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地上に出ると、夕焼け空が広がっている。
俺についてきたのは弘子だけだった。
正門前で、学祭の備品を買いに行くという英治と会った。そこで、俺達はコンビニに立ち寄り、マジック、セロテープ、はさみなどを買い、ついでに酒類を袋に詰め、それから時計台のある大講堂前に座り込んだ。
「私、ミューズのあの『帝国主義』が嫌いなんです」
と弘子が言った。
誰が名づけたのかは知らない。BGM業界が盛り上がりをみせ、その中でシェアno.1のあの会社を、マスコミは最近そう呼びはじめた。
「ミーティングのときかかってたのも、あたしはあんまし好きじゃないです。なんか、みんな猫も杓子もミューズって感じで。ああやって流行に流されていく日本の大学生像って、どうかなって思います。ミューズ系の曲やるのは、私も反対です」
英治は立ち上がり、それから焼酎をなめ、そして弘子に言った。
「いろいろカッコいいこという先輩達はいろいろいるけど、就活の頃になると、ロックの神を捨てる人の、多いの何のって。
結局はこのサークル、あの会社に媚びてんだよ」
弘子の横顔が振れ、髪が少し乱れた。
「私はそういうの、好きじゃないです」
英治は俺を見て、なぜか笑う。
「ところがここにいらっしゃる健太さんは、そうじゃない。ホントは、単にみんなのようになれないだけなんですけどね」
「それ、どういう意味だよ」俺は英治の額をこずく。彼もこずかれに、額を出す。
「もう結構、軽いです。全部入れちゃいましょう」
弘子が紙パックの焼酎を、俺のコップに注いできた。ふにゃふにゃで質感のないプラスチックに、いくらかながら質感が加わる。
「でも、社長が本当に会場にきたら、すごいことになるよ。俺が奴に、ロック魂をぶつけてやるよ」
俺がそう言うと、三人の会話は途切れた。