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「その言葉が、なんかさ、やけに響いちゃって。その時のオレも自分が好きじゃなかったから」
なんか少しオレと同じ空気を纏っているような、勝手にそんな感じもして。
「そう、なの?」
「うん。実は家庭環境がまぁ色々特殊で。昔から決められたレール歩かされて自分の意志もなくてさ。やる気どころかやりたいことも欲しいことも望むことなんて特になかった。親の愛情もよくわからなくなって、自分の存在意義っていうの?なんかそういうのが疑問に感じて」
何をしたって結局は決まった道に進むしかなくて。
だからと言ってその道を外れるほどの勇気もなくて。
結局その場でただもがくしかなかった。
そんな自分にかけられてるプレッシャーも重荷も負担でしかなかったのに、取り払うことはしようとしなかった。
「なんかもうどうでもよくなってた。自分も周りも。多分このまま状況なんて変わらなくて、オレの意見なんて、望んだことなんて何も通ることもなくて、ただその決められた人生を歩むだけだと思ってたから」
だから何に対してもいい加減な生き方しか出来なかったのかもしれない。
仕事に対しても、女性に対しても。
「透子のさ、『自分に嘘はつきたくない。だから自分をもっと好きになりたい』って言葉が、ずっと忘れられなくて」
だから、その言葉がずっと残ってた。
結局オレはある意味自分に嘘をついて誤魔化して、その現実を見ないフリをしてた。
そんなことしたって何も変わりはしないのに。
だけど、透子のその言葉のように、自分を誤魔化すことはやめて、自分を好きになりたいって思った。
「その時にさ、透子。あのネックレスつけてたんだ」
「私がご褒美で買ったって言ってたやつだ」
「そう。そのネックレスのことも話してくれて、自分にとっては今そのネックレスが自分に力をくれる頑張れる理由だって」
そしてその時に衝撃を受けた。
それが母親のブランドのモノだってわかって、なんか言葉に出来ないモノを感じた。
「だからオレにもそんな頑張れる理由をまずはゆっくり見つけてみたら?って言ってくれて」
なんかその言葉が寄り添ってくれてるような気がして。
どう見てもやる気のないいい加減なヤツだったのに。
その時の透子はちゃんとオレに気持ちを返してくれた。
「うん。それ。覚えてる」
「えっ? ホントに!? 覚えてんの?」
まさか透子が覚えてるなんて思わなかった。
「だって。そんな話したの樹だけだもん」
「マジか・・・。覚えてくれてたんだ・・・」
そっか。
あの時のオレ、情けない自分だったけど、それでも透子の中の記憶にも存在出来てたんだ。
それだけで、なんかバカみたいに嬉しくなって胸の奥が温かくなった。
「うん。なんか樹は他の人とは違ったっていうか。なんとなく。あの時の彼なら伝わるような気がした」
「だね。伝わった。かなり、衝撃的に」
きっとオレにとってあの時の透子との出会いも、その時の言葉も、すべてが衝撃的だった。
「そんなに?(笑)」
「ホントに。だから、あの時から、オレの頑張る理由が、透子になった」
その時はまだわからなかったその理由。
まだ見つけられなかったその理由。
だけど、透子に出会ってからその理由が透子になった。
「・・・え?」
「そこから変わったんだ。今のオレに。透子にいつか釣り合う男になりたくて。いつか透子を振り向かせるために」
「樹・・・」
「それからずっとオレに力をくれて、ここまで頑張れるのは透子がいるから」
透子に出会えたから、透子がいてくれたから。
何もなかったオレに光を与えてくれた人。
今の自分でも大丈夫だよと勇気づけてくれた人。
そして今の自分はダメなんだと、もっと成長した人間にならなきゃいけないと気付かせてくれた人。
透子にとっては何気なく言った言葉だったとしても。
間違いなくオレにとっては自分を変えてくれた言葉で。
そんな透子に近づきたくて、オレを知ってほしくて。
どうしようもない自分からここまでの自分になれたのは透子のおかげ。
透子がオレの心も人生もすべてを変えてくれた。
「だから。これからは。オレが透子の力になれる頑張れる理由になりたい」
オレにとって、透子がそうであるように、これからはオレが透子にとってそんな存在であるように。
「今の私が今の自分を好きでいれるのも、毎日頑張れるのも樹がいるからだよ?」
だけど透子は笑顔でそんな言葉をくれる。
「嬉しい」
透子の中でオレがそんな存在になれていること、そんなオレに今はなれていることが何より嬉しかった。
「ここまですっげー時間かかったけど(笑)」
だけどオレにとってはそれだけ時間をかける必要があった。
それだけの時間がなければ今のオレには変われなかった。
「樹。ありがとう」
「ん?」
「私に樹の存在気付かせてくれて」
「こちらこそ。オレを変えてくれて、ありがとう」
透子がいなければきっと今のオレは存在していなくて。
いつまでたっても、自分を自分で好きになれない人間のままだった。
オレと出会ってくれてありがとう、透子。