コメント
2件
表現が多彩過ぎて本当に読んでてワクワクしっぱなしです……✨✨ 青さんの影響で人間らしくなっていく桃さんにも2人の雰囲気感も好きです💕 最後の空の見るシーン…文章だけで想像が出来てしまってそんな空を見て涙を流すのも心に刺さってしまいました😖💓
サブ垢から失礼します!最後桃くんは何を思って涙を流したんだろ…?そして、青くんが毎度のように布団の中に潜り込んで来るなんてとっても愛らしい!猫みたいw青くんはココアがおきにいりなのね‥メモっとこwこれからも更新頑張ってください!\(^o^)/
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
不良やさぐれ神父(桃)の元に、真面目な悪魔(青)がやって来た話(2話目)
人間らしい感情を持たずに生きてきた桃さんが、青さんに影響されて感情を持ち始める話です
「ないこ、遅刻する!」
遅刻って…悪魔にそんな概念あんのか。
吐息を漏らした俺を見向きもせず、まろはバタバタと忙しなく家の中を駆け回った。
ギリギリまで暖かい布団の中で惰眠を貪っていたせいで、完全に2人揃って寝坊してしまったみたいだ。
もうすぐミサが始まる時間。
大きな欠伸を漏らしながら手櫛で髪を撫でつける俺に、まろは神父服を投げて寄越す。
そんなまろはというと、悪魔でも「着替え」はするらしい。
勝手にクローゼットから取り出して着ていた俺のルームウェアを脱ぎ捨てると、無遠慮に後ろ手に放りなげる。
そしてどこから出したのか未だに謎でしかない黒い服を着る。
漫画なんかでよくあるみたいに何らかの力で一瞬後には服が変わるなんてことはあるわけもなく、人間と同じように袖に腕を通して、ケープを肩に羽織っていた。
「はよ行くで!」
…今日もまたお前は来るのかよ。
当たり前に見習い神父にでもなったかのように振る舞うまろが、俺を残して部屋を出ていく。
「おいー、ちゃんとドア閉めろよ」
あいつが通ったところ全て開けっぱなしの扉を見やり、苦笑い気味に呟くと俺もその後を追うべく立ち上がった。
まろがここへ来てから何度ミサがあったか、もう数えてもいない。
だけど確実に言えるのは、毎週毎週人が増えていっていること。
気だるげでやる気の感じられない神父一人だった教会に、長身の美形神父が急に現れたから噂にでもなっているのかもしれない。
これまで自動演奏で味気なかったパイプオルガンの生演奏。
うっとりと耳を傾ける若い女が、今も俺の前で頬を染めている。
「……」
無意識にちっと舌打ちが漏れた。
だけどそれを自覚してハッと我に返り、聖書を持つ手に力をこめる。
…今、自分は何にイラついた?
ついこの前まで俺に好意の眼差しを向けていた女たちの対象が、掌を返すようにまろに移り変わったこと?
それとも……?
ズクン、と胸騒ぎに似たような音を立てて鼓動が脈打つ。
思わず胸元をロザリオごと押さえた俺の前で、その瞬間、一つの影がふと足を止めた。
「神父様、いい顔をするようになったねぇ」
ミサが終わり信者たちが散り散りに帰って行く中、最後まで残っていた老婆がそう声をかけてくる。
腰が曲がりここまで来るのも一苦労だろう。
それでも毎週欠かさずに訪れる、昔から信心深い人だ。
「え」と目を瞠ると、顔の皺を更に濃くしてにこにこと笑う。
目を細め口元を綻ばせてできるその皺は、この人がこれまで歩んできた人生の喜びを印しているようだ。
「少し前より随分笑うようになったし、怒るようになったようだし…人間らしくなりましたね」
普通の信者ならとても神父に向かって吐けるセリフではない。
だけどそれが全て赦されてしまうような人だった。
言われた言葉を飲み込むまでに時間がかかってしまった俺を、老婆は「ふふふ」と品よく笑いながら見つめる。
それからゆっくりとした動作で身を翻し、教会の外へと向かって歩いて行った。
「ないこー、これもう片付けていい?」
ミサで使った聖書やら初めて訪れた人向けのリーフレットやらを指して、まろが後ろからそんな声をかけてくる。
「…ん、お願い」
そう答えながらも、老婆の姿が見えなくなるまで俺は茫然とそちらを見据えていることしかできなかった。
「今日寒ない?」
その日の夜、急に降り出した雨のせいでもうすっかり春だというのに冷え込み方が尋常じゃなかった。
ここへ来てからすっかりお気に入りになったらしいホットのミルクココア。
それにふーっと息をかけて冷ましながら、まろは木製のロッキングチェアをぎこぎこと前後に揺らしている。
それにつられるように後ろ側ではしっぽがぴょこぴょこと振れた。
この雨だと、せっかく満開になりそうだった桜も幾分か散ってしまうんだろう。
咲き誇る前に散りゆく運命の儚さ。
そんなものを嘆くほどの思い入れはなかったけれど、何故か胸の奥がジリと焦がすような痛みを訴えた。
…おかしい。
ここのところ自分の感情が理解できない。
楽しいと思うことも何かを欲しいと思うこともない人生だったし、この先もずっとそれが続くと思っていた。
何かを憂うなんて自分らしくない。
ただ自分の目の前にあるものを享受し、それ以上に希求するものなんてない。
何かに期待することも何かに絶望することも面倒くさい。
そうやってこれまで生きてきたはずだった。
「ないこ?」
返事をしない俺に、まろは小さく首を傾げた。
ココアをゆっくりと何回にも分けてすするのは、もうすっかり覚えたまろのクセだ。
猫舌なんだろう。飲める温度になるまで一生懸命冷まそうとする。
「ん、寒いね今日。…俺もう寝るわ」
短く告げて、くるりと踵を返した。
そのまま寝室の方へと足を向けた俺に「え、もう寝るん?」とまろは驚いたように声を上げる。
だけど振り向くこともせず、そのままリビングの扉を閉めた。
しまい込んでいた厚めの毛布を引っ張り出し、包まるようにしてベッドの上に横になる。
身を縮めるように足を曲げ、肩まですっぽりと覆った。
まるで自分の身を何かから守るように。
……何かって、何?
自問するけれど答えは出ない。
「ないこ」
キイと断りなくドアが開いたかと思うと、まろの声が耳に届いた。
薄く開いた目でそちらを見やると、まろはぴょんと床を蹴って宙に浮く。
そのままいつものように、ぷかりと舞うようにしてこちらまで飛んできた。
「寒い。入れてー」
「は!?」
驚いた俺が上体を起こすよりも早く、毛布が剥がされる。
そうしてぺらりとめくったその隙間から遠慮なく入り込んでくるものだから、俺は思わず目を瞠った。
「いやいやいや、何考えてんだよ! 寒いならクローゼットに毛布まだあるから出して使えよ!」
「だってないこの毛布が一番あったかそうやもん」
それ以上何かを言い返すよりも早く、まろは俺の隣にぽすんと滑りこんだ。
いつもなら客間のベッドかリビングのソファかで適当に寝ていたまろ。
確かに俺のベッドはキングサイズはあるから、大の男2人が並んでもまだまだ余裕はある。
あるけれど…。
でも、何が悲しくて男2人で添い寝しなきゃなんないんだよ。
言いかけたそんな文句は、隣の男のにこりとした微笑みで一蹴されてしまった。
思わず絶句して二の句を告げられなくなった俺に、まろが手を伸ばす。
髪に触れ、そこをさらりと梳くようにして撫でられた。
その瞬間に胸が大きな音を立てる。
ドクンなんてかわいいものじゃなく、どちらかというとズキンとした痛みに近かった。
「大丈夫大丈夫」
目を細めて笑うそんなまろの言葉に、「何がだよ」と言い返したかったのに声にならない。
そんなあやすような穏やかな声で俺に呼びかけるな。
まだ自分の感情に名前も付けられていないのに。
「うるせー」
代わりに憎まれ口をたたくようにして、ぐいとその尖った耳を引っ張った。
「いたいいたいいたい」なんて喚きながら本気で痛そうにまろが眉を寄せるから、俺はそこでようやく吹き出すようにして笑った。
この数か月で学んだことがある。
悪魔に甘やかしは禁物だ。
1度何かを許せばそれが「当たり前」になる。
ミサには絶対ついて来るし、ココアは毎晩せがまれる。
挙句の果てに、あの晩からすっかり毎日俺のベッドに忍び込んで眠るようになってしまった。
広めのキングサイズのベッドなのに、まろは眠っているうちにだんだん擦り寄ってくる。
ひどい時は真夜中目が覚めると抱き枕のようにバックハグされていた。
頭部にチョップして起こすと、「痛い!ひどない!?」なんて喚いていたけれど、完全に無視して再び眠りについたなんてこともあった。
ある日、いつもより少しだけ朝早く目が覚めた。
その日も普段より少し寒い日だった。
まだ覚醒しきらない頭で、それでもぬくもりを求めてしまったのはほぼ無意識だ。
二度寝できる時間なのは感覚で分かっていたから、ただ隣の体温を求めて手を伸ばした。
「……」
だけど、その手が宙を掻く。
何もない隣の空間。
寒々しいその事実に気づいて、俺は目を見開いた。
バッと勢いよく上体を起こす。
「まろ…?」
いつもそこにいて、俺が叩き起こすまで眠っている姿が今日はない。
夜中寝ている間にくすぐるように触れてくることがあるしっぽも、首筋を撫でる柔らかい青髪もない。
少し前なら当たり前だったそんな光景に、今ひどく動揺している自分がいる。
「まろ!?」
自分でも驚くほどの大きな声が出た。
眉を寄せて辺りを見渡す。
真っ暗な室内には気配一つなかった。
…嘘だろ。何で急に…?
いなくなるなんて一言も……っ
「ないこ?起きたん?」
茫然とベッドの上に座ったままだった俺に、部屋の入口からそんな声が降ってきた。
暗い闇のような室内だけど、それと同じくらい真っ黒なはずのまろの姿が、それでも俺にははっきりと見える。
「ちょうどよかった。ちょっと来て」
取り乱した俺の様子になんて気づいていないのか、のほほんとした口調でまろは言った。
ぴょんとこちらまでまた宙を飛んできたかと思うと、これまた断りもなく毛布ごと俺の体を抱き上げる。
横向きに背中と膝裏を支えるようにして抱き上げられ、腕はまろの首に回すように促された。
「な、に…どこ行くんだよ。自分で歩けるんだけど」
「歩けんとこ行くから、このままでいいよ」
とんと床を蹴る軽い音がしたかと思うと、まろの体と共に自分が宙に浮く。
そしてそのまま、まろは大きめの窓から外に出た。
いつの間に靴まで履いたのか、黒いつま先がさっきまでよりも一層力強く地面を蹴った。
一瞬で空を飛びあがる。
ぶわっと強い風が起こるのを感じて思わず目を閉じたけれど、まろに「ないこ、目開けて」と囁かれた。
ゆっくりと片目ずつ開く。
そんな俺の目に映ったのは、遥か向こうの空が宵闇の黒から濃紺へと色を変え、更にその下の地平線の辺りは紫に近いピンク色に染まり始めているところだった。
「……っ」
「綺麗やろ、明け方の空。森に囲まれたここからじゃ、人間やとなかなか見られへんよな」
初めて目にする壮大な美しさに、思わず息を飲む。
不敬にも程があるが、教会の上にある十字架に腰かけてまろはそんな自分の膝の上に俺を座らせた。
楽しそうに、宙に浮いた足をぶらぶらとさせながら。
「……」
ゆっくりとした時間の流れに応じるように…だけど確実に、段々と空の明るさが帯を成すように広がっていく。
ピンクからオレンジへ、そして白へ。
どれくらい眺めていたのか分からない。
移り変わりいくその様を、瞬きも忘れて見入ってしまった。
「ないこに見せたかったんよな、この景色」
楽しそうに笑うまろの声が、後ろ側から耳元で響く。
そんな優しい声音に応えることはできなかった。
そんな俺の様子なんて気づいているのか気にしてもいないのか、やがてまろは囁くような小さな音量で聖歌を口ずさみ始める。
十字架に座って聖歌を歌う悪魔なんて、聞いたこともねぇよ。
内心で毒づいたはずだったのに、うまくいかない。
ただその空の美しさに見とれていた自分の目から、大粒の涙が零れ落ちたことだけは気がついた。