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夏休みも終盤に差し掛かった頃。
オレ達はいつも通り、放置コンテナに集まっていた。
「……これさ、本当に終わる?」
「終わる」
「1ページ進めたら1ページ増えてない? 全然終わる気しないんだけど〜……」
「増えてねえ、終わる」
「ねーーーー、なにこの問題! 筆者の気持ちを答えよって! 知らないよ〜! もう無理終わんない〜」
「終わるっつってんだろ!! 今日まで一切手ェつけてねえから溜まってンだろうが!! こっちまで終わらねえ気がしてくるから黙って黙々とやってくれ!!」
そう、オレ達は、溜まりに溜まった夏の宿題を急いで消化していた。
仁と野崎だけは既に宿題を終わらせたらしく、未完了組のサポートに回っていた。
「だああぁあ〜、やっと終わったぜええ! 煌ぁ、遥夏ぁ!! イチヌケピだぁ!!」
「ううぅぅ……、かっつん、私の分もやってよぉ……」
「嫌だ! オレは残りの休み期間を遊んで暮らすんだよおおお!」
「勝人、もう宿題が残っていないような口ぶりだが、自由研究のこと忘れちゃねえよな?」
「…………嫌だぞ、俺は」
「嫌とかじゃねえ、やんなきゃいけねえだろ」
学校より郵送で送られてきた宿題リストの最終項目、そして最難関。それが、自由研究だ。
個人、またはグループでお題を決め、研究し、レポート化するというもの。設定するお題は自由で、植物日記だろうと化学実験だろうと何だっていいが、「発見」というテーマに沿った内容のレポートを写真付きでまとめなければならない。
ここにいる全員、物量系の宿題は終わっている者もいるが、自由研究だけは誰一人として手をつけられていなかった。
それもそのはず、突如として差し込まれる遥夏提案の夏休みイベントによって、自由研究に注ぐ時間がまとまって取れていないからだ。
「せっかくなら皆でやろうよ、何やる? 太陽フレア観測? 地底探査?」
「レポート提出先をノーベル賞か何かと勘違いしてンのか? 学校だぞ、そんな大層なもんじゃなくていい。 つーか、そのお題じゃ研究無理だろ」
「え〜。 男の子なのに浪漫がないなー! 野崎ちゃん、なんかいいお題ない〜? 面白そーなやつ!」
「そうだな、『現代アートと作品価値の流動性 〜スーパーリアリズムの号哭〜』なんてどうだろう?」
「遥夏、意見を聞く相手は選んだ方がいい。 こいつはこの中で一番、浪漫から遠い存在だ。 しかもタチが悪いことに、思想が強すぎる」
仁と勝人からもいくつかお題の提案が挙がったが、どれも手間が掛かったりするということで没の判が押され続ける。
夏休みは残り短い。ここで設定するお題は、一日やそこらで研究を終えられる短期的なものでなければならない。
それに加えて難度を上げているのは遥夏の承諾だ。レモン電池実験のようなつまらないものは遥夏が跳ね除けてしまう。
「遥夏、ちょっとは妥協してくれ。 お前のオカルトな好みに合わせてちゃ、研究じゃなくて冒険になっちまう」
「冒険……、冒険かぁ〜……! いいこと思いついたかも!」
遥夏は立ち上がり拳を突き上げて、
「学園七不思議の検証ついでに、肝試ししよーよ!!」
と、案の定、面倒そうなことを言い出したのだ。
「学校の怖〜い噂だよ! 都市伝説みたいなの! うちの学校特有のやつ!」
「七不思議……、都市伝説……? なんだよそれ」
「コホン、解説はデータバンクこと、この僕、枢木仁にお任せ下さい! 煌には勝人の挑戦している五連勝伝説のことは伝えたよね? その時、裏に潜む暗い伝説についても話したはずだよ。 『失踪の六戦目』。 五連勝した生徒が、次の試合を前に突如として失踪してしまうって呪われた伝説さ。 あれも、学園七不思議のひとつとして数えられているんだよ。 そう、実は既に僕達は、七不思議のひとつに接触してしまっているのさ!」
確かに、前に仁はそんな話をしていた。
伝説の正体、失踪者たる御山翔太郎は『少数派』の力を借りながら山に身を隠していた。しかも、失踪期間は数日や数週間ではない。約11年もの間、木と土の中で暮らしていたのだ。
つまりこの謎は不思議なんて呼ばれるものではなく、ただの奇人による奇行から生まれた都市伝説だった。
実際、五連勝伝説に挑戦し次の失踪候補となった勝人は、事件に巻き込まれディオの銃撃で大怪我を受けたが、失踪は避けることができた。
このことから、六戦目に何か不可思議な力が働き生徒が失踪するなんていう現象は起きないという結論で、一つ目の不思議は解明済みということになる。
『失踪の六戦目』はただの悪い噂で、デマだったのだ。
「例の事件、詳しくは知りえないけど、犯人として捕まったのは伝説で失踪したはずの生徒だったらしいし、この七不思議の結末は簡単だ。 生徒は、普通に生きていた。 失踪なんてしていなかった。 デマだった! こうして、七不思議のひとつは既に解明された! 学園に残る伝説は残り六つ! 信憑性が薄くなってしまった今! 七不思議なんてレトロな物が忘れられそうになっている今! 一部のオカルト好き生徒にはこれがホットな話題となっているんだよ!」
「その七不思議ってやつ、『失踪の六戦目』以外には何があるんだよ?」
「煌も、やっと興味が出てきたかい? どれも興味深いものばかりだよ。 『怨恨深い肖像画』、『血を吐く蛇口』、『存在しないはずの部屋』、『女子トイレの泣き女』、『月光で豹変する壁画』、『息を吹き返す骨格標本』! 錚々たる面子の不思議が、僕らの学校には眠っているんだよ!」
「全部デマくせえな…………、七不思議を研究するって、残りの六つを解明しちまおうって話だろ? そんなの、どうやって調べをつけるつもりなんだよ?」
「ちっちっちー! 煌は分かってないねぇ〜! このハイパー天才遥夏ちゃんは既に計画を思いついてるのだよー!! 簡単簡単! 夜の学校に忍び込んで調査しちゃえばいいんだよ〜〜!!」
――――――――――――――――――――――
「どうして、こんなことに……」
「煌っ、静かに。 奥から来るよ」
イエローテープの張り巡らされた放送室の扉と床の間、その隙間から懐中電灯の光が差し込んできた。
革靴の音と、チリリチリリと金属が擦れ合う音が近づいてくる。
部屋のドアノブがガチャガチャと回り揺れ、収まると、革靴は離れていった。
「今のがこの時間帯の最後だね。 きっちり時間通りなんて、仕事熱心な警備員さんに敬礼」
仁は、扉に取り付けられた割れた小窓より外を軽く確認して、
「事件の犯人が廊下の窓なんかを穴だらけにしてくれてて助かったね。 お陰で簡単に侵入できた。 警察の人達は現場保持のためにイエローテープで出入り口を閉鎖するくらいで、ろくに補修をしていない。 事件の熱も冷めて、深夜に現地を見張るのは最低限の警備員だけ。 忍び込むには絶好の好機だったわけだ。 それにしても、煌がこの放送室なら小窓に腕を突っ込むだけで簡単に鍵を開けられると知ってくれていたのは大きかった。 計画通り中に忍び込めても、警備員の巡回ルートは分からないから、七不思議調査中も避け続けることは出来ない。 施錠を掌握して、警備の目から隠れられるセーフルームが必要だった。 その点、この放送室は完璧だよ。 侵入口の窓からも近いしね。 にしても、よくこんな場所を憶えていたね。 あの事件は次の七不思議候補になり得るほどおかしな点が多い。 被害者生徒たち全員が、事件当日のことをほとんど憶えていなかったりとかね。 まさか、煌だけはその限りでなかったりするのかい?」
「ンなワケねぇだろ。 ここに逃げ込んだことだけ、記憶がハッキリしてたんだよ」
チャッ、という小さな音。
仁が少しだけ扉を開いて、辺りを確認する。
「よし、大丈夫そうだ。 行こうか」
「なあ仁、次の警備員の巡回タイミングは、本当に二時間後で合ってるんだよな?」
「これまでの三回の巡回はどれもスケジュール通り。 確証はないけれど、休憩時間と記載されていたこの時間も、予定通りである可能性は高いはずだよ」
仁がどこから警備員の巡回スケジュール情報を抜き取ってきたのかはわからない。
だが、あのデータバンクとも呼ばれた仁なら知っててもおかしくないなと、全員が変に納得してしまっていた。
扉をゆっくり開かれると、首元を撫でる冷たい風が流れて込んできた。
廊下には、ほぼ光がない。
割れた窓から射し込んで、ウレタンの床と壁を照らす、青白の月明かりくらいなものだ。
当然、明度としては足りない。
この暗さは、心を細くする。
「な、なななな、なあっ! 今日はこの辺にしてよ、き、今日のとこは帰らねえか??」
勝人が震えて訴える。
こいつ、意外とこの類には弱いみたいだ。
「なあにいってんのさ、かっつん! これも青春だよ、青春! そうそう得られる経験じゃないよー!」
「だってよお! 暗いぜ、怖いぜ!?」
小さな叫びが、廊下に反射した。
「勝人、静かにするんだ。 夜警がスケジュール表にない動きをしたら一発アウト。 何があっても柔軟に対応できるよう、慎重にいく必要がある」
「でも、怖ぇもんは怖ぇよ! もしゆ、ゆ、ゆ、幽霊とか出てきたら、オレ……、馬鹿みたいに叫んじまうと思う」
「勝人君、良いことを教えてあげよう。 そこにガムテープがあるだろう? それを私みたいにグルグル巻きにすれば、叫んでも問題無くなるよ」
「おい野崎、変なこと言うな。 勝人がそんな状態で警備員に見つかってみろ。 どんな勘違いされるかわかんねえぞ」
放送室を外から施錠して、勝人に腕を奪われながら、旧校舎へと向かった。
どうして、こうなった。
七不思議探査を自由研究にしようなんて馬鹿げている、とオレは何度も反論したが、遥夏に掻き消された。
今やビビり散らかしている勝人も、話し合いでは「面白そうじゃねえか!」と賛同していたし、仁も乗り気だった。
野崎は宿題を終わらせられれば何だっていいといった態度だったため、あとはその勢いでこの計画が決定してしまった。
バレたら停学モンだぞ、というオレの反論には、誰も耳を貸してはくれなかった。
さて、ここまできたら、もうやりきるしかない。
計画の内容は単純。
夜の学校を歩き回り、七不思議の噂をひとつひとつ検証していき、噂通りの現象が起きるのかどうか記録する、というだけだ。
数週間前にあれだけの大事件が起きた学校だ。まさか、学級閉鎖が解けるより早く、再びここに戻ることになろうとは思ってもみなかった。
仁に連れられて、以前、オレと野崎がゾンビから逃げ込んできた連絡通路を通過し、北棟へと侵入する。
校舎の構造上、北棟は月光が入りづらく、まるで人が踏み入るのを拒んでいるような不気味な暗がりが奥へと伸びている。
「北棟の奥なんて、授業でもあんまり来ないからね。 どうも不気味に感じるのは間違いない」
「確か最初の不思議は、美術室だったか?」
「うん。 ……わあぁ、すごい、これ見てよ。 僕たちが来るのを見越して、ご丁寧に、ドアを叩き割っておいてくれたみたいだ。 こんな事をするくらいなら、窓を叩き割った方が早いだろうに。 どうしてテロリストはこんな回りくどく面倒なことをしたんだろうね」
「さあな…………」
それ、テロリストじゃなくて、ゾンビ達が体当たりを繰り返して扉ぶっ壊しちまったんだと思うぞ! なんて、言えるわけがない。
野崎の横顔には、我関せずを決め込まれた。
【其の壱 『怨恨深い肖像画』】
「さあ、やっと美術室に到着だ。この部屋の肖像画が、一つめの学園七不思議だよ」
「ねーねー、その肖像画ってどんな噂されてるのー?」
「それはそれは恐ろしい、呪われた肖像画の噂だよ。 画に描かれた男と目を合わせてしまったが最後、呪いは伝染し、目線を外しても永遠に睨まれ続け、六分以上睨まれると死に至る……!! らしいよ」
音楽室の、ベートーヴェンやらに睨まれるという話ならよく創作のネタにされるが、美術室の肖像画というのは少しレアだな。
……つうか、猶予が六分って、結構余裕あるな。
「お、おおおおい、あ、あれっ……!!」
「ん……?」
勝人が腰を抜かして指をさしたのは、教室の後方にあるロッカー群の上。 生徒の作品がズラリと並べられた、その最上列、右端の肖像画だった。
陰影が深く描かれた男の顔には、どこか悲しみが帯びている。
確かにその目はこちらを睨んでいるようにも見えるが……、噂がつくほど特別なものには思えない。
「こ、こここここ、こいつ、俺のことずっと睨んできてやがる……!」
「はぁ……? 勝人、お前何言ってるんだ?」
肖像画は、どちらかと言えば俺の方を睨んでいるように見える。勝人の位置から見ても、オレの方を睨んでいるように見えるはずで――――、
…………オレの動きを、男の目が、追った?
「あっあっ、あの絵っ、黒目が動いたんだよおおおおお!!」
「えーっ!! 見えなかった見えなかった!! 絵の人、もっかい動いてよ〜! もっかい!!」
「ひいいいいい!! もう一分くらい見ちまったよおお! あと五分? 四分半くらいか!?」
「……ハア、相原君、落ち着いてよ」
野崎が何度か立ち位置を往復して、肖像画を観察する。
「やっぱりそうか……」
「野崎。 勝人をビビらせようとして言うワケじゃねえが、実は、オレにも見えたんだ。 あの男の目が、オレを追ったように見えた。 この暗さだし、見間違いかもしれないが…………」
「なあ煌、私は君に言ったはずだよ。 審美眼を鍛えるべきだってね。 たしか君の携帯電話には懐中電灯の機能があるんだったね? あの男を照らしてみてくれよ」
野崎に言われるがまま、携帯のライトで肖像画を照らす。
すると、光を当てられているというのに、目や鼻に影が出来て、光の位置に合わせて黒が伸び縮みしていることに気がついた。
「分かるか? あれは、立体アートだ」
「立体アート?」
「錯視を利用した騙し絵だよ。 顔全体と目、鼻の部分を凹ませて絵を作ることで、目の錯覚でずっとこちらを追いかけ、睨んでいるように見えるという作品だ。 光を色んな角度から当てられたり、至近距離で見ればその仕組みには簡単に気付ける。 だからああして、手の届かない高い場所に飾っているのだろうよ。 つまり……、どこかの美術部員の、ただの悪戯だな」
仕組みが分かればなんのその。
怯えていた勝人もスッと立ち上がり、盛り上がっていたのが馬鹿みたいだといった風に白けて、一同は次の不思議へと向かった。
【其の弐 『血を吐く蛇口』】
「さて、気を取り直して! 次の噂はちょっとグロテスクだよ! 北棟隣のプール前には、目を洗うためのU型蛇口が設置されてるよね。 その蛇口を捻ると、水ではなく、血が吹き出るらしいんだ! そんな所で目を洗ったら、トラウマものだねえ」
「……仁君、悪いけど、私にはその謎の正体も既にわかってしまったよ」
「ええ、流石に早くないかい? まだ現場検証すらしていないんだよ? それに、今度は野崎さんの得意な美術関係の不思議ではないのに、どうしてわかるんだい?」
「まあ……、行ってみればすぐ分かるよ」
―――――――――――――――――――――
「これは……、血痕か?」
なんだこれ――――。
噂の蛇口が取り付けられた洗眼台、その排水口の周りが真っ赤に染まってる。
しかも、洗い場周りの床コンクリートにすら赤い液体の跡がある。辺りに飛び散っている証拠だ。
「……謎めいているところ悪いけど、さっさと終わらせたいから答え合わせしてしまうよ。 ここは、美術室から一番近くにある洗い場ということを念頭に置いて聞いてくれ。 美術室で水彩絵の具を使うと、筆洗バケツの後処理が必要になるだろう? それに、使い終わったパレットも洗わなくちゃあならない。 きっとこの赤は、その時の流れ残りだよ。 居るんだよな、こういう、画材を雑に扱う奴。 しっかり水分を抜かないと筆は死ぬし、パレットにだって具がこびりつく。 しかも、共用の場でそれを洗うとなると、洗い場へのケアだって必要不可欠だというのに。 こういう奴のせいで、私たちの肩身が狭くなるんだ」
「確かに言われてみれば、絵の具っぽいな……。 ってことは、これを見た誰かの勘違い、誇大妄想ってことか……」
【其の参 『存在しないはずの部屋』】
「皆、ここは警備員室の近くだから静かにね。 第三の不思議は、この辺りにある。 学校のホームページにも、職員室の地図にも載っていない、存在しないはずの部屋があるという噂だよ。 もしその部屋に間違って入ってしまった者は、二度と出られない……、って噂なんだけど…………」
仁の携帯モニターに映る校舎の地図を頼りに進んでいくと、扉の下から薄い光が漏れる部屋が一室だけあった。
「なあ仁、ここって……」
遥夏が地図と周りの地形を見合わせる。
「……うん、正確な地図だね!」
「あのさ、遥夏。 もう一度ちゃんと見比べてみろな? あの明かりがついている部屋のあたりを」
「……あれ、これって…………、ん? あっ……! うん! やっぱりそうだよ、これ、すっごい正確な地図だね!」
「お前、地図読めないタイプだったか……、期待したオレが馬鹿だったよ。 よく見ろ、あの部屋の位置が地図に載ってねえだろ?」
「わ! ほんとだ、気づかなかった!」
勝人も身を乗り出して地図を確認する。
確かに、あの部屋は地図にはない。
近くの下足場や防火シャッターは正確に描かれているのに、明かりの部屋だけは不自然に地図から潰されている。
「あっ、あわわわっ! ってことはよぉ! 俺たち、遂に本物を見つけちまったってことかよおぉ……!?」
「勝人、馬鹿。 さっき仁がネタバラシしただろうが。 近くに警備員室があるから静かにって。 あれだよ。 あの明かりの部屋が警備員室なんだよ」
学園七不思議とは名ばかりの真実に、野崎が頭を抱える。
「……安全管理上の問題で、警備員の部屋だけ地図上に載ってない。 そういうことか」
「ああ、多分な。 オレ達みたく地図を見て忍び込もうとする侵入者に、警備情報を教える訳にはいかねえからな。 この不自然に気がついた奴が、適当なストーリーを上付けして噂を流したんだろうな」
【其の肆 『女子トイレの泣き女』】
女子二人が調査に入ったところ、窓の立て付けが悪く、入り込む風が泣き声に聞こえなくもなかったとのこと。
【其の伍 『月光で豹変する壁画』】
昼は放置された植物のツタに覆われているせいで、壁画には綺麗な花々の絵が描かれているように見えるが、夜になると下方照明によって本来の壁画の絵柄が強調され、そこに植物の影が上乗るため、不気味な絵柄に変わったかのように見えていただけ。
【其の陸 『息を吹き返す骨格標本』】
骨を止めておく金具が緩く、教室の扉を強く開いただけで、振動で止め具が外れてしまい、勝手に崩れてしまうだけ。
てか、息を吹き返すってなんだよ。
まるで元々生きてたみてえじゃねえか。
この七不思議作ったやつ、適当こいてやがる。
―――――――――――――――――――――
「…………もしかして〜、終わり?」
「ああ……。 終わりだ、帰るぞ」
「やだやだやだやだやぁーーだ!! 幽霊でエンカウントするのーー! 夜中の学校を徘徊する妖怪と契約するのーーっ!!」
「現実を見ろ! もう直、夜警の巡回時間だ! 逃げなきゃマズイだろうが!」
御涅る遥夏を全員で必死に抑えつけて、何とか夜の学校から無事脱出することに成功した。
無論、帰り道に警察にでも出会せば、即補導、即事情聴取だ。オレ達は、レポートのまとめは明日にと決めて、急いで解散した。
次の日、レポートは何とか形としてまとまった。
結論:学園七不思議は全てデマ、乃至は有象無象によって尾鰭羽鰭を付けられた誤解、勘違いである。
オカルト検証のために危険を冒して苦労した挙句に、全て無駄足だったというのは酷いオチだったが……、元々本物の不思議現象が起きるなんて期待していない。
これでいい、これでいいのだ。
学生が書く半端なレポートのオチとしては丁度いいだろう。
それに、最近は仮面だの権能だので不思議に巻き込まれすぎていた。だから、失望的だが当然の結果に、どこか安心を感じているくらいだった。