テラーノベル
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夏休みは早くも半分が過ぎ、
記録的な暑さが毎日を支配していた。
そんな夏の真っ只中だからこそのイベント。
オレ達は、街最大の夏祭りに足を運んでいた。
「お、いたいた。 遥夏〜、野崎さん〜! こっちだよー!」
人混みの中、こちらへ早歩きする華柄の桃色浴衣を着た遥夏と、いつも通り白シャツのまま競歩する野崎。
二人は軽く息を切らせて到着した。
浴衣の胸元を少し開いた遥夏。髪を後ろで纏めてオープンになったうなじに、艶かしさが帯びる。心臓が高鳴る。
「ごめ〜ん、人多くて遅くなっちゃったあ。 ねえ聞いてよ、野崎ちゃんにね、ずっーと電話で浴衣着てきてーって言ってたのに、似合うわけないって着てくれなかったの!!」
「私は浴衣向きなタイプじゃあない。 まず着たこともないし持ってもいない。 君たちといる時は、制服が一番しっくりくるしな」
「も〜! でも仁が浴衣で良かったよー、私だけだったら寂しかったもん」
「男の浴衣に価値なんて無いと思っていたけど、創出されたみたいで良かったよ。 勝人は病院から出てきてるから仕方ないとして、煌も着てくれば良かったのに」
「いや……、オレも持ってねえから」
人混みの間をすり抜ける、夜入りを告げにきた涼風が癒えたばかりの日焼け肌を撫でた。
吊り並べられた赤提灯を追って、屋台群を練り歩く。
街一番の祭ということもあり、多種多様な出店が立ち並び、活気に満ちていた。
「射的! 射的あるよ! 射的やろうよ! 射的だよ! うわっ、射的だ! もうすっごい射的! いざ射的! さあ射的だよ!!」
「テンションがバケモンなくらいバグってんぞ。 やればいいだろ射的」
「煌もやーるーの!!」
「おい、こんな人混みで引っ張るな! やるよやるから!」
辺りの出店の中でも特大のテント下に広がる、大射的場に腕を引っ張られる。
円型のひな壇に積まれたお菓子や玩具がグルグルと回転しているところを、少し離れた卓上からコルク銃で狙う定番の遊びだが……、こいつらにやらせると、すぐに別ゲーに様変わりする。
「かっつーん! 準備できたー? 仁! 次弾装填! いっそげー!」
「よっしゃ、位置についたぜ!」
「八丁分、仕上がったよ!」
「よーーし、いっけー! 狙うはデカすぎ熊さん!! いざ、金に物言わせてッ! 織田信長式連続射撃、発射ーーっ!!」
大量購入したコルク弾を両手で二丁持ちした空気銃を左右と撃ち、すぐにしゃがみ込む。
続いて後ろの勝人が二丁を放つ。頭を下げると、遥夏が装填済みの銃を抱えて顔を出す。
その隣で、弾切れになった銃に空気と弾込めをする仁。
それを繰り返して、短時間の連射を実現していた。
「……こいつらって、どうしてこんなに馬鹿事に真面目になれるんだ?」
「私は君もその一員だと思ってたけどね。 それを聞いて、少しは一般的な常識や羞恥心があると分かって安心したよ」
連射されたコルク弾は熊のぬいぐるみに当たりはするものの、ふかふかの腹に跳ね返されてしまう。
数十発撃っても棚から落ちる気配のない熊に、流石の遥夏も折れたようだった。
流れ弾で唯一落ちたラムネ菓子を片手に、「来年こそは落としに来るからね熊のビッグフット君!!」と、勝手に名前をつけたらしいぬいぐるみに別れを告げ、射的場を離れた。
野崎を中心に、山盛りのかき氷や牛串に舌鼓を打ったあと、長い石段を登り、横一列になって参拝をした。
オレは神様へのお祈り内容なんて思いつかなかったが、横で手を重ねる遥夏はぶつぶつと願いを口に零していた。
「…………これからも皆と、青春できますように。 皆と青春できますように……」
思えば、夏休みのイベントの数々は全て遥夏の提案だ。
遥夏は……、いつもオレ達全員で楽しむことをいつも考えてくれている。その想いが、この夏休みに入って強まっているのを感じる。恐らく事件に巻き込まれた反動だろう。
オレが身勝手に距離を作ってしまった仁との友情を取り戻そうとしているの同様で、本来楽しめるはずだった日常の損失を回収しようとしているのだ。
参拝を終え、そろそろ祭も終わりという頃になって人間の渋滞に巻き込まれ、遂に牛歩状態になってしまった。
このタイミングになって、急に路上が混み合うのには理由があった。
ドン、という重低音の後、夜空に閃光が華開いた。
祭の大目玉、花火大会の開幕、第一発目だった。
「あ〜あ、始まっちゃった」
「しゃーね、ここで見よーぜー」
グリッドロック状態で周りから軽く押されながら、人混みに紛れて、空を見上げる。
煌めく爆発が、友人たちの顔を照らす。
赤青緑に染まる横顔は、光に見惚れていた。
「綺麗だねぇ…………」
遥夏が月並みな言葉を呟く。
月並みだが、普通の日常を求めたオレ達にとっては、それで満点だった。
自分の記憶のために、身勝手な考えのために二度も関係をうち捨てようとしたオレが、ワケ有りとはいえ友情を取り戻そうとするなんて、都合が良すぎると思っていたが、その不安を、彼女の呟きが蒸発させた。
「…………夏も、もう終わりだね」
花火と花火の隙間の沈黙を縫ったその一言。
光に照らされていた遥夏の表情は、数秒の暗みの内に陰り、次に青に染められた時にはもう、一面が寂しさに溢れていた。
「……何言ってんだ、まだあと十日くらいあるだろ?」
「…………そんなの、すぐだよ」
それ以降、花火が終わるまで、
誰も何も言わなかった。
夏がもう、終わる。
遥夏の気付かせたその事実は、
時間の残酷さを存分に感じさせた。
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