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「バイスさん……。コレ……食べきれないんですけど……」
「ああ? これくらい食えなきゃ大きくなれねーぞ? 九条はこれを食ってプラチナプレートになったんだ」
「ホ……ホントですか!? 九条さん!?」
「嘘だからこの人の話は当てにするな……」
俺とバイスとコクセイと白狐。それと対面に座っているのは、バイスが試験官を担当した四人の生徒たち。
コット村のギルドの一階に併設されている食堂。夕食にはまだ早い時間帯。故に俺達以外の客はいない。
生徒たちが一心不乱に頬張っているのは、食堂の看板メニュープラチナプレート。簡単に言うなら超大盛のお子様ランチだが、その量が量だけにお子様には到底食べきれない逸品である。
どんな料理が出て来るのかとわくわくしていた生徒たちも、その実物を見れば顔も引きつるというものだ。
先輩の奢りだから食べないといけない――という固定観念でもあるのか、無理矢理食わされている生徒たちが少々不憫でもある。
|金の鬣《きんのたてがみ》を討伐した時の話や、|灰の蠕虫《はいのぜんちゅう》を討伐した時の話などを脚色しながらしゃべくるバイスは、まるで講談師にでもなったかのよう。
よくもまぁ、そんな嘘だらけの話がホイホイと出て来るものだとある意味唸ってしまうほどだが、その割にはちゃんと筋が通っていて、俺の秘密は確実に守っている辺り、感心を通り越し尊敬すらしてしまう。
とは言え、最後の嘘だけは教育上よろしくなさそうだと訂正させていただいた。
これを食べてプラチナプレート冒険者になれるなら、ここのギルドは世界最強のギルド支部に成り上がっているだろう。
「ホントに信じたらどうするんですか……。バイスさん」
「嘘を嘘と見抜けない奴は、冒険者になるのは難しいって昔の人も良く言ってただろ?」
まったく聞いた事がない。恐らくそれも嘘である。
バイスはつまみを口に放り込みながらも酒を煽ってはいるが、まだそれは一杯目。……にもかかわらず、まるで酔っ払いの相手をしているかのよう。
そんなバイスに軽蔑にも似た視線を向けつつも、溜息をつく俺の隣では必死に頷く生徒たち。
「な……なるほど……」
一向に減る気配を見せない目の前の料理を口の中へとかき込みながら、隣のメモにバイスの格言を一生懸命書き込んでいる。
バイスは貴族でもあり冒険者でもある。言わば自分たちの目指すところなのだろう。彼らの努力というよりは、家の許しが出るかどうかが最大の焦点であろうが、大先輩の言葉だ。それなりの重みは噛み締めているといったところか。
その時だ。食堂の扉が壊れるかと思うくらいに勢いよく開け放たれ、その音は俺たちの視線を奪う程度の強制力を秘めていた。
「九条さん! 大変です! 村に魔物が!!」
息も絶え絶えに、飛び込んできたのは学院の教師であるマグナスだ。
「そろそろ時間か?」
「そうみたいですね……」
何がどうなっているのかわからない生徒たちは俺たちの表情が強張るのを見て、オロオロと落ち着かない様子を見せる。
「じゃあ、俺は迎えに行ってくるわ」
「わかりました。では自分は魔物退治に行きましょう」
「がんばれよ」
そう言い残し、先に食堂を出ていくバイス。
「君たちはマグナス先生とここで待機だ。いいね?」
「「は、はい」」
「マグナス先生。後はよろしくお願いします」
「大丈夫ですか? 九条さん。私も応援に……」
「任せてください!」
自信たっぷりに断言し、片腕を上げてガッツポーズをして見せると、コクセイと白狐を引き連れて合宿施設へと駆け出した。
「そうだ、九条さん! 場所は……」
「大丈夫です。わかってますから」
――――――――――
立ち込める蒸気が少しずつ晴れると、リッチは未だ健在であった。
ガイコツであるリッチの表情はまったく読めないものの、その視線の先にはネストをしっかりと見据えていた。
ネストの放った魔法は見事降り注ぐ氷塊を溶かし切ったが、それはデスナイトを拘束していた氷も溶かすことに他ならない。
「グォォォァァ!!」
再び自由を取り戻したデスナイトが吼え、大気が震える。生徒たちはもう動くことすら出来なかった。
リッチの魔法で死を覚悟し、ネストの魔法で驚愕する。それはまだ自分が生きていることに戸惑いを隠せないほどだ。
自分たちが目指していた目標が目の前にいる。自分たちのレベルの遥か上を行く存在。こんなにも凄い人から教えを賜っているとも知らず、呑気に学院生活を過ごしていた。
目の前で行われているそれが現実離れしすぎていて、夢なのではないかと疑ってしまうくらいの衝撃を受けていたのである。
(もっと真面目に授業を聞いておけばよかった……)
恐らくほとんどの生徒がそう思ったに違いなかった。九条から聞いた|金の鬣《きんのたてがみ》討伐の話も、どうせ脚色されているに違いない――と、どこか本気にしてはいなかった。
だが、目の前で行われているそれは正真正銘、命を賭けたやりとりだ。それを目の当たりにし、嘘ではないということを思い知らされた。
冒険者になるということは、そこに片足を突っ込むということ。今感じている恐怖は魔物からのものではなく、まさに人生を変えるかもしれない選択に対しての恐怖であった。
リリーが動き出したデスナイトを再度拘束しようと杖を向けると、デスナイトが地面に跪いた。
その理由はすぐに理解した。自分たちも同じような状態に陥ってしまったからである。
「【|重力の大渦《グラビティシュトローム》】」
リッチから放たれた魔力は重力へと姿を変え、全ての物を押し潰す。
それはアレックスが模擬戦で使った魔法の数段上の魔法。威力も範囲も桁違いである。
「きゃぁっ!」
リリーも思わず悲鳴を上げてしまうほどの重力場。範囲内の地面が陥没し、その中で立ち上がれる者などそうはいない。
デスナイトを巻き込んでいても構わず、その威力は次第に増していく。
「ぐぅっ!?……」
ネストでさえ杖を支えにしてようやく膝を突ける程度。流石にあれだけの大魔法をぶっ放した後である。体力的にはまだ余力はあるものの、精神的にはそろそろ限界が近かった。
(九条! 早く来なさい! お膳立てはしてあげたでしょ!!)
その瞬間、リッチとネストの魔法が作り出した黒雲から光の柱が降り注ぎ、それがリッチの身体を貫いたのである。
同時に轟く雷鳴、それは地震のように激しく大地を震動させた。
周囲を覆っていた重力場が元へと戻り、自由を取り戻した生徒たちがなんとか体を起こすと、そこで見たものに驚きを隠せなかった。
それはデスナイトをいともたやすく手玉に取っている魔獣たちの姿。
その流れるような動きが息を呑むほどに美しく、ただ見惚れることしか出来なかった。
「……きれい……」
黒と白のコントラストが美しく宙を舞う。鍛え上げられた野生の獣。長い獣毛は風の流れに逆らわないが故に流麗で、躍動する筋肉はしなやかでいて鋼のように強靭。
そこから繰り出される鋭爪は金属をも両断し、その顎に噛み砕けぬものなどないだろう。
既にデスナイトの一体は地面に倒れ動かない。もう一体は右腕がもがれ、残った左腕でどうにか振り払おうとしてはいるものの、それも時間の問題だ。
勢いが違う。従魔たちが圧倒的優位に立っていることは誰が見ても明らかだった。
だが、リッチはまだ倒れてはいなかった。落雷に焼かれたボロボロのローブを翻し、従魔たちを薙ぎ払おうと持てる魔力を振り絞る。
「【|魔法の矢《マジックアロー》】」
取り敢えず蹴散らせればいい。まずは崩れた体制を立て直すところから……。そう思ったのかもしれない。だからこそ扱いやすくもっとも基礎的な魔法を選択したのだろう。
リッチの周囲に浮かび上がる二十もの魔力の塊。だが、それが従魔たちに放たれる事はなかった。
気付いたのである。九条の存在に。
リッチはすぐさま向きを変えると、駆け寄る九条にそれを放った。
迫り来る無数の魔力の矢。九条はそれを、最小限の動きで全て躱していた。
高速で飛翔するそれは、アレックスが放つ愚直な|魔法の矢《マジックアロー》ではない。相手の動きを先読みし、緩急を付けたフェイントが織り交ぜられたもの。
それを無傷で突破できる可能性は、限りなくゼロに近い。隠密と素早さに定評のある高レベルのローグでさえ一度は足を止め、回避に専念するだろう。
だが九条は違った。足を止めるどころか、その速度はぐんぐんと増していくのだ。
それは、九条だけが持つスキル”無我の境地”のおかげである。
一撃でも浴びれば致命傷であろう威力の矢を、顔色一つ変えることなく紙一重で躱していく。
そして最後の一本を躱した時、九条はリッチの目の前まで迫っていた。
「うぉぉぉぉ! 仏滅バーストォォォォ!!」
謎のスキル名を叫びながらも、そのままの勢いで|金剛杵《こんごうしょ》をリッチの頭蓋に叩き込む。
勢い余って躓きそうになりながらも、直撃を受けたリッチの頭部は刹那の内に粉々に砕け、残った身体だけが直立不動を崩さず佇んでいた。
「白狐!」
「”狐火”!」
白狐が吼え、その身体が勢いよく燃え上がると、骨の身体は膝からボロボロと崩れ落ちた。
そこに出来たのはスケルトンの成れの果て。小さな骨の山である。それが燃え尽き灰となるまで、蒼き炎が消える事はなかった。
コメント
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第270話、読み終わりました!バイスが生徒たちに超大盛プラチナプレートを食べさせるほっこりシーンから一転、リッチとの本格バトルまで一気に読ませる展開でしたね。特に九条が「仏滅バーストォォォ!!」って叫びながらリッチの頭蓋を粉々にするシーン、思わず笑っちゃいました(笑)。謎のスキル名センスよ。重力魔法で圧倒される中での逆転、めちゃくちゃ痺れました。
こはる