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フレアの行きつけの飲食店を訪れたところ、なんとそこでシンカが働いていた。


「なるほど。しかし、なぜメイド服なのだ? 猫耳と尻尾に、メガネまで掛けて。似合っておるが」


「ディノスに褒められても嬉しくない!」


シンカが顔を赤らめながらそう言う。


「余はいつも素直な感想を言っているだけだぞ? まあよい。とりあえず、何か頼むことにするか」


余たちはメニュー表を見て、それぞれ好きな料理と飲み物を頼んだ。


「それで? どうしてあなた達が一緒にお茶を飲んでいるんだ? もしかしてデートかな? 両手に花だね、ディノス」


シンカが余たちを見ながら、ニヤニヤした表情で聞いてくる。


「デートではない。成り行きだ」


「ふんっ! 由緒正しいバーンクロス家の私が、こんな変人と付き合うわけないでしょう!」


フレアが余を指差しながらそう言う。


「ふむ? 余は、お前が誘うから付いてきてやったのだがな」


「そうですよ。陛下がわざわざ時間を割いてくださったのに、その言い方は不敬です。ぶち殺しますよ」


イリスが殺気を込めた目でフレアをにらむ。


「ひぃっ! ちょ、ちょっと待って。私が悪かったわ。謝ります。ごめんなさい」


フレアが前言を撤回し、謝罪する。

イリスの殺気を受ければ、そこらの高校生などが耐えることは厳しい。


「イリス。その辺にしておけ」


「ですが、陛下」


「余がその辺にしておけと言っておるのだ。三度目はないぞ」


「うっ……。陛下がそう仰るのであれば」


イリスは苦虫を噛み潰したような顔で、殺意を抑え込んだ。


「さて。余計な詮索はいい。シンカよ、さっさと注文した料理と飲み物を持ってくるがいい」


「はーい。じゃ、すぐ持ってくるよ」


シンカが立ち去り、数分後。


「お待たせしました~。こちら、本日の日替わりランチになりますにゃ」


猫耳少女シンカが、三人分の食事を持ってきた。

どうやら、気持ちを切り替えて接客モードになっているようだ。


「うむ。ご苦労」


目の前に置かれたのは、オムライスだ。

半熟の卵が食欲を刺激する。

そして、付け合わせとしてサラダがついていた。


「これは美味そうだ」


「でしょ? ここのシェフは腕がいいんだにゃん。でも、それよりもさらに美味しくする方法があるにゃん」


「ほう。それはなんだ?」


「これを使うのにゃん!」


そう言って彼女が取り出したのは、ケチャップだった。


「これをこうしてっと……」


慣れた手つきで、オムライスの上に文字を書いていく。


「はい、完成にゃ!」


「おおっ!」


そこには『I LOVE YOU』と書かれていた。

面白い趣向を凝らしてくれたものだ。


「愛を込めて作ったというメッセージか。なかなか粋なことをするではないか」


「シ、シンカさん! あなた、陛下に気はないようなことを言っておいて……」


「ち、違うにゃん! そんな意味で書いたんじゃないにゃん! 誤解にゃ!」


「では、どういう意味なのだ? 余にも分かるように説明せよ」


シンカは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに俯いた。

それから、しばらく沈黙した後、口を開く。


「……こ、これは店の決まりなのですにゃ。こう書くように言われているのですにゃ」


「そうなのか。つまりシンカは、金稼ぎのために誰彼構わず愛を囁いているというわけか」


「軽蔑します。シンカさん。陛下というものがありながら……」


「確かに、アクアマリンがやっていることを客観的に見ればそういうことになるわね。この淫売が」


余、イリス、フレアがそれぞれそう侮蔑の言葉を口にする。


「ちょ、ちょっと待つにゃ! みんなして私をいじめないで欲しいですにゃ! 私は淫売じゃないにゃ! メイド喫茶だから、こういうこともしないとダメだって言われただけにゃ!」


「何も違わないだろう。仕事のために、愛を振りまく。別に否定はしない。ただ、”流水の勇者”が今はこういう仕事をしているのだなあという感想を持つだけだ」


「な、何だか含みがあるにゃ。学費を稼ぐために、仕方ないのにゃ~!」


シンカが涙目でそう叫んだ。

やれやれ。

少しイジメすぎたか。


彼女は仕事中だ。

言葉責めはこれぐらいにして、一度解放してやることにした。


余、イリス、フレアの3人で料理を堪能する。

イリスとフレアは、出された料理を美味しそうに食べ始めた。


「おや? 意外ですね。フレアさんは、貴族家のお嬢様なのにこんな庶民的な料理が口に合うのですね」


イリスがそう言う。


「ふんっ! 平民の料理の中にも、そこそこのものは存在するわ。それを認めないほど、バーンクロス家は狭量じゃなくってよ」


フレアがそう返す。


「それは失礼しました。ところで陛下はいかがでしょうか?」


「ふむ……。味は悪くない。そして……」


「そして?」


「あのシンカが愛情を込めてつくったものと考えると、味わい深く感じるところだ。目下の者の心意気は、上に立つ者として受け取ってやれねばならぬ」


余はそう答えた。


「陛下……。そのお言葉だけで、シンカさんは感激の涙を流されることでしょうね」


「ええっと……。それは大げさじゃないかしら? まあ、私にはどうでもいいことだけれど……」


余たちはそんな会話をしつつ、オムライスを食べ進めていく。

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