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常陸之介寛浩
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今までの辛い日々が、波のようになってどっと押し寄せてきた。それはまるで冬の荒波のように私を飲み込もうとする。
嘲笑う継母、振り下ろされる派手な扇子、銭ゲバ商人の薄気味悪い笑顔。
次々に、私を苦しめる記憶が浮かぶ。
飾り気のないドレス姿の私に降ってくるのは、いつだって書類とお金、数字と継母が「ヘルマ!」と叫ぶ声金切り声だった。
逃げ出したくても逃げ出せない日々で、もしも魔法が使えたらと思ったことは数えきれない。
でも、使えない。それを知られるわけにはいかなかったの。
過去を巡らせていると、胸の奥が締め付けられた。息が荒くなり、目の前が暗くなっていく。
「ヴェルヘルミーナ様!」
ダリアの声に引っ張られるようにして、私は意識を辛うじて繋ぎ止めた。
背中は汗でびっしょり濡れ、激しい鼓動に耳の奥が悲鳴をあげている。
苦しさの中、必死に笑みを保とうとした時だった。
「ヴェルヘルミーナ、無理をさせるつもりはない」
ヴィンセント様が労るようにいい、私の肩を抱き締めた。
「案ずるな。もしも、幻惑の魔女が貴女を害するなら、私が守ろう」
「……ヴィンセント様?」
「大丈夫だ。私がいる」
見つめる琥珀色の瞳が優しく輝く。それを見ていると、不思議と不安が晴れていくようだった。
「やれやれ。坊ちゃまは甘い……しかし、魔女の力が必ず開花するとは限らぬのも事実」
「……そうなのですか?」
「うむ。しかし、それでも二つの花は引き合う。それを覚悟されよ」
ウーラさんの静かな忠告に、私は頷くことすら出来ずに硬直した。
話が終わりサンルームを後にすると、歓迎の食事が開かれた。
ヴィンセント様が仰られていたように、夜会のように格式ばったものではなく、まるでお祭りを楽しむように食事が振舞われた。
アーリックの人々は想像以上に友好的で、あれが美味しいから食べたらいい、これを飲んでみろと、いくつもの料理が取り皿に盛られた。
可愛らしい民族衣装を着た女性たちに囲まれ、アーリックで流行っている装飾品の話を聞いたり、実は街に興味だってあるのよなんて話も聞いた。
「それにしても、お嬢様は細すぎますよ」
「お小さい身体では、熊に襲われてしまいますわ」
「く、熊が出るんですか!?」
「こらこら、ヴェルヘルミーナをからかわないでやってくれないか?」
「……からかわれたんですか?」
「熊は出るがな」
楽しそうに笑うヴィンセント様の笑顔に釣られ、皆と一緒になって私も笑っていた。
時間は見る間にすぎ、気付けば窓の外に濃紺の夜空が広がっていた。
ヴィンセント様の魔法があれば、きっとすぐにお屋敷へ帰ることができるのだろうけど、どうするのかしら。
心地のいい時間をすごしながらふと思っていると、ルイーゼ様が「今夜は泊っていきなさい」と仰られた。
「明朝、森の入り口までお送りしましょう」
「伯母上、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
頭を下げるヴィンセント様の横で、同じように頭を下げると、ルイーゼ様は「客室へ案内しましょう」といって立ち上がった。
そうして連れられてきた客室に入り、思わず硬直した。
だって、客間にあったベッドが一つなのよ。大人二人で寝るに十分すぎる大きなものが一つ!
「私はもう少し、伯父上と話をしてくるから、先に休んでいなさい」
「は、はい……」
気を遣ってくれたのか、ヴィンセント様はルイーゼ様と一緒に部屋を出ていってしまった。
ダリアと二人になってすぐに、彼女を振り返って叫んでしまった。
「どうしてお部屋が、ヴィンセント様とご一緒なの!?」
「ご夫婦になるのですから、問題はないでしょう。とても素敵なお部屋じゃないですか」
にこにこと笑うダリアはトランクを開けて、ナイトドレスの用意を始めた。
「素敵なお部屋でも、問題大ありよ!」
ナイトドレスが置かれたベッドを見て、顔が熱くなる。
ベッドに天蓋はついていないけど、とても丁寧な作りだと分かる。
美しい花の彫り物の施された支柱はピカピカに磨かれている。並んでいるクッションやカバーには綺麗な刺繍がされているし、とても素敵な寝具だと思うわ。
でも、そういう問題じゃないの。
質素なベッドでもいいから、二つあった方がいいに決まってるじゃない。まだ、婚前なのよ!
コメント
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うわ、ベッド一つ! これはヴェルヘルミーナが慌てるのも当然だよ。でもその前に、過去のつらい記憶がフラッシュバックする場面、本当に胸が締め付けられた。継母の金切り声とか銭ゲバ商人の笑顔……彼女がどれだけ苦しんできたか伝わってきた。そんな中でヴィンセント様が「私が守る」って言ってくれたシーンは、本当に安心する。アーリック族の温かいおもてなしも素敵で、このまま穏やかな夜になってほしいなあ……でも最後のオチ、笑っちゃった(笑)