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日曜日。前日土曜日の終わりに抗っていた海は昼前に起きた。眠い目を擦りながら歯を磨き顔を洗う。
冷蔵庫を開ける。相変わらず缶ビールのマンションと化している。
冷凍庫を開ける。冷凍食品とアイス。閉める。
キッチンのシンクの上の戸棚を開ける。カップ麺と袋麺が目に入る。
「シーフード。…いいね」
青いシーフードのカップ麺を手に取り、カップ麺を包むビニール袋を
一人暮らしして1年目までしか使っていなかった菜箸で底の方に突き刺して破り開ける。
電気ポットのお湯の出る部分の真下にカップ麺を起き、ボタンを押してお湯を入れる。
意外と跳ねるもので、お湯が跳ねて顔に飛ぶ。
「あっつ」
顔を洗って目はだいぶ覚めていたが、今ので完全に目が覚めた。
リビングに持っていき、テーブルに置いてテレビをつける。
ザッピングする。しかしおもしろそうな番組はやっていない。
さっきのお湯のお陰で目が覚めたはずなのだがあくびが出た。
仕方ないのでnyAmaZon(ニャマゾン)プライムを開き、百舌鳥さんの同席酒場のお気に入り回を再生した。
カップ麺の蓋を開き、お箸でかき回してから、麺を箸で持ち上げ
「いただきます」
と呟いて麺を啜る。シーフードのカップ麺特有の香り、そしてどこか塩味を強く感じる味。
「うまっ」
と静かに感動しながらお昼ご飯を食べる海。その一方
「ふがっ…」
と目を覚ます風天(ふうあ)。
「…眠い眠い」
と言いながら二度寝をする風天。
その頃海綺(うき)は家族とお昼ご飯を食べ終え、部屋でギターの練習をしていた。
「んん〜ん〜んん〜ん〜んん〜」
アコースティックギターの綺麗な音色、ではなく
サウンドホールと呼ばれる穴にタオルを入れているため
あのアコースティックギターの響く、綺麗な音色ではなく
ただただ弦が弾かれる端的な音。しかしメロディーはできている。
「あとは歌の完成度」
と呟きながら、ワイヤレスヘッドホンを耳に装着し
スマホでMyPipeの「弾きたいやつ」と書かれた再生リストの中から
今弾いている楽曲を再生する。
「出だしは割と簡単なんだけど…」
ギターを持ちながら、でもギターを弾くわけではなく
サウンドホール周辺を右手の人差し指でトントンしながらリズムを取る。
「あぁ〜ここね。Aメロのこのリズム。…ギターだと割と簡単なんだけど…」
と言いながらスマホの左側をダブルタップして10秒戻して改めて聴き直す。
「ここね!ここここ。…ムズイんよ。最近の曲全部」
全部ではないが、たしかに最近は難しい曲が多いのは確かである。
「いい?難しい曲=いい曲じゃないからね!高い声出せる=いい歌手でもないから!…のはず」
と自信のない文句を言いつつも練習する海綺(うき)。
アコースティックギターなので基本的にバラードを歌うことが多い海綺。
しかし自分の音域を広げたいため、頭おかしいくらいのメロディーに
頭おかしいくらい高いキーの歌にも挑戦しているのである。その後も練習を続けた。
カップ麺を食べ終えた海は、カップ麺の汁をシンクに捨て、カップ麺の容器に水を入れる。
「さてと…。貴重な休日の最後。なにをするかな。有意義に過ごさないとな」
と言いつつも有意義な休日を過ごしたことなどほとんどない。
この日も結局パスタイム スポット 5の電源を入れ、トップ オブ レジェンズを起動して、ランクを回し始めた。
14時、午後2時過ぎに起きた風天。眠い目を擦りながら洗面所に行き、歯を磨き、顔を洗う。
そこそこ目が覚めたので財布とスマホだけ持って、部屋着のままコンビニへ行く。
Heaven in Heaven(ヘブン イン ヘブン)でチキンとバンズを買い
家に帰ってバンズにチキンを挟んで食べた。
もちろん風天の好きなアメリカンプロレスをAmeba(アメーバ)で見ながら。
風天の好きなアメリカンプロレスにはブランドと呼ばれるものがある。
青いブランドと赤いブランド。そして黄色いブランドもある。
さらに月に1回開催される大きなイベント、PPVやPLEと呼ばれるものがある。
青いブランドは2時間いかないくらい。
赤いブランドは3時間いかないくらいの放送時間。黄色いブランドは1時間ほど。
そして大きなイベント、PPVやPLEと呼ばれるものは3時間以上がざらである。
片手で食べられるハンバーガー的なものをペロッっと食べ、プロレスを見続けた。
「上がって下がって上がって下がって」
ランク戦で初動死し、ランクを上げるためのポイントが下がった海が呟く。
「一向にぃ〜上がらぁ〜ないぃ〜」
またランク戦の準備完了を押し、マッチメイクが完了。
海のアカウント「umi-922-umi」そして仲間のアカウント
「Pigeon-Runway-MADOKA」「Im.no1soccerplayer-UNZen」。
「名前長っ」
しかし、この「Pigeon-Runway-MADOKA」というプレイヤーがそこそこ上手く
3人しっかり生き残ってチャンピオンを獲ることができた。
ベランダに出るガラス製のスライドドアからはオレンジ色の光が部屋に差し込み
部屋の中はそろそろ明かりをつけなければ見づらいほどになっていた。
「よしっ」
ギターケースやマイク、マイクスタンドなど機材を持って家を出る海綺(うき)。
「んん〜…。別に彼女も、いい感じの人もいないけど
なんかいい感じのテーブルランプでも買いに行こうかな」
プロレスを見終えた風天(ふうあ)がそう呟き、部屋着からテキトーな服に着替える。
スーツでもないのに、なぜか会社員感が滲み出る風天。
近所のコンビニに行く感覚で財布とスマホだけを持って家を出た。
ワイヤレスイヤホンを耳に突っ込み、お気に入りの「More fair」「LCS」
そして「1 Sturdy arrows」の曲をシャッフル再生しながら電車に揺られ、真新宿まで向かった。
家具屋さん、雑貨屋さんを巡る。
プロレスともう1つ好きなもの。それが家具との出会いを求めに街に繰り出すこと。
もちろん今の時代、ネットで「いい感じのランプ オレンジ」なんて検索をすれば
それらしいのがわんさか出てくる。風天もそれをしていないわけではない。
ネットで検索してそれをネットで注文したり、店舗に足を運んで、実際に見てから買うこともある。
しかし直接家具屋へ出向き、運命的な出会いがないかを探すのも、これまた一興。
たまぁ〜に雑貨屋さんなどで、これ売ってんのかなぁ〜っていうものを見かけ
「これって売り物です?」
と聞いて
「あ、売ってないんですよー」
と言われたときのドタイプの女性がいたが彼氏がいたような失望感。逆に
「あ、売ってますよ」
と言われたときの高揚感。これがたまらない。らしい。
その日も大手の家具屋さんから小規模な小物屋さんを巡った。
しかしピンとくるライトは見つからなかったらしい。
風天は基本的に夜プロレスを見るとき、部屋の明かりは基本的に消す。そして間接照明だけを灯す。
しかしリビングの四隅の間接照明だけではなんとなく物足りず
しかもその間接照明が思いの外、変に明るかったりする。
なので小さなサイドテーブル付きのいい感じのオレンジ色のランプを探していたが、その日には出会えず
「ま。また出会えるさ。…今度の…土日…遠いなぁ〜」
と思っていると思いきや、口に出しながら真新宿の街を駅まで歩く。
すると弾き語りをしている人が目に入った。海綺だった。
「お」
立ち止まって聞いている人が1、2、3人。風天もワイヤレスイヤホンを外し
立ち止まって聞いている人4人目となった。海綺の歌声は透明で柔らかく
海綺の好きな1 Sturdy arrowsのような力強さこそなかったが、まるでその場を包み込むような歌声だった。
その歌声にアコースティックギターがまた相性が抜群。
1曲が終わり、立ち止まって聞いていた人からパラパラと拍手が上がる。
風天も拍手を贈る。海綺が拍手してくれている人それぞれに視線を配り、お辞儀をする。
風天とも目が合う。ハッっとした表情を一瞬してからニコッっと微笑みお辞儀をした。
海綺はアーティスト名と曲名を告げ、アコースティックギターを弾き始めた。
アコースティックギターのアンティークのような響く音色が
雑踏の音をスーっとかき消すように、海綺の世界に誘うように辺りに鳴り響く。
前奏が終わり、そこに海綺の声が加わる。観客はたったの4、5人。
しかし、まるでそこが大きなホールのように一気に海綺の世界になる。
夢中で聞いており、あっという間に3分ほどの曲が終わった。
風天も他の人も夢中で聞いており、曲が終わったのも数秒気づかず
曲が終わってから変な間が空いて、拍手がパラパラとあがった。
風天も拍手をした。本当は初めて聞いた海綺の素晴らしい歌声をもう少し聞いてみたかったが
知り合いがいる中歌うのはあれだろうなと思った風天は海綺に近づく。
財布から千円札2枚を抜き取り、中腰になりギターケースに入れる。
「あ、え。いいんですか?」
「うん。めちゃくちゃ上手いね。1曲千円として2千円。今度海も連れてくるね」
「それは、…恥ずかしいかもです」
と笑う海綺。
「まだ続けるの?」
「はい。もう少し」
「じゃ、頑張って」
「ありがとうございます」
海綺の前のちょっとした広場を抜け、雑踏に加わる。
「あれでプロになれないって、歌の世界は…」
ワイヤレスイヤホンを耳に突っ込み、端に寄って立ち止まり、スマホで音楽をシャッフル再生する。
「厳しい世界なんだねぇ〜」
と言いながらスマホでLIMEのアプリを開き、海とのトーク画面に入り
風天「天使の歌声を聞いた」
と送って真新宿の駅へと歩き出した。
「天使の歌声?なんだそれ」
コンビニのお弁当を食べ終え、テレビがコマーシャルに入って
スマホの通知に入っていた風天からのメッセージを確認した海。
海「ついにお迎えが来たか」
と返信をした。世界の果てバラエティを見終え
ドラマも、そんな真剣には見ていないがビールを飲みながらなんとなしに見た。
21時、日曜夜9時からのドラマも終わり、いよいよ22時、10時台に入った。
そして日曜の22時台のドラマは22時15分、もしくは22時半から始まるので
それまでにお風呂に入った。濡れた髪を乾かし、冷蔵庫から冷え冷えの缶ビールを取り出し
カップシュペリガリ。プルタブを開け、喉に流し込む。
「っ…はぁ〜…」
お風呂上がりのビールは自然と声が出る。それが世の常。
「はぁ〜…うっま」
リビングへ行き、ドラマを見ながらビールを飲む。
また明日から仕事仕事の1週間
「土日が遠いわ」
まるで登校時から家に帰りたいと思っているような高校生のように
まだ日曜なのに次に土曜日を心待ちにする海。
金曜の夜や土曜の夜は次の日が休みだから、貴重な休みを堪能するため夜中まで抗っていたものの
次の日は月曜日。どう頑張っても月曜日。何回スマホでカレンダーを確認しても月曜日。辛い辛い月曜日。
22時半からのドラマを23時半まで見ていたものの
次の日が月曜日であることを考え、ドラマの内容など右の耳から入り
脳みそを1周して左の耳から出るほど集中できていなかった。
ビールもただただなんとなく飲んで空き缶を少し凹ませて
大量の空き缶の先輩の元へと見送る。カラン!カラン、カラン!
「うるさ」
投げるからである。明かりを消してベッドに入る。スマホのブルーライトで照らされる海の顔。
風天「おい!まだお迎えは来ないわ!」
海「あ、そーゆーんではなく?」
風天「違います。今度一緒に聞けるかもね」
海「天使の歌声ってそんな簡単に聞けるもんじゃないだろ」
風天「まあまあ。楽しみにしとけって」
海「明日から月曜よ」
風天:ピアスをした可愛い男の子のちびキャラが耳を塞いでいるスタンプ。
海も猫が耳を塞いでいるスタンプを送った。電源を切り充電ケーブルに繋ぐ。
「嫌だなぁ〜。月曜日」
と呟いて眠りについた。