涼架に出会って数年が経ち、中学生になった元貴はある悩みを抱えていた。
波打ち際に座り込む二人の間には、静かな波の音が満ちていた。元貴は砂を指で弄りながら、学校で出来事について口を開く。
「俺、人並みにはいろいろできる。だからいじめとかはない。でも誰かと話しても盛り上がらないし、なかなか友達もできないんだよね。それにこの間聞いちゃったんだ。大森って考え方違いすぎて話し合わないよなって、クラスの男子たちが言ってるの。学校つまんない、勉強ならりょうちゃんに教えてもらえるし、行くのやめたい」
元貴の言葉を静かに聞いていた涼架は、少し黙った後、柔らかい声で言った。
「確かに元貴はしっかりしてるし、僕なんかよりずっと大人っぽい考え方してると思う。でも、だからこそ元貴はちゃんと自分のことも周りの人たちのことも考えて行動できる。簡単にできることじゃない、それってすごいことなんだよ」
そう言いながら涼架が元貴の肩に手を置いた瞬間、元貴の目の奥にじわりと涙が浮かんだ。
その手の温もりと声が、心の中の傷にじわっと染み渡っていく。
「 今はわかってもらえないかもしれない。でもね、きっと元貴のことわかってくれる子がいると思う。だからもう少し頑張ってみない?つらくなったら僕でよければいくらでも聞くから」
「・・・うん、わかった。りょうちゃんがそう言うならもう少し頑張ってみる」
元貴の言葉に涼架は優しく微笑んだ。
悩みや苛立ちをぶつけてもいつでも温かく自分を包み込んでくれる涼架のことが、元貴は昔から大好きだった。
その感情はただの友愛だと思っていた。
まだ、その時点では。
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