこともあった。

以前、酒場であったことの延長のようなものなんだけど――



「うがっ!?」


工房からの帰り道、ルークの鞘が宙を踊った。

そしてそのあと、一人の男が地面に倒れ込む。


「……はぁ、またか。ルーク、ありがとね」


「いえ、問題ありません。エミリアさんも、とっさの防御をありがとうございます」


「わたしのは保険ですけどね。アイナさんもいつの間にか、上手く避けるようになりましたし」


「ふふふ、褒め言葉として受け取っておきましょう♪」



最近、私たちはクレントスの街中でも襲われることが多くなった。

『神器の魔女』に『竜王殺し』。エミリアさんの『暴食の賢者』はまだマイナーだとしても、そんな連中にわざわざ襲い掛かるのは――

……とは言っても、その気持ちも分かると言えば分かる。


「私の懸賞金が、金貨5万枚だからねぇ……」


慣れた手付きで男を縛り上げるルークを眺めながら、私はしみじみと言った。

今現在、私が王国から懸けられている懸賞金は金貨5万枚なのだ。


元の世界で言うと、大体25億円くらい。

そんな懸賞首が街中をのこのこと歩いていれば、襲いたくなってしまうのも無理はない。


まぁ私たちを倒したところで、クレントス以外の場所で引き渡さなければいけないし、現実的な話ではないんだけどね。



「……それにしても、『神器の魔女』の懸賞金としては安くないですか?」


エミリアさんが突然、物騒なことを言い始めた。

ネームバリューや私たちの強さから考えれば、確かに割は合わないかもしれない。

何せまともにやったら、神器持ちのルークともやり合わなくてはいけないのだ。


「そうですね。懸賞金の上乗せを頼んでおきますか?」


「ははは、アイナ様。お戯れを」


「そう言うルークは金貨2万枚、エミリアさんは金貨5000枚なんだよね」


「わたしだけ桁が違います! 何だか悔しい!」


エミリアさんも今の状況には慣れてしまったようで、変なところに文句を言い出す始末だ。


「やっぱりふたつ名が大切なんですよ。

『暴食の賢者』をもう少し広めれば――」


「もっと可愛いのが良いですっ!!」


「『ぼーしょくのけんじゃ』?」


「言い方で誤魔化さないでくださいっ!?」


残念、誤魔化せなかったか。

でもこのまま頑張っていけば、いつかきっとエミリアさんのジョブチェンジも果たされることだろう。

……まぁ、無理はしないでもらいたいけどね。司祭のエミリアさんだって、やっぱり格好良いわけだから。



「さて、ルークの方はどんな感じ?」


「はい、暴漢は木に縛りつけておきました。あとは放っておきましょう」


「巡回してる騎士団の人が見つけてくれれば良いんだけどね。街の人だと、間違えて助けちゃうかもしれないし。

何か目印を付けておいて、見つけた人が騎士団に引き渡してくれたら報酬……みたいな感じにはできないかな」


いわゆるボーナスキャラみたいな演出をしてみる……というか?

私たちは敵を倒して縛りつけるだけで良いし、見つけた人は一手間掛ければお金が手に入る。騎士団の人だって、きっと仕事が楽になるだろう。


「そんな制度は聞いたことがありませんが……。

しかしアイナ様なら、多少の無理は通せそうですよね」


「私がというか、アイーシャさんにそうしてもらおうかな? 私はただのお客さんだし」


「お客さんとは言え、アイーシャさんにお願いできる立場というのも凄いと思いますよ……?」


「そうなんだよね、今やクレントスの暫定統治者なわけだし……。

最近は他の場所でも人気なんだっけ?」


「はい。農家を中心に、支持率がうなぎ上りしているそうです。

アイナ様のお力もあると思うのですが」


「まぁまぁ。私のことは一旦置いておいて」


冷害からの大凶作に備えるため、私の作った『野菜用の栄養剤』は農家に無償で提供されている。

しかしそれには条件があって、収穫した野菜は、自分たちが食べる分以外は定められた値段で売る必要があるのだ。

そしてその売却先は、クレントスのみ。


農家はこの寒さの中、野菜を作ることができる。

クレントスは大凶作が見込まれる中、食糧を確保することができる。

アイーシャさんは、周辺地域の信頼を得ることができる。


そんな感じで、まさにこの三者はwin-win-winの関係なのだ。



「でもこのままいけば、平和な秋が迎えられそうですね。

さすがに収穫祭をやる場合ではないでしょうけど」


「おお、収穫祭というものもあるんですか。

私はそういうのに参加したことがないから、ちょっと残念かな」


「え? アイナさんの国は、収穫祭をやらないんですか?」


「私は都会の方に住んでいて、まわりでは作物を作っていなかったんですよ。

……いや、全国的にあまりそういうのも無いのかな? ちょっと分からないですけど」


こと日本において、いわゆる収穫祭をやっているイメージは私の中には無かった。

もしかしたら存在はしていたかもしれないけど、私は歩くwik○pediaではないのだから、今さら詳しいことは分からないのだ。


「それなら、来年の楽しみに取っておきましょう。

そのときはきっと、毎日が平和になってるはずですよ♪」


「あはは、そうですね。

1年以上、先ですけど」



……1年。

そのときって、私は何をしているのかな。


私がこの世界に来てから、まだ1年も経っていない。しかも最初は、今のような状況になるだなんて思ってもいなかったわけだ。

きっと1年後も同じように、今からでは想像が付かない状況になっているのだろう。

はてさて、本当にどうなっていることやら……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




アイーシャさんのお屋敷に戻ると、元獣星のグレーゴルさんがポチと庭で語らっていた。


「アイナ殿、やっと戻って来たな! 頼んだものはできているか?」


「あれ? 受け渡しって今日でしたっけ?」


「いや、まだではあるんだが、急に入用になってな」


「え?」


「ふふふ、じゃじゃーん!!

こいつを見てくれよ!!」


グレーゴルさんは嬉しそうに言いながら、胸元から小さな鳥を出してきた。

どことなく光る青色の羽を持った鳥。キラキラと小さな光を振り撒きながら、何ともレアっぽい――もとい、価値が高そうな雰囲気を放っている。


「おぉ……! もしかして、先日の卵から|孵《かえ》ったんですか?」


「そうなんだよ。俺もこんな鳥、初めてなんだけど……。

まぁそれはそれとして、孵ったなら餌が必要だろう? 折角ならアイナ殿にお願いした、優秀な餌をやりたくてな!」



餌……というのは、王都でププピップ用に作った『高栄養飼料』のことだ。

この飼料は育成にも使えそうだったので、今回試してみよう、という流れになっていたのだ。


「保管しておく場所は用意できてます?」


「ああ。近くに倉庫を借りたから、そこに置いておこうと思うんだ。

ここに出してくれれば、俺たちで勝手に運んでおくから」


「グリュ♪」


グレーゴルさんの言葉に、ポチも可愛く鳴いてきた。

きっとポチも『高栄養飼料』を食べるのを楽しみにしているのだろう。


私は作っておいた分の全てを、アイテムボックスから出してあげた。


「……ところでその小さな鳥さん、名前は何て言うんですか?」


「よくぞ聞いてくれた!

今回はいろいろと世話になったから、是非アイナ殿に付けてもらおうかと思ってな。

アイナ殿、名付け親になってはくれないか?」


「え? 良いんですか?」


「もちろんさ。ただし、4文字以内で頼む」


「っ!!」


……4文字以内。それだけで、選択肢は一気に減ってしまうなぁ……。

私が知る限り、グレーゴルさんの仲間の名前はポチ、ミケ、シロ、チョコ、ミルク、カカオ、ジュゲム、エクスカリバーだから、それとは被らないようにして――


「……ルーチェ?」


「ほう!」


「アイナさん、可愛い名前を持ってきましたね!」


「確か『光』って意味がある言葉なんですが……。

何だかこの子、光を振り撒いているし」


「なるほど、ルーチェか……。良い響きだと思うぞ!

俺には出てこない名前だな!」


「ピィッ」


嬉しそうなグレーゴルさんの手の上で、ルーチェが可愛い声で鳴いた。

多分、ルーチェも喜んでくれているのだろう。……ひとまず、そう思っておこう。


それにしてもこの子、大きくなったらどうなるのかな?

今でも綺麗なのに、もっと綺麗に……? うわー、何だか凄く楽しみだなぁ。

異世界冒険録~神器のアルケミスト~

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