テラーノベル
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翌朝、ZEROBASEONEの楽屋は異様な熱気に包まれていた。いつもは和やかなメンバーたちの顔が、どこか強張っている。ユジンが重い足取りで中に入ると、マネージャーと数人のスタッフが、深刻な顔でタブレットを囲んでいた。
「……信じられない。昨夜の練習室、一体何が起きたんだ?」
ハンビンが画面を見つめたまま、驚愕の声を漏らす。ユジンは心臓が跳ね上がるのを感じた。心当たりは、ただ一つ。昨夜、屋上への階段で見つめ合ったあの時間だ。
「昨夜二時、このエリアで観測された魔力指数が、通常の最大値を三〇〇パーセント上回ったらしい。魔法庁の監視網(アイ)が一時的にオーバーヒートしたほどだ。テロか、あるいは……」
「あるいは?」
リッキーの問いに、マネージャーが震える声で答えた。
「――『国家級魔導士』に匹敵する、圧倒的な光の覚醒だ」
その瞬間、部屋中の視線がキム・ギュビンに集まった。
ギュビンは当惑したように眉を下げ、いつものように曖昧に笑ってみせる。
「なんでみんなこっち見るんだよ笑」
だが、その指先からは、隠しきれないほどの黄金色の粒子が、まるで呼吸をするように溢れ出していた。
「ギュビン、昨日一人で練習してたのか?」
ジウンが尋ねる。ギュビンは一瞬だけユジンに目を向け、すぐに逸らした。
「あ、いや……。少し、力の加減を試してただけで。そんなに大ごとになってるなんて思わなかったよ」
「大ごとどころじゃない! 国家魔法庁から特別調査員が派遣される。お前のその『光』は、この国のエネルギーバランスさえ変えかねないと言われているんだ。ギュビン、お前はもう、ただのアイドルじゃない。この国の『至宝』として、一生国家に管理される立場になるかもしれないんだぞ!!」
マネージャーの興奮した声が、ユジンの耳には「死刑宣告」のように響いた。
周りのメンバーたちは、口々にギュビンを称賛し驚いている。
「さすがギュビナ」
「信じられない、国家級なんて」
誇らしげなハンビン、少し羨ましそうに笑うゴヌクやテレ、驚きに目を見開くメテュ。
だが、ユジンだけは、その輪から一歩、また一歩と後退りした。
(……ああ、そうか)
ユジンは、冷たくなった自分の指先を握りしめた。
ギュビンは、太陽なのだ。
暗闇の底にいる自分を照らしてくれる、優しい光。そう思っていた。
けれど現実は違う。ギュビンはあまりにも眩しすぎて、隣にいる自分を焼き尽くしてしまうほどの存在だった。
ユジンの体には、魔力が一滴も流れていない。
一方でギュビンは、国家を揺るがすほどの、神にも等しい力を手に入れようとしている。
「魔法のない重罪人」と「国家の至宝」。
この差は、努力や愛情で埋められるものではなかった。
(俺が隣にいたら、ギュビニヒョンの光を濁らせてしまう)
もし、ユジンに魔法がないことがバレたら。
そして、国家が喉から手が出るほど欲しがっているギュビンが、そんな「欠陥品」を隠し、あまつさえ愛していることが知れたら。
ギュビンの輝かしい未来は、ユジンという泥に引きずり込まれて、一瞬で終わってしまうだろう。
「ユジン、どうした? 顔色が……」
ギュビンが異変に気づき、手を伸ばしてくる。
いつものように、その温かい光で自分を救おうとする。
だが、今のユジンにとって、その差し出された手は、どんな刃よりも鋭く胸を抉った。
「……触らないで」
ユジンは、掠れた声で言った。
「え?」
「触らないでって言ってるんだ! 暑いんだよ、その光……!」
楽屋が、一瞬で静まり返った。
メンバーたちが、信じられないものを見る目でユジンを見つめる。いつもギュビンに懐いていたマンネの、初めての拒絶。
「……ごめん。ちょっと、気分が悪いだけ」
ユジンはギュビンの傷ついたような瞳を直視できず、逃げるように楽屋を飛び出した。
廊下を走りながら、視界が涙で歪む。
魔法を使えない自分。ギュビンに魔法を使わせ、その才能を無駄に浪費させている自分。
自分がこの世から消えれば、ギュビンは誰にも邪魔されず、この国の頂点へと上り詰めることができる。彼は、選ばれた人間なのだから。
(ごめん、ギュビニヒョン。俺やっぱりヒョンの隣にはいちゃいけないんだ)
魔法庁の監視の目がすぐそこまで迫っている。 ユジンの心臓は、魔力の鼓動ではなく、ただ死への恐怖と、愛する人を壊してしまうことへの絶望だけで、激しく波打っていた。
壁に貼られた魔法新聞の号外が、風に揺れている。
そこには、昨夜観測された黄金の光のグラフが、不気味なほど高く突き抜けていた 。
それは、二人の愛の証ではなく、逃れられない破滅へのカウントダウンだった。
𝐍𝐞𝐱𝐭 ▹▸ 01/23
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