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冷たい床に、血の跡がまだ残っている。
「お前のせいだよな?」
ナムギュが転がるように床に座り、かすれた声で笑った。
ミンスは喉の奥がひりつくのを感じたが、何も言えない。
ナムギュの服は血で汚れていた。いや、正確にはナムギュの手が汚していたのだ。
セミ姉さんを殺したのはナムギュだった。だけど、それを止められなかったのは…
「……僕の、せい……」
自分の声がひどく小さくて、まるで他人のもののようだった。
ナムギュは皮肉げに鼻を鳴らす。
「やっと自覚したか。お前、マジで最低だな?」
そう言いながらも、ナムギュの声には張りがなかった。
あのクスリの禁断症状が出ているのか、身体が微かに震えている。
ミンスはじっとナムギュを見つめた。
細い首、薄い鎖骨、汚れた指先。
憎くて、許せなくて、だけど同時に――
ミンスはそっとナムギュの肩を掴んだ。
「……何?」
ナムギュが薄目を開ける。
ミンスは何も言わず、そのまま彼の手を握った。
「は?」
ナムギュは乱暴に振り払おうとしたが、ミンスは強く指を絡めた。
「……僕は、僕は……っ」
声が震える。
目の奥が熱い。
今すぐにでも泣いてしまいそうだ。
ナムギュはそんなミンスをじっと見上げる。
いつものように馬鹿にするような笑みを浮かべるかと思ったのに、
「……気持ち悪ぃ」
そう言いながら、ナムギュはミンスの手を握り返してきた。
まるで縋るように。
ミンスの喉が詰まる。
こいつは、人を殺した。
大好きな、セミ姉さんを殺した。
だけど、そんな手を握っているのは、自分だった。
自分もまた、汚れているからだろうか。
「……ナムギュ」
「何だよ」
ミンスは少しだけ指に力を込めた。
「僕が……君を壊すよ」
ナムギュが一瞬、目を見開いた。
「……あっそ」
ナムギュの唇が、ひび割れたように歪んだ笑みを形作る。
ミンスの言葉を冗談だと思ったのか、それとも本気で受け取ったのか、どちらかは分からなかった。
「……お前が俺を壊す?」
ナムギュは、絡められた指をゆっくりと動かしながら、ミンスを見上げた。
「笑わせんなよ、ミンス。お前、俺に逆らうどころか、敬語もやめらんねえクセに」
ミンスは目を伏せなかった。
いつもなら、ここで言い返せず黙り込んでしまう。
だけど今は違った。
「敬語なんて、もうどうでもいい」
ナムギュの表情が一瞬、固まる。
ミンスはそのまま、彼の手を引き寄せた。
「……おい」
嫌がるような声を出しながらも、ナムギュは力なくミンスに引き寄せられるままになっていた。
クスリの禁断症状のせいか、身体に力が入らないのだろう。
ミンスはナムギュの喉元に顔を寄せると、小さく息を吐いた。
ナムギュの肌は、熱を持っていた。
「君は、僕に何をしてもいいと思ってたでしょ」
「……あ?」
「だから、僕もそうすることにした」
ミンスは、ナムギュの首筋に唇を押し当てた。
甘いものなんて何もない、血と汗の混じった苦い味がする。
「っ……何してんだよ!」
ナムギュが身体を引こうとするが、ミンスは許さなかった。
ナムギュの腕を強く掴み、逃げられないようにする。
「僕は、君のこと、壊すって言ったよね」
ナムギュの目が揺れる。
ふざけた笑みも、余裕も、すべて薄れていく。
「君のせいで、セミ姉さんは死んだ」
ミンスの声が低く落ちる。
「僕は、君を止められなかった」
ナムギュの喉がわずかに動く。
ミンスは、その喉元に舌を這わせた。
「だから……もう、止めるつもりもない」
今度は、噛んだ。
歯を立てて、跡が残るくらいに。
ナムギュが息を詰まらせ、微かに震える。
「っ……!いっ…は? いきなり何だよ…!」
「君が僕を弄ぶのは許されたのに、僕が君を弄ぶのはダメなの?」
「……っ」
ナムギュは何も言えなかった。
怒ることも、笑うこともできないまま、ただミンスを見つめるしかなかった。
その目に宿るのは、恐怖か、それとも――
ミンスはもう一度、ナムギュの唇に触れた。
今度は、優しく。
「これからは、僕の番だよ」
ナムギュは、黙っていた。