〜前回のあらすじ〜
適正種族が【リリム】でした。
日が沈み、空が赤みがかってきた頃。俺は後輩に誘われコンビニバイトをしていた。いつもならとっくに上がってる時間帯だが、後輩の頼みならば仕方ない。
「今日は付き合ってもらってすみません…今日の夜、ちゃんと奉仕しますんで」
「別に暇だしいいよ。後輩の頼みを聞くのは先輩の役目だしな。でも、報酬は楽しみにしてるぞ!ちなみに俺はコンソメのポテチが好きだ。濃ければ濃いほどいい。」
「わかってます!」
後輩と雑談しながら任務をこなす。
唯一友達と言えるバイト先の後輩「皇 俊一」。
イケメンで高身長…おまけに性格までいいときた。長所よりも短所を見つける方が難しいくらいに完璧な男…某アニメに出てくるできすぎな少年を想像すればピタリと当てはまるだろう。
特別モテると言うわけじゃないらしいが、ふと気がつくと逆ナンされている。断り方までいっちょ前に考えているらしく、誰が相手でも丁重に扱う紳士。とても俺には勿体ない逸材…それが俊一だ。
対して俺は、ブサメンの低身長…「俊一の先輩やってます」と言ったら鼻で笑われそうな程に吊り合わない低スペックの陰キャ男子だ。わかりやすい例えを出すと、先程のできすぎな少年と同じ某アニメの冴えない眼鏡少年が、青いネコ型ロボットに出会わないまま育って行った感じだろう。運動音痴でテストは0点…好きな女の子にも見捨てられそうな冴えない奴、それが俺だ。
友達になったきっかけは単に後輩だからとかではなく、たまたま学校が同じ”だった”ということもある。目が合ったら必ずあっちから話しかけてくれる。そんな些細なことでも、俺の心の支えだった。クレーマーが多いコンビニバイト…こいつがいなければとっくに挫けていただろう。
「ほんとにあなたにも友人がいらっしゃったんですね。空想かネットの話かと思ってました」
「ほんとに奇跡だと思います…俊一と知り合えたのも学校辞めてバイトに専念したおかげですかねw」
「高校中退を正当化するためにご友人を使わないであげてください。可哀想です。でも、俊一さんを友人に迎えられたのはあなたに魅力を感じたからかもしれませんよ?」
「へへ…そうですかね?」
女の人にそう言われると、やはり男としてはかなり嬉しい。うっかり変態だということを忘れてしまいそうだ。
「俊一が今どうしてるのか分からないですけど…俺の事なんか忘れて楽しく生きて欲しいです。もう会えないってのはわかってますけど、もし言えるなら「ありがとう」って言いたいです。あいつには、一生かけても返しきれないくらいの恩がありますから。こんなこと恥ずかしくて本人にはとても言えないですけどねw」
「そうですか。でも、ご友人さんだいぶ病んでらっしゃるみたいですよ?」
「ん?えなんで!?」
「あなたが思ってる以上に、ご友人さんはあなたが大事だったみたいですね。自分のせいで死なせてしまったと、顔がグチャグチャになるくらい泣きじゃくってます。かなりの頻度で薬を飲んでるみたいですし、中毒で死ぬ可能性もありますね。案外早く会えそうで良かったじゃないですか」
「よかねぇよ!もうちょっとましな言い方考えられないかお前!」
「時間がもったいないですし、続きを見ましょうか。では、VTRどうぞ」
「うぅ…ごめんよぉ俊一ぃ(泣)」
上の方の段にあるお菓子類の品を取り替えるために、脚立に登って賞味期限を見ている。俺が好きなコンソメポテチに、パッキンゴムとゆう人気のお菓子が沢山ある。
なんでパッキンゴムにモザイクが?まぁいいか…
「パッキンゴム…これ美味いのか?」
「結構イけますよ。ポッキーみたいな太長い棒にゴムをつけてかじるんです。柔らかい食感がクセになって…1回すると辞められないんですよ〜!」
「それは気になるな…バイト終わりに一緒に食うか!俺の奢りでな」
「流石先輩。わかってますね」
何気ない会話をしながら淡々と作業する。手元にある商品を一通り置いて、少し奥の方に商品を置き始める。
「俊一。そこにあるうすしおポテチ取ってくれないか?」
「ああはい。うすしおですね…」
そういって、脚立の隣にあるポテチを取るために腰を落とす。そしてポテチを手に取り、渚に渡すために立ち上がった。
その瞬間…たまたま俊一の肩が脚立に強く当たってしまい、俺は体制を崩してしまった。脚立から落ち、運悪くアイスボックスの角に頭をぶつけ、そのまま……
「そのまま死んだのか…」
画面が黒く染め上がり、VTRの終了…つまり、人生の終了を実感させる。
「結構あっけないですね」
「なるほど、これは確信的です」
「なんで!?普通にコンビニでバイトしてるだけでしたけど!?」
「何言ってるんですか。普通に聞いたら和気あいあいとした会話ですけど、隅々に卑猥な言葉が隠されてましたよ。後輩に夜に奉仕させるとか、濃ければ濃いほどいいとか、ゴムをつけるのには興味があるとか…はぁ、まったく俊一さんが可哀想です。あなたよりも俊一さんを転生させた方がいいんじゃないですか?」
「全部お前の解釈だよ!!」
とゆうか、このVTR悪意がないか?パッキンゴムにモザイクがかかってるとこで気づくべきだった……
「これだけ証拠が集まってるんですし、リリムで間違いないですね」
「いや、どう考えても間違いでしょ…そもそも敏感すぎませんかね適正審査の審査員!!」
「まあ大変なお仕事ですし、多少厳しく見ないといけないんです。それに肉体もできてる訳ですし、いまさら変更もできませんよ。肉体の生産にはお金がかかりますので」
「いや…それでもこれはないでしょ!」
何度も意義申し立てられて腹が立ったのか、「はぁ」と大きなため息を吐かれた。
「もういいですかね?あなたにかける時間もお金もないですし、いい加減そろそろお菓子を食べたいです。なので早めに手続きを終わらして貰いたんですよ」
なんでだろう。今の俺なら怒りに任せてなんでもできちゃう気がする。
「それに、悪いことばかりじゃないですよ?転生ものには必ず、特殊能力を授かるというお決まりがありますので」
「え、それって僕にも適用されるんですか?」
「はい。転生する方には、過酷な環境でも長生きしてもらうために特殊能力をセットで転生させているんです。過去には魔王を倒して世界を救った方だっていらっしゃいますよ」
「特殊能力って、やっぱすごいんですか?」
「そうですね。やっぱり転生といったらチートで無双がお決まりですので」
地元どこだよこいつ。少なくとも俺が住んでたとこにはそんなお決まりなかったぞ。
まぁ、転生して5秒で即死とかされたら本末転倒だし…そうゆうことを無くすための措置ならそれなりの能力なんだろう。
「ただ…これには少々問題がございまして……」
「そうなんですか?結構魅力的な特典だと思いますけど……」
「ほら、チート能力って説明だけ聞かれるもんですから…自分が最強だと思い込んで無理される方結構いるんです。なので、あなたがこれから向かわれる世界には勇者とか存在しないですね。みんな死んだので」
「えぇ……」
一瞬希望の光に手が伸びかけたが、すぐに引っ込んだ。
「まぁ、戦闘系種族じゃないリリムは長生きできると思いますよ?男の精気を吸うだけなのでお手軽ですし、良かったじゃないですか」
「ちなみになんですけど、リリムがチート能力を持ったらどんな感じなんですか?」
「んん〜…能力にもよりますが、リリムではなくナイトメアに近しい存在になるんじゃないでしょうか。リリムとナイトメアの違いは、見せる夢にあります。淫らな夢を見せるリリムとは違い、ナイトメアは悪夢を見せる正真正銘の悪魔です。まぁ、性行為に徹するあなたにとっては関係ない話かもしれませんが」
「俺がいつ!そんなことを言ったんだ!!」
「人々の精神を支配し、征服できるなんてすごいじゃないですか。この力を使えば、男性はもちろん女性の方だってものにできるかもしれませんよ。まったく羨ましいです。もしこの能力がオークションに出されるなら、大金はたいてでも競り落としてるところです」
「そんなに欲しいならタダで譲ってやりたいよ!!!」
「いえ、結構です。あなたと同類になるのはごめんですので」
「……このクソぉぉおおおおお!!!」
いつまでも冷たい対応をする女の子に溜まった不満が、ついに爆発した。俺の魂の叫びは、死役所全体に響き渡った…
転生まであと少し。
俺は安心して異世界生活を送れるのだろうか。
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