テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
屋上で待っているよ、という義兄のメッセージを読んでため息をついたあと、僕はエレベーターホールに向かった。
必要なものは手に入ったし、人が多い場所はどうにも苦手だ。さっさと義兄と合流して帰ることにしよう。
喧騒から離れた、やけに静かなエレベーターホール。地元のショッピングモールの奇妙な間取りのせいで、屋上へ向かう場合を除いてほとんど使われることのないエレベーターだ。通常の来店客は大体、モール中央にあるもっと大きなホールのエレベーターを利用するから、こちらがすいているだろうと踏んでやってきた。屋上には小さなベンチと自販機くらい。なんだってそんなところで合流と決めたのか、義兄の気ままさには本当につかれる。
「運動がてら階段できな」、というふざけた要望を無視して、僕はエレベーターに乗り込み、屋上階のボタンを押してドアを閉じる。ドアの「しまる」のボタンを押し、一度しまりかけたところでもう一度開いたことに不思議さを感じつつも、僕はもう一度「しまる」のボタンを押してドアを閉めた。
――その、次の瞬間だ。
「――えっ」
僕は思わず呆けたような声をあげてしまった。何が起きたのか理解できない。すさまじい悪寒と、とてつもない吐き気。すぐそばのボタンで次の階を連打し、動き出したエレベーターが止まるのを必死に待つ。
転がり出るようにエレベーターを降り、とっさに振り返ったとき――
エレベーター――その鉄のはこの内側には、みっちりとなにかがつまっているような、そんなおぞましい幻覚がみえた、気がした。
◆ ◆ ◆
「ああ――よかった、ちゃんと逃げてこられて」
義兄は階段を息を切らしながら這い上がってきた僕を向かえて楽しそうに笑った。
「……言ってくださいよ、危ないからエレベーターには乗るなって」
僕の恨みを込めた言葉にも、義兄はあっけらかんとしたものだ。
「階段使ってきな、って言ったでしょ」
言いながら、専門店で買ったらしい可愛らしい包装紙で巻かれたクレープを差し出してくる。これを大の大人が持って階段を駆け上がったんだとしたら狂気の沙汰だが、彼ならやるだろう。
僕は無言でクレープを受け取ると、大きめの一口をかぶりついた。真っ白な生クリームの甘味とイチゴの酸味が、辛うじて僕が現実にいるということを感じさせてくれた。
コメント
1件
読み終えたわ…エレベーターの「みっちり」って表現、一気に背筋が冷えた。義兄さんはいつもの飄々とした感じでクレープ差し出してるのが、怖さとのギャップでむしろ沁みる。無事でよかったね、って思わず言いたくなった。現実に引き戻してくれる甘さ、分かる気がする。