テラーノベル
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「私は千年…いや、もう数え切れないほど生きてしまった老だ」
蔦が這う白い洋風の屋敷。
その中庭には、今だ手入れされているのかと疑うほど、洋風の家には似つかわしくない和風なタイル、何かが生きていたであろう大石で囲まれた池が綺麗に整備されていた。
一望できる渡り廊下の手すりに、物思いにふけるように体重を預ける彼女。
長く綺麗な銀の髪が木造の手すりに垂れる。
「遠い遠い、馬鹿げた商人の噂話なのだが…」
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とある村に、ひとりの青年がいた。
村では人間が用いる実用的な、少しの魔法の使用が許可されていたらしい。
青年は生まれつき魔力を持たず、物心ついた時、やがて真実を知ることとなる。
両親は諌めようとした。貴方は何も悪くないんだと、そういう体に産んでしまった私達の責任よと、自分で自分を咎める両親に、優しい心を持った青年は自ら命を絶とうとした。
けれど、何度自身の腕を切りつけようが、何度高所から飛び降りようが、何をしても、痛みを感じることすら許されない体に恐怖、違和感、嫌悪を抱く。
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「そして青年は、呪術に手を出した。」
青い空に浮かぶ綿あめ雲をその紅色の瞳に捉えながら語る。
私は、昔からものを考えすぎる質だ。自負しているが…
「もしかして、その青年とやらは…」
彼女は、申し訳なさそうに笑うばかり。多くは語らない。
「…青年は、自分の”魂”が死ぬ代わりに、新しい人格をその体に移そうと考えた。そんな馬鹿げた呪術がどこにあるのだ、と秘密を知った両親は内心嘲笑っていたそうだ」
憶測でしかないが、多分この両親は、生まれつき所持した能力が魂に植え付けられているものだと勘違いしていたんじゃないだろうか。そうでなければ、隠していた努力を泡に絶とうとする青年を引き止めず、嘲笑ってしまうことなどなかったのではないだろうか。
「…未練がましい噂話だ」
だから、私はこの体に生きた。
彼女の、最初に口にした言葉”プレイヤー”とは、入れ替わりで来るどこかの世界で命を落とした未練持ちの魂らのことを指していたのだとようやっと理解できた。
もう少し生きたかったが、事情が事情な為に自ら命を捨てた青年の体を媒体に、呪術とやらが完成していたのだとすれば、”未練”が共通項となり引き寄せる条件にもなりうる。
しかしどうだろう。
「質問をいいですかな」
「なんなりと」
「ある程度仮説は組めたのですが、どうにも私には”変化”が見られないのです」
呪術とは本来、禁忌とされるもの。
それが何故禁忌とされるものなのか、理解できてない者ほど痛い目を見ると、過去に曽祖父から分厚い本を寄越されたことがあった。
幼いながら高校生レベルの漢字が読み書きできるようになったのはそのせいでもある。
今となっては、何故彼があのような本を持っていたのか甚だ疑問だが。
話が逸れたが、私が言いたいのは思い当たる”代償”がないということ。前世ではデメリットとも呼ぶらしいが、私はどうも英に疎いらしい。
「本当に上物だな。しかし自身を分析することには長けていないとみた」
大きく伸びを見せ、またあの不敵な笑みを見せた。
「違和感があるんじゃないか?ここに」
彼女は、頭を2回、人差し指で示してみせた。
コメント
6件
その場の動作や状況をこと細かく表しているので凄く想像しやすく面白いです!!なんか、難しいけど今まで見たどのノベルよりも臨場感があって、つい見入っちゃう!😍
寝てる間に2話も…😭😭😭更新ありがとうございます!! ほんとに最後の終わり方が最高すぎます…っ!!!! 表現力半端ないですよ…、なんかこれぞノベルって感じがする…(