8話❀.*・゚
病室の空気は、いつも通り静かだ。窓から差し込む午後の光が、白西の顔をやわらかく照らしている。彼女はベッドに横たわりながら、何も言わずに天井を見つめている。
俺はベッドに座り、手に持った本をパラパラとめくりながらも、全く集中できていない。白西のことばかり考えてしまうからだ。
「何してるの?」
突然、白西が小さな声で問いかけてきた。俺は顔を上げると、彼女が少し微笑んでいた。その笑顔に、思わず胸が苦しくなる。どうしてこんなにも心が揺れるんだろう。彼女が笑うと、俺の気持ちがつい通じてしまいそうになる。
「別に。お前が寝てるからさ、暇だなと思って」
「暇って…それだけ?」
「まあ、そうだな」
そう言いながら、俺は視線を外す。白西はそんな俺の様子を見て、また少しだけ静かに笑った。
「なんか、変わってないね」
「変わるわけないだろ。つか、お前がいなければ何も面白くないんだわ」
その言葉に、白西は少し驚いた顔をして俺を見つめてきた。でも、すぐにその目が少しだけ寂しそうになった。何か言いたそうな顔をしているけれど、彼女は口を閉じて、再び天井を見上げた。
「お前はさ何を考えてるの?」
俺が少し意地悪く聞いてみる。白西は顔を少し傾け、無言で答えることなくじっと俺を見つめた。その視線が少しずつ俺を圧倒していく。
「俺、白西のことが気になって仕方ないんだ」
その言葉が咄嗟に出た瞬間、白西の表情がわずかに変わった。目を見開き、少しだけ息を呑んだように見えた。
「気になるって…?」
「うん…でも、俺が言いたいのは、もう何も隠してないってこと」
白西はそれを聞いて、また一瞬黙り込んだ。何か言いたいのに、言えない。そんな様子が伝わってくる。その沈黙が、どんどん重くなる。
「でもさ…もうすぐ、終わるんだよね」
白西がぽつりと呟く。その言葉が俺の心に深く突き刺さる。俺たちの未来は、確かに限られている。それが分かっているからこそ、俺はもっと白西に伝えたかった。
「だからこそ、もっとお前と一緒にいたいって思う」
俺の言葉に、白西は再び黙ったままだった。彼女の目には、何かを抑え込むような力強さがあった。俺にはそれが痛いほど分かるけど、彼女はその気持ちを外に出さないようにしている。
「でも、もし俺が、お前を好きだって言ったら…どうなる?」
心臓がうるさい。俺はその答えをすぐに知っているわけじゃない。だからこそ、答えが恐ろしくて、言葉を飲み込んでしまう。
「言わなくてもいいよ」
「なんで?」
「だって、言っても…あなたには辛いだけだもん」
その言葉が、俺の心を砕く。白西はそんなふうに考えているんだ。俺がいくら伝えたって、どんなに気持ちを込めても、それはただの負担になるだけだと思っている。
「白西、お前が思ってるより俺は…お前に寄り添いたい」
その言葉に、白西は一瞬、涙を浮かべた。その目が、俺を見つめる。言葉は出てこなかったけれど、目の奥に何かがあるのが分かる。涙をこらえているわけじゃない。むしろ、今、彼女は心の中で俺を求めているのかもしれない。
と勝手に解釈した。
「だから、俺はお前に伝えたかったんだ」
「でも、そんなの言う必要ないんだよ」
白西は目を閉じて、深く息をついた。その息の音に、俺は胸が締め付けられる。彼女がどうしてそんなに心を閉ざすのか、それが理解できているようで、でもどうしてもそれを受け入れられない。
「だって、終わるんだから」
「終わりなんかじゃない」
「でも、時間は有限だよ」
その言葉を受けて、俺は無言になった。確かに、時間は限られている。でも、だからこそ、今を大切にしたい。それが本当の気持ちだ。
「それでも、俺はお前を好きだ」
その言葉だけは、何度でも言いたい。どんなに無駄だと思われても、それだけは伝えたかった。
白西は一度深く息をついて、ゆっくりと目を開けた。その顔に、少しだけ涙が溜まっているのが見えた。
「ありがとう…でも、私は言えないんだよ」
その言葉に、俺はどうしようもなく心が痛んだ。伝えることで傷つけてしまうのは、もう十分分かっている。でも、それでも、今、伝えたかった。
「ねえ、散歩しない?」
「歩けんの?」
「車椅子デート的な笑」
白西は笑いながら答えた。
2人で車椅子に乗り公園を移動する。
「ねえ私の余命、ぜーんぶ颯馬にあげるね」
「は?」
「そしたら颯馬と私、2人で生きてる!みたいな笑」
「馬鹿なこと言ってんなよ」
そんなのできたら、とっくに俺の余命をお前にあげてたよ。
俺は無意識に白西の手を握っていた
「まだ生きてよ」
そう呟いていた。
叶わない。叶わないことはわかってる。
でも奇跡が起きるなら…一生を共にしたいんだ
そもそも、神様なんていないんだよ
あんなに優しい子が難病にかかって、そのうえ余命宣告。
世の中は結局そうだ
優しい人達が早く死ぬ
で、悪い奴らが長生きするんだよ
なんで白西が……
俺は白西の手を握りながら空を眺めていた。
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