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メイド喫茶でオムライスを堪能した。
「ふう。食ったな」
「はい。お腹いっぱいです」
「ご馳走様。お会計はいくらになるのかしら?」
「ありがとうございますにゃ。お値段は、5000ゴールドになりますにゃ」
シンカがそう告げる。
「では、これで」
イリスが財布からお金を取り出し、支払う。
「毎度ありにゃーん!」
こうして、余たち三人の昼食は終了したのであった。
その後、喫茶店を後にした余は、城下町をぶらつく。
日差しが強くなってきたため、木陰で休むことにした。
「暑いな」
適温にする類いの魔法は、いくつも使える。
余の体温のみを適切に調整する魔法の他、周囲数メートルを適温にする魔法、街レベルで気温を上下させる魔法、そして世界規模で天候を操作する魔法もある。
しかし、今の余はただの一学生である。
ただの日常生活では魔法の行使を控えるつもりだ。
こうして暑さを耐えることも、学生生活の一部と言えなくもないだろう。
「はい。汗が流れますね」
「ふんっ。この程度で暑いだなんて、これだから庶民は……」
フレアがそう言う。
彼女は火魔法の名門であるバーンクロス家の生まれだ。
暑さに対する耐性も持っている。
魔法を使わない状態における生来の暑さ耐性だけで言えば、彼女は余よりも上だ。
いかに魔王たる余とはいえ、万能ではないのである。
だからこそ、有能な配下はいくらでも欲しい。
世界の安寧を盤石にするためにな。
それに、余の伴侶も欲しい。
優秀な跡継ぎをつくり、平和な世を維持していくのだ。
どこかに優れた伴侶候補はいないものか……。
そもそも余が学園に入学したのは、伴侶を探すためである。
優秀さだけで言えば、フレアとシンカが有力候補だろうか。
イリスも優秀だが、余に異性としての興味は抱いていない様子である。
余と彼女は主従の関係だ。
こちらから強引に迫れば拒否はせぬだろうが、本人の意にそぐわぬ婚姻は余の望むところではない。
余は真実の愛を見つけるのだ。
と、そんなことを考えつつ、城下町を三人でぶらつく。
「あれ? シンカさんではありませんか」
イリスがそんな声を上げた。
彼女が見ている方向を見ると、そこには確かにシンカがいた。
ただし、先ほどまで来ていたメイド服ではない。
いつもの、ボーイッシュな服装である。
「あら、本当だわ。バイトの時間が終わったのかしら?」
「うむ。そうであろうな」
余らはそう言って納得する。
シンカは、余らの姿を認めると、駆け寄ってきた。
どのようなことを言ってくるのだろうか。
「奇遇だね。レアルノート、ノイシェル、それにバーンクロス」
「うむ。貴様もな。……しかし、余のことはディノスと呼ぶがよい。レアルノートと呼ばれるのは他人行儀に感じるのでな」
「ふうん? でも実際、他人だし……」
「そうつれないことを言うな。あのような痴態を晒しておいて」
余はそう言う。
リア充になるためにも、友人はある程度つくっておきたい。
ファーストネームで呼び合うのは、その第一歩だ。
「ちょっ!?」
シンカが顔を真っ赤にして慌てた。
「確かに。今さらですね。陛下の仰る通りです」
イリスのがそう同意する。
「へえ? アクアマリンも、この変態の毒牙にかかったのね?」
フレアが意地の悪い笑みを浮かべながらそう言った。
「ち、違う! そんなことは断じてないっ!」
シンカは否定するが……。
「照れるでない。要するに、余とシンカは他人ではないということだけ覚えておけばいいのだ」
「ううっ……。わかったよ。……ディノス君。これでいいかい?」
「うむ。まあよかろう」
無理やり名前で呼ばせたような形になったが、気にするほどでもないか。
こういうのは形から入っていけばいいのだ。
「……って、そういえば……」
シンカが何かに気づいたような顔をする。
「バーンクロス。さっき、『アクアマリン”も”この変態の毒牙に』って言ってたよね」
「ええ。言ったわね」
「その言い方だと、まるでバーンクロスもディノス君の毒牙にかかったように捉えられるんだけど?」
シンカがフレアにそう指摘する。
「な、何のことかしら? そんな言葉の綾じゃない。大体、あなたには関係ないでしょう!」
フレアが慌てて取り繕った。
しかし、動揺しているのがバレバレである。
「ふうん? 怪しいなぁ……。本当はどうなのかな? ねえ、ディノス君? 君は知ってるんだろ?」
「うむ。知っておる」
「なら、本当のことを教えてよ」
シンカがそう言う。
ライバルであるフレアの弱みを握れるのであれば握っておこうといったところか。
「そうだな。教えても構わんぞ」
余はそう言って口を開こうとする。
しかし……。
「ちょっと待ちなさいっ!」
フレアによって遮られてしまった。
「なんだ? フレアよ」
「レアルノートと私の間には、何もなかった。それで間違いないわ」
フレアが真剣な顔つきで言う。
「本当に?」
シンカがフレアの目を見て問いかける。
フレアはシンカを見つめ返したあと、ゆっくりと目を逸らした。
「……本当よ」
フレアが小さな声でそう答える。
「そっか……。なら仕方がないや」
シンカはあっさりと引き下がった。
フレアがホッとした表情をする。
「……なんて言うと思った? バーンクロスは嘘が下手だね。表情でバレバレだよ」
シンカにそう言われて、フレアはまた慌てる。
やれやれ。
この二人は、本当に相性が悪いな。
水と炎。
人族と魔族。
それでいて、同成績で主席合格だったのだ。
ライバル意識を持って当然ではあるのだろうが。
もう少しだけでも仲良くしてほしいものである。