不破side
いつも気がついたら俺の目の前には泣いている人がいる
それも俺の名前を呼びながら
“どうして”
“思い出して”
“湊!”
って
俺の知らない人が何度も繰り返し主張をする
あぁ俺はまた無くしてしまったんだ
大切だったはずの記憶を
一年ほど前から
記憶に違和感を持ち始めた
元々記憶力はいい方で、一度見れば大抵のことは覚えていられる方だった
しかし、友達と話をしているとあまりにも話が合わなくて
自分の記憶を探っても、一向にない情報ばかりが他人の口からは語られていた
不思議に思い、普段はいかない病院に行くと
記憶障害だと診断された
年を重ねるに連れて進行が進み
やがては呼吸の仕方すらも忘れてしまうらしい
怖かった。自分の中から大事なものが消えていくのが
怖かった。忘れたくなかった
この人生にいらない思い出なんてない
辛い経験だって、楽しい経験だって
その全てがあって今があるのに
その全てがなくなっていく…?
俺が俺ではなくなっていく…?
嫌だ。怖い。嫌だ。
それからは何かに取り憑かれたかのように
全てのことに対してメモをとった
思い出を忘れないように。忘れてしまっても思い出せるように。
それでも運命は残酷で、
また俺の前で、知らない男の人が泣いていて。
メモの紙にはその人の名前であろうものが
何十回も殴り書きされていて、
“忘れるな”
“思い出せ”
ってぐちゃぐちゃの文字で書いてあった
それくらい大切な人”だった”
きっと俺自身忘れたくなかったはずなのに。
今はもう、なにも思い出せない
「みなと…俺のこと、忘れちゃったのかよ…」
ごめん。
「俺。みなとのことずっと大切で…」
ごめんなさい
「思い出してくれよ…」
[ごめん…なさい、]
俺の謝罪を聞くと男の人は走ってその場を立ち去った
あぁ俺はこれまで何人の人を傷つけてきたのだろうか
その人たちのことすらも、もう俺の記憶には…
俺はこれから何人を傷つけてしまうのだろう。
もう嫌だった。限界だった
人を傷つけるのも。自分が忘れてしまうのも。
言葉にできない悲しみが襲ってくることも
全てに耐えられなかった
もう…無理だよ
もう終わりにしよう
グググ
俺は自分で自分の首を絞める
[グッ…がっ、けほ、っ…]
これで終わりにするんだ。
これ以上人を悲しませないために
[っ…カヒュ…ッ、げほっ、]
これ以上、忘れることがないように
[…っ、カッヒューッっ、カッハ‼︎ゲホゲホっ、]
俺の気持ちとは反して手が勝手に首から手を離す
[ハッ、ハァーっ、ッゲホ、なんっ、で、ぇ]
これ以上悲しみたくないのに
どうして俺の体は拒もうとするんだ
生きようとしてしまうんだ。
じゃあ。俺は、おれは…
[どうしたらいいの…]
忘れたくない。怖いよ。やだよ
生きたいのに、死にたくて
忘れたくないのに、忘れてしまって
新しい友達ができても
大好きな人が出来ても
全てなくなってしまう
[は、はは…]
そんなある日
赤メッシュで今にも泣きそうなお兄さんに出会った
話を聞くと財布を無くしてしまって帰れなくなってしまったらしい
正直、人とこれ以上の関わりを持ちたくなかった
きっとまた傷つけてしまうから
それでも、不憫で可哀想な彼を放って置くことはできなくて
一緒にホテルで泊まることにした
名前は三枝くんというらしい
明るくて、元気で太陽みたいな子だった
一緒にいると楽しくて
出会ってすぐだとは思えないほど
彼は素敵な人に見えた
だから怖かった。近づくのが
これ以上親密になりたくなかった
朝早く彼に置き手紙を残して去っていく
あれ?下の名前なんだっけ
まぁいいや、きっと会うことはもうないだろうし
そんなことを思いながら
内心少し悲しい気持ちを抱えつつ部屋を後にした
これでお別れしたのに。
もう一度再開してしまった
親密になってしまった
明那はいい人だ。それも底なしに
何度も遊びを重ねて、楽しくて
居心地が良くて
遊んでいる期間は明那のことずっと覚えていて
忘れたことなんて何もなくて
このまま回復傾向にあるのかもしれないと
期待していたんだ
でも病院にいき、告げられたのは
“かなり進行が進んでいる”
“もう治る兆しはない”
そんな言葉だった
俺がバカだった
わかっていたのに。知っていたのに
明那とこんなにも親密になってしまった
忘れたくなくなってしまった。
病院を出た後何も考えられなくて、苦しくて
思い出すのは明那のことばかりで
今はこんなにも鮮明に覚えていることも
いつかは消えてなくなってしまう
このことを君が知ったらどんな顔をするのかな
いつも頭には君がいるのになぁ…
『ふわっち!?大丈夫?』
あ、あぁ
すごいタイミングで会えたな
もう。ここで伝えてしまおうか
[俺、明那のこと忘れちゃうかも知れない]
あぁ。またそんな顔
傷ついた顔しないでよ。
ごめん。ごめんね
こんな俺で、ごめん
コメント
3件
全部の作品、読ませていただきました…!ストーリーからシチュエーションまで本当に最高です!
不破って不穏がなぜこんなにあう男なんだろうか
遅くなったので二話です…!二話なのに長くなってしまったので時間がある時にでもゆっくり読んでください!