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真昼間の公園に来ると負けた気になる。右を見ればあほ面で寝てるおじさんがベンチに腰をかけており、前を見れば砂場で夢溢れる子供が遊んでいる。 会社を飛んで近くのスーパーに買い出しに行った帰り、少し休憩がてらに寄った私もまあ、大概だけど。缶コーヒーを片手に太陽の熱で熱くなったベンチに腰掛けた。空っぽの頭にセミの鳴き声が余計に響く。

「ねえ、お姉さんこんな時間に何してるの?」

知らない男の子だ。

「君こそ、学校は?」

「もう夏休みだよ」

携帯を見ると日付は8/1だった。だから今日は子供が多いのか。

「じゃあ、沢山色んなところに遊びに行けるね。」

「別に、僕はどこも行けないよ。」

「あ、うん…そっか。」

「でも大丈夫。ここに来れば遊べるもの沢山あるし。」

「だね。きっと楽しい夏休みになるよ。」

筒に入ったチョコを渡し、まるで何かから逃げるように公園を後にした。

「強がっちゃって、立派なガキだ。」

男の子のいけすかない顔が昔の自分にそっくりだったんだ。 コーヒーを1口含み、道端に吐き、残りはそのままゴミ箱に捨てた。こりゃ、強がってるのは私の方かもね。



小さな石ころを蹴って、蹴って、蹴り続けて

家まで帰る。親に内緒で借りたアパート。二階建て木造おんぼろアパートは高校の先生を保証人にして借りた。立て付けの悪い扉は重くて少し力がいる。この部屋で送った日々は地獄だったな。 頭痛はいつからか日常になり、涙はフィクションになっていた。部屋の真ん中にどんと置いてある 大きな箱は実家への贈り物だ。毎月お菓子や入浴剤などちょっとした物だけど詰めて送る。

「まーどるちょこ、まーどるちょこ…あれ?」

両ポケットに手を突っ込んだまま思い出す。おばあちゃんが好きなチョコを買いに行って、帰りに寄った公園で少年にあげたんだった。仕方ないからそのまま閉じるためガムテープを取ろうと立ち上がった。歩く度軋む床にイライラしながらの生活は今日が最後だと思うとせいせいする。最初は怖くて仕方なかった壁の怪しいシミをなぞりながら思い出す。事件性を感じ大家さんにしつこく確認を取って嫌な顔をされたな。

「まあ、ひとつくらいいいか。」

ダンボールの蓋を閉じようとガムテープを勢いよく剥がすと隣からコンコンと音が鳴る。いつもより大きめの溜息をつき、音がならないようゆっくり剥がした。部屋にはこのダンボールと私だけ。チャイムが鳴り、出ると大家さんがいた。

「はい、じゃあ失礼するよ」

部屋に上がりぱっと軽く見終わると無言で手を差し出してきた。

「あ、鍵ですね。すみません。」

本鍵と合鍵があれば渡すがそんなものは無いのでひとつの本鍵を渡すと玄関で私をお見送りしてくれた。

「お世話になりました。」

そう言ったらすぐダンボールをキャリーカートに括り付け階段を降りた。なんだかお腹の中がもやもやして気分が晴れない。私はさっき降りた階段をもう一度上り2階にまで行く。ゆっくりゆっくり私の部屋の1つ手前まで足を運ぶ。

「こんちきしょう!!!」

大声を上げ思いっきり部屋の扉を蹴りつけた。

「誰だこの野郎」

やまびこのようにすぐ声が返ってきた。おじさんの怒鳴り声を聞きつけ大家さんが私の部屋から出てきたので急いで階段を降りた。

「じゃあね、大家さん!!」

硬直したままの大家さんがお隣さんと鉢合わせイチャモンをつけられ始めた。

その様子をニヤニヤ見ながら急いで逃げる。

「あはは。はー、ほんとばかだな。みんな」

後ろから追いかけてこないか少しビクビクしながらも笑いが止まらなかった。そのまま近くのコンビニへ行き荷物を出しにいく。


「じゃあ、こちらお預かりします」

「あ、後すみません。アイスカフェラテのm下さい」

やっぱり、 コーヒーはまだ早かった。歳を取れば自然と飲めるようになると思ったのにな。砂糖で甘々にしてマドラーでかき混ぜる。 腐って落ちるまで私にはなにが出来ただろう。結構星見るの好きだったし、おばあちゃんに頭良いって褒められたこともあった。NASEとか頑張れば行けたのかな。宇宙人とか新しい惑星とかそんな馬鹿みたいなことしてお金入るなんていいな。私は未だに未確認生物とか信じてるし、本気で日本を良くしようとしてる政治家がいるっても思ってる。自分はどんな大人になるはずだったんだろう。……くだらない。

日が長いとはいえ、だいぶ暗くなってようやく夜が来たような感じがした。ぬるい風があちらこちらから流れ込んで心地いい。やる事はやったし、心残りはないなんて言いながら上司からの留守電を見ると胃がキリキリする。気づけば昼と同じ公園まで来ており、同じベンチに腰掛ける。見上げると昼とはまた違った景色が広がっていた。

黙ってベンチに座っていると目の前を通った人が何か落とした。

「あ、すみません。なにか落とし…ま」

「……はあ。だと思ったよ。 」

この時、私は昔のことをよく思い出した。昔のことそして今の自分の状況を。

「か、課長…。すみません。」

世界の無にパシンっと乾いた音だけが残った。

「だからさ、

そういうとこなんだって前から言ってるだろ。」

「すみません。すみません。でも…。」

胸ぐらを強く掴み、暴言を吐き続ける課長を見て私はどれだけ小さくて、弱いのか思い知った 。拳が飛んできて、その場に倒れ込む。

「泣いてりゃ済むと思ってんのか?」

そう言うと、課長は私の手を掴んできた。いつから切ってないのか知らない伸びた爪が腕にくい込む。頭ひとつ分くらい背丈の違う男に襲われ情ながらも涙がどんどん溢れ出る。


手を引っ張られ公園を出ると横の小道を抜けて大きい通りに出る。掴む手は決して緩むことなく、むしろ強まっていった。街はまだ明るく、人も沢山いた。このオフィス街には楽しそうな人なんて一人もいない。鼻を啜りながら小さく泣くその声にすれ違う人みんな振り返る。それでもこの街ではそこまで不思議なことでもなかった。前に泣きながら帰る人とか道端で怒鳴られてる人見たことがある。もうすぐそこに会社が見える。建物に入ってすぐ右にある受付警備室の出っ張ったカウンターを、コンコンと叩いた。

「はい、どうされ…ああお疲れ様です。」

「あ、すみませんね。

ちょっと“この子”落ち着かなくて。」

課長はそう言って、笑いながら私を指さした。2人の嫌味な笑いが容赦なく耳を刺す。リードに繋がれた犬のようにぐいぐい引っ張られエレベーターに乗り込む。ようやく手を離してくれたが痛すぎて動かすことができない。止まることなく上がっていくエレベーターは何故か最上階を目指していた。7階は普段は会議室として使われているため私もほとんど利用したことがない。課長が携帯を取り出し、小さなキー音を連打する音だけが響く。 会話のない箱の中でチンっと音が鳴り扉が開く。エレベーター横の小会議室の扉を開けると籠った蒸し暑い空気が一気に飛び出してきた。

「そこに立ってろ」

そう言いながら部屋に乱雑に放り込まれる。窓を開けながらも口では私を攻撃し続けた。「すみません」

「だから、なんでそうなるんだって聞いてんだよ。」

もう既に手をつけりないほどの騒ぎになっていた。

「課長…」

部屋の扉が勢いよく開き、そこに居たのは係長だった。声をかけられ冷静を取り戻したのか一瞬落ち着いた。

「ああ、ちょうどいい。」

私を睨みつけ係長の元へ歩み寄る。滝のように流れる汗に混じった涙が余計しょっぱく感じた。息苦しくなり空いた窓から顔を出して外の空気を吸い込んだ。下を見てみるとかなり高さがあった。生ぬるいビル風に煽られ頭が狂い始める。

「上呼んできてくれ。後はあいつの処理は俺がしとく」

課長のその一言が、私の存在をも”物”にした。その一言で、ここには私の居場所がないと分かった。 気づくと私は部屋に戻り、窓の縁に腰をかけていた。足はもう床を探していない。体が傾くとぬるい速度で落ちた。

「(こんなはずじゃなかったのに。最後まで私はこうなんだ。また、会いたいな。)」

どこにも行けないのに、名前を呼ばれる場所を探していた。神様がいるならばお願いします。

「私の居場所を下さぁぁぁぁぁあい。」


チリーン(風鈴)

いつか帰れたらと、連休が来る度にそう思っていた。どれだけ夢見たことか。 あの、夏を。


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