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武闘会の日の午前十時、シルバとリィファは、武闘会の会場である円形闘技場に向かった。昼の日差しが照り付ける道をしばらく行くと、巨大な建築物が視界に入ってきた。
円形闘技場は巨月の創造時より国の中心に存在し、アストーリの起点となった建物とされていた。規模は人口に不釣り合いで、古風で無骨な石造りだった。
高さは一般家屋の十階ほどで、円の径は、全国民が手を繋いでも繋ぎ切れるかわからないほど大きい。上下の至る所に半円を下に伸ばした形の空洞が見られ、奥には同じ石製の観客席が並んでいた。
二人は最下段の空洞を潜り、観客席の裏の薄暗い空間を抜けていった。
中には、乾いた広大な土の地面が広がっていた。周囲には歴史を感じさせる観客席が、見下ろすかのように聳え立っている。
中央のでは、大人と子供、合計五十人ほどが、なんとなく固まって会話や体操をしていた。真剣そうだったり楽しげだったり、それぞれ武闘会への思い入れは違う様子だった。
「お久しぶりだね、二人とも! いやー、ついにこの日が来た! 来てしまった!」と、背後から跳び跳ねるような声がした。二人は同時に振り返った。
すぐ目の前に、ジュリアが立っていた。少し後ろでは、トウゴが見守るように小さく笑っている。
「久しぶりって、一昨日に押し掛けてきたばっかだろ? 『てっきじょーしさつー(敵情視察)』って歌いながらよ」
シルバはジュリアの目を見つつ、冷静に指摘をした。
ジュリアはすぐに、きゅっと口を引き結んだ。シルバを見返す眼光は妙に鋭い。
「まぁったくセンセーったら。なーんにもわかってないよね! 『男子、三日会わざれば刮目して見よ』! そのクールな両の眼をしかと開いて、あたしのホンシツ(本質)を見極めなくっちゃ!」
「お前女子だし二日しか経ってねえし、返答が微妙にかみ合ってねえし。突っ込みどころ満載だよな」
呆れたシルバの低い声にも、ジュリアの顔の輝きは収まらなかった。
すっとリィファが、シルバの隣に出てきた。薄く穏やかな笑みは大きな自信に満ちている。
「今日はよろしく。一緒に勝ち進んで、決勝で会おうね。でもわたし、今日はジュリアちゃんにも勝っちゃうんだから!」
「おっ! あたし的優勝候補ランキング、ダントツ・トップのあたしに勝つとは、ずいぶんと大きく出たね、リィファちゃん。想像以上のビックマウスガールだ! だけれど残念ながらそいつぁ、叶えるわけにはいかないよ」
ジュリアは、リィファと睨み合った。教え子二人の仲の良さに、シルバは微笑ましい思いだった。
「可愛らしい宣戦布告も済んだし、受付に行くか。ジュリアもリィファちゃんも、今日はしっかり頼むぞ」
愉快げにトウゴが締めて、一行は受付へと向かった。