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プロローグ
(並木度 馨視点)
目を覚ます前から、分かっていた。
ここは、普通の場所じゃない。
音がない。
静かというより、最初から『音というものが存在しない』みたいだった。
息を吸って、吐く。
それはちゃんとできる。
ーー生きている。
その事実だけが、はっきりしていた。
「……。」
声を出そうとして、やめる。
今は、必要がない気がした。
周囲を見渡そうとする。
けれど、視界は曖昧で、形を結ばない。
暗闇じゃない。
光がないわけでもない。
ただ、世界がまだ『出来上がっていない』。
名前を思い出そうとした。
無意識に、当たり前のように。
……何も出てこない。
少しだけ、胸の奥がざわつく。
でも、混乱はしなかった。
ーー今は、思い出せなくても良い。
そう判断した。
投げ出したわけじゃない。
必要なものは、いずれ戻る。
理由は分からないが、そう確信していた。
そのとき、気付く。
自分は、一人じゃない。
誰かが近くにいる。
触れられる距離じゃない。
声も、姿も分からない。
それでも、
背中を向けても平気だと思える距離。
「……待たせてる、のかな。」
口にした瞬間、
その『誰か』が、わずかに近づいた気がした。
急かされてはいない。
責められてもいない。
ただ、
「そろそろだ。」と伝えられている。
次の瞬間、
意識の奥に、光が差し込む。
ぼやけていた世界が、形を持ち始める。
木の匂い。
古い紙の感触。
ーー古本屋。
そう理解したところで、
僕は、完全に目を開けた。