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「で、何やるんですか」
放課後の部室。
アンプはまだ電源が入っていなくて、
窓から夕方の光が斜めに差し込んでいる。
広瀬くんは椅子に座り、
ギターケースを足元に置いた。
「コピバンなんだから、王道でしょ」
奈央はスマホを取り出す。
「王道って」
「みんな知ってるやつ!」
「ざっくりしすぎ」
「軽音あるある!」
そう言いながら、
再生リストを広瀬くんに見せる。
「あ、これ」
広瀬くんが、画面を覗き込む。
距離が近い。
奈央は一瞬だけ固まるけど、
何も言わない。
「これ、ギター楽しいっすよ」
「ほんと?」
「うん、カッティング気持ちいい」
「じゃあ候補!」
スマホにチェックを入れる。
「奈央さん、こういうの好きなんだ」
「え、変?」
「いや」
首を振る。
「歌、合いそう」
その一言に、
胸の奥が、少しだけ跳ねた。
(……深い意味はない)
自分に言い聞かせる。
「これは?」
今度は奈央が、
別の曲を差し出す。
広瀬くんはイヤホンを片方だけ耳に入れて、
もう片方を奈央に差し出した。
「一緒に聴きましょ」
自然すぎて、断れない。
二人で同じ音を聴く。
ギターのイントロが流れる。
(近いな)
肩が触れそうで触れない距離。
「ここ、テンポ早いっすけど」
広瀬くんが、小声で言う。
「歌、いけそうですか?」
「……たぶん!」
少し不安になるけど、
それも含めて楽しい。
「じゃ、チャレンジ枠で」
「なにそれ」
「成長用」
笑われた。
選曲は、いつの間にか
五曲くらいに絞られていた。
「部内ライブなら、三曲かな」
「じゃあ」
広瀬くんが指を折る。
「一曲目、盛り上げ」
「二曲目、ちょい落とす」
「三曲目、締め」
「分かってるね〜!」
ハイタッチしそうになって、
直前でやめる。
(なんで今、躊躇した)
広瀬くんは気づいていない。
「ギター、二本いるかもですね」
「私、まだ下手だよ?」
「簡単なフレーズでいいじゃないですか」
当たり前みたいに言われて、
少しだけ嬉しい。
「バンドっぽくなってきた」
奈央 が言うと、
「もうバンドっすよ」
広瀬くんが、さらっと返す。
その言葉が、
妙に胸に残る。
(この時間、続いたらいいな)
その感情に、
まだ名前はつけないまま。