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Side 美緒
人が動く気配を感じて、意識が覚醒してくる。
薄っすら目を開くと声が聞こえた。
「美緒さん、ごめん。起こしてしまったかな?」
「三崎君……」
三崎君のダークブラウンの瞳が、私を覗き込む。
その優しい眼差しにホッとする。
「体の痛みは?」
「おかげさまで、だいぶいいの」
「……本当?」
「うん、本当だよ」
「そう……ならいいんだ。少し辛そうに見えたから」
さっき、健治に怒りをぶつけた時、たくさん泣いたから、顔がむくんでいるのかも知れない。
おまけにスッピンなのを思い出し、なんだか恥ずかしくなってしまう。
ケガの無い方の右手で、掛け布団を引き上げ顔を半分かくした。
「本当に、大丈夫なの。実は……さっき、少し泣いちゃったから」
「どうしたの?何かあった?」
「うん、心が決まったっていうか、この先の方向性がハッキリしたように思う。それで、ちょっとナーバスになっちゃったの。でも、もう大丈夫」
そう、健治と私の問題だ。
自分の力で頑張るしかない。
でも、心配している人が居るというは、なんて心強いんだろう。
「痛みが引いて、容態が落ち着いているようなら、退院も近いね」
宮里医院に転院して1週間が過ぎた。
負傷した患部の腫れも引いて、後は折れた骨がくっつくのを待つばかり。
全治3か月との診断が下っていても、リハビリをして完治するまでの日程なのだ。それこそ、食欲もあるし、体調自体は悪くない。「今日退院です」と言われても「はい」と言える。
でも、自宅に帰って健治と顔をつき合わせると思うと退院するのが憂鬱に感じる。
「退院しなきゃだよね。退院したら早く仕事に行きたいなぁ」
家に帰りたくない気持ちが、愚痴になってしまった。
そんな私の言葉に、三崎君は少し考え込んでから、話し始めた。
「退院した後のことを困っているようなら、美緒さんが安全に過ごせるような場所を用意しようか? 叔父が持っているマンションに空いている部屋があるから、そこに仮住まいしてもいいんじゃないかな?」
退院したら、健治と暮らしているマンションに戻るんだと考えていたけれど、確かに他の場所に部屋を借りてもいいのかも知れない。
私の中で「離婚」という二文字がハッキリしてきたのだから、「別居」は離婚への一歩になるはずだ。
それに、野々宮果歩の脅威からも少し遠ざかることが出来る。
「お部屋に空きがあるの?仕事するのに通える距離かな?」
「大丈夫だよ。薬局まで車で10分ぐらいだし、電車でも1駅しか離れていないから」
なかなか理想的な立地に思わず、乗り気になってしまう。
これなら、電車がなんらかの理由で動かなくても、職場まで歩いて行けそうだ。
「えっ⁉詳しく教えて!!」
家賃や間取りなど、三崎君はお医者さんで不動産屋さんじゃないのに、アレコレ質問してしまった。
「ありがとう。……でも、私、三崎君に甘えすぎてるね」
緑原総合病院から、この宮里医院への転院も三崎君のお世話になっている。
そして、今度は引っ越し先まで。
これは、どう考えても元同級生の範疇を越えている。
「そんなこと気にしないで、美緒さんは体を直す事だけ考えて」
「でも……」
と、言いかけた所で、かぶせるように三崎君の声が聞こえた。
「俺が、したい事をしているだけだから、美緒さんは気にしないで」
「……うん、ありがとう」
そう言って、ベッドの上から三崎君を見上げた。
優しい瞳と視線が絡み、なんだか恥ずかしさが募る。
沈黙に耐えきれず、話しだした。
「あの……新しいお部屋を借りられたら、木目の家具を入れて、ホッとくつろげるようなお部屋にしたいな」
「インテリアショップホームページとか見て、イメージ固めるのも楽しいよ。実際にお店に買いに行くと目移りしちゃうから、ある程度、商品絞っておくといいかも」
「ん、そうだね。実は、独り暮らしするの初めてなの。だから、家具を自分の趣味でそろえるのも初めてで、少しワクワクしてる」
結婚するまで、実家暮らしで、結婚した時は、健治の趣味に合わせて黒をベースにしたインテリアだった。
だから、雑誌やインスタなどで見かける北欧風の優しい色合いと木目の組み合わせの部屋にずっと憧れていた。
「離婚」というとネガティブな印象が強いけれど、こうして今後の事を考えて行くと、前向きになれる自分がいる。