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自創作月光

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自創作月光

4 - 第4話

2025年12月19日

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窓の外で、秋の風がカーテンを揺らしていた。

杠は机に突っ伏したまま、溶けきらないコーヒーを睨んでいる。

 もう何度目だろう。香りは立っているのに、口に含めば苦味だけが残る。日常は平凡で、静かで、それなのに胸の奥底はいつもざわめいていた。


 ――思い出すのだ。あの人を。


 姉の飯名由鶴。すべてを超越する天才。

 幼い頃、杠は姉と同じ机に向かい、同じ課題を与えられていた。しかし結果は常に一方的だった。由鶴は数分で解き、杠は夜を徹しても追いつけない。

 親戚は、教師は、隣人までもが姉を褒め称えた。

「由鶴ちゃんはすごい」「神童だ」「未来の光だ」

 その言葉の影で、杠の名が呼ばれることはなかった。


 最初はただ、羨ましかった。

 けれどやがて、それは歪んだ感情へと変わった。

 「どうして自分ばかり置き去りにされるのか」

 「どうして自分には目もくれないのか」

 ――そして、いつしか姉を恨むようになった。



 転機は、突然訪れた。


 政府。

 国民の幸福を守ると謳いながら、人体実験や人材収容を行っていた。

 由鶴は――その才能が「政府に障害をもたらす」と判断された。


 ある日、白い部屋に連れ込まれた姉の姿を、杠は記憶の底に焼き付けている。

 首には爆弾装置。両手は鍵のない手錠で繋がれ、動きを封じられていた。

 それでも姉は、笑っていた。


 「ねーみて杠、おねーちゃんかっこよくない?」

 あの時も、同じ調子で。

 看守に連れて行かれる直前、振り返った笑顔が焼き付いて離れない。


 杠はその瞬間を忘れない。

 「これは、俺のせいだ」と心の底から思った。

 あの時、姉を憎んでいなければ。

 あの時、あの感情がなければ――。



 監獄での由鶴を、杠は想像することしかできなかった。


 鉄格子に囲まれた薄暗い房。

 爆弾首輪が冷たく光り、両手は鎖で塞がれている。

 だが彼女は変わらない。


 ユズル「てとー、また来たの?」

 テト「あなたは収監されているのですよ、33番」

 ユズル「あははっ。そーだっけ?」

 テト「当たり前です」

 ユズル「もー。相変わらずだね、テト」


 敦賀豊斗。由鶴幼馴染でありながら、今は政府の看守として由鶴を監視している


 仕事に忠実で妥協はしない。だが、由鶴にかかれば言葉ひとつで足元をすくわれる。

 強がってみせても、由鶴の言葉には常に翻弄されていた。


 由鶴は檻の中でも笑っていた。

人をからかい、挑発し、余裕を失わなかった。

 けれどその笑みの奥に――弟にだけ向けられたものがあるのを、杠は知っている。


世界は、何事もなかったかのように進んでいる。


 ――自分は、今こうして平凡に生きている。

 ――姉は、今も檻の中にいる。


 あの日、自分が抱いた憎しみ。

 あの日、姉を突き放した視線。

 それらがすべて、由鶴を檻の中へ追いやったのだと、杠は信じていた。


 けれど最後に残るのは、あの笑みだった。



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