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「リリアンヌ」
その一言で、騒がしかった空気が静まり返った。
銀髪の青年が、彼女の後ろから姿を現す。ルシアン・エルベルト──エルベルト公爵家長男にして、現当主代理。
銀縁眼鏡の奥の視線は、氷のように冷たかった。
「……大変、失礼いたしましたわ」
リリアンヌはスカートの裾を摘み、完璧な令嬢の礼を取る。
――が。
一秒も持たなかった。
「でもっ、でもっ本物のアレク様ですわよね!?!?」
目をキラッキラに輝かせながら、再びアレクへ詰め寄った。
「アレク様! あの銘剣、本当にありがとうございました!!」
「……は?」
アレクが呆然とする中、彼女は嬉しそうに腰の剣を掲げた。
銀装飾と深紅の宝石が施された、美しい長剣。北方鍛冶師ガルディア工房の紋章が、柄に刻まれている。
「ガルディア工房の限定銘剣ですの!! 一生の、いいえ来世までの宝物ですわ!!」
アレクが私を振り返った。
「……バイオレッタ」
「なにかしら?」
「まさか、お前……?」
私はにっこりと微笑む。
「“良い剣を”ってお願いしたでしょう?」
アレクが硬直した。
「……俺は、お前への贈り物だと……」
ボソッと呟く。
ズドーン……!
そんな効果音が見えそうなくらい、アレクは背中を丸め、この世の終わりのような顔で沈んだ。
(レストランで見た彼女のマメだらけの手。原作設定の“隠れ剣オタク令嬢”。読み通りね)
リリアンヌが彼の腰の剣を見て、さらに食いつく。
「もしかしてアレク様も同じガルディア工房の剣を実戦で使われるんですの!? 私、実は――」
「リリアンヌ」
「……はっ」
彼女はぴたりと口を閉じた。慌てて咳払いし、姿勢を正す。
「た、大変失礼いたしましたわ」
そう言いながらも、視線はチラチラとアレクの剣へ向いている。
(全然話し足りなさそうね)
ルシアンが言った。
「立ち話もなんだ。中へ」
***
応接室。
「その剣、あの伝説の名刀ですの!? 重心バランス……っ、や、やば……素敵すぎますわ……!」
「リリアンヌ」
「……はっ」
兄の冷たい声に、リリアンヌはしゅんと肩を落とし、ようやく席についた。
その横でルシアンが脚を組み、私を値踏みするように射抜く。
カチャリ。
ルシアンが紅茶のカップを置いた。
「普通なら、僕は君を追い返している」
「ええ、そうでしょうね」
私は頷いた。
机の上へ、映像魔石を置く。
「私は“敵”として来たわけではありませんわ」
淡い光が広がる。映し出されたのは――給仕の男が、公爵令嬢のカップへ粉末を落とす瞬間だった。
リリアンヌが息を呑む。ルシアンは無言のまま映像を見つめていた。
沈黙の後──ルシアンがゆっくりと視線を上げた。
「で? 君がこれを見せた理由は?」
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