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「とんでもない情報をゲットしてしまった…」
あれから数日後。影の調査をしながらも仕事はこなさなくてはならない。締め切りが近付いているものがあり、メンバーは忙しく仕事に取り組んでいた。
そんな中、作業通話から抜けてコンビニに夜食を買いに出たりもこんが戻って来て早々そんなことを口にした。
「え、もしかしてお前、戦闘してきたのか?」
ふうはやが尋ねると、りもこんはそうだと頷く。他の面々が大丈夫だったのかなど心配の声を掛けると、りもこんは至って平気そうに言う。
「影の数自体は少なかったから大丈夫。近道に使った裏路地で襲われてさぁ…。仕事立て込んでるから今は困るって言ったのに!」
此処最近、影との戦闘も慣れてきていること、影や呪いよりも仕事の方が立て込んでいることと重なり、抱えている重要事項が後回しになっていた。そしてそれを何処か楽観的に受け入れてしまっているのも事実で。故にこんなにも緩い会話となってしまっていた。
「俺ら、何時襲われるか分かんないんだから裏路地なんて危ない所通るなよ」
「だって急ぎたかったんだもん!」
「で? りもこんが入手した情報って何?」
りもこんは敵の影を操って戦わせるという方法を用いる。代償として相手の魂が抱える情景が自身に強制的に流れ込み、苦痛を与えてくるのだ。しかしそれは、今の彼等にとって有益な情報を齎す術でもあった。
「あの影達がめちゃくちゃ集まっている場所があるみたいなんだ」
「まじ?」
彼の見た情景は、とんでもないものだった。場所は何処かの地下。そこに、とんでもない数の影があった。それらは中央にある何かを見詰めている。そしてソレは、突如として近くにいた影を内部に取り込んだ。
「真っ黒な卵みたいな形をしていたんだ、それ。取り込まれた影は少しして出て来たんだけど、なんかもう雰囲気が違ったというか。強化されてるみたいだった」
とんでもない情報だった。影から得たということから、事実であることは明白。
「…それ、ほぼ確実にラスボスじゃん」
以前、少しばかりふざけながら話していた内容がまさか真実になるとは。だが、それにより光明が見える。その黒いモノを如何にかすればいい可能性が高いのだから。
「でさ、影達はその物体のことを“母胎”って呼んでた」
「それって…」
「多分、そのままの意味じゃないかな」
母胎…母なる胎。
影達を強化しているということは分かった。だが、それ以外にも意味を持っていると考えられる。それは、呪いの産まれる場所。
「影…影喰って呪いに呑まれた人間から出来たよな」
「ああ。整合性が合いにくいけど、此の母胎から産まれた呪いが人間を襲って影にする。そして母胎で強化されて更に強いものになる…って考えたんだけど」
正解は分からないが、しゅうとの述べた考え方は今分かっている状況から考えるに正しいものであるかのように思えた。
「詳細は兎も角、新しい情報を得たから今後は進展出来そうだな!」
ふうはやがわざと明るめの声で言う。今の自分達は抱えるものが多すぎる。全てを一度に収めることは不可能だろう。
「でもその前に仕事するぞ! これが終わんねぇと俺達、身動き取れない!」
自分達に掛けられた呪いが、何時、どれだけの早さで侵食を続けるのか分からない。本当は一刻も早く動きたい気持ちが誰しもにあった。
だが、此処で焦れば上手くいかない可能性もある。こういう時、重要なのは如何に常と同じ判断を下せるのか。ふうはやはそれを知っていた。知っているからこそ、日常を回すべきだと主張をした。
「…そうだな。目の前のこと、まずは片付けるか」
かざねが同調する。すぐに、しゅうとも同じようなことを言った。
情報を得てきたりもこんは少々不服そうだったが、ふうはやが言わんとしていることも分かる。故に今は、これ以上自分の意見を押し付けるべきではない。結果的に、全員は仕事へと戻ることになった。
「母胎、か…」
だが、メンバーにそう言いはしたものの、時間を見付けてふうはやは外に情報収集へと出て来ていた。りもこんの齎した情報は、此の世界から脱出をする為に重要であると捉えた。ならば、それに繋がるものを更に得ていく必要がある。
現状、りもこんとふうはやの二人が敵から情報を得ることが出来る。ならば、積極的に動く理由としては充分だった。
夜の街を、彼は歩く。最近、何故だろうか。以前よりも影に襲われる頻度が増えたように感じる。その度に戦闘をし、情報を得ているのだが、力を使えばその分呪いの侵食は進む。
だが、ふうはやはある時気付いた。力の使い方により、呪いの浸食度が違うことに。
大きな力を使えば使う程、浸食は大きくなる。以前、仲間達を守る為に異形の姿へと変貌した際にはかなり浸食が進んでしまった。だが、日々よく利用している腕の変形程度ならば然程侵食が進まない。だからよい、という訳ではないが力の使い方を考えれば戦闘回数は増やすことが出来る。
しかしふうはやは影を食い、情報を得る代償として影が最期に見た記憶や情景を追体験してしまう。それの負担は、本人が思っているよりもかなり重い。繰り返すことで精神的に不安定になりつつあることを、彼はまだあまり自覚出来ていなかった。
故にふうはやはメンバー達の為、自分を犠牲にして夜の街を歩き続ける。そして、影達から数多の情報を得ていった。
「ふうはや、ちゃんと寝てる?」
ある日、しゅうとがそうふうはやに問いかけた。ひとまず仕事を優先しようとふうはやが提案をした日から、一週間程は経過していた。
「え、寝てるけど何で?」
この日はメンバーが集まって打合せを行うことになっていた。幾つかの企画の話をし、休憩時間になる。その頃になると、しゅうとは酷く眠たそうな顔をしていた。
かざねとりもこんはコンビニに出向いており、室内にはふうはやとしゅうとの二人しかいない。その時だった。しゅうとが問いかけたのは。
「ふうはやの顔、俺と似たような感じになってるよ」
しゅうとは力を使いすぎている影響で、肉体の消耗がかなり激しい。故に多くの睡眠を必要としていた。今は戦闘回数を減らしているとはいえ、蓄積されたものがある。故にしゅうとは常に眠気と戦っている状態になっている。
そんな彼が、ふうはやの顔が自分と似たようなことになってきているという。即ち、かなりの疲労が蓄積されているということ。
「……」
「ほら。無茶するだろうな、って思ってたけどやっぱりね」
嘘などすぐに見抜かれていた。しかし、全く睡眠を摂っていない訳ではない。情報収集をしながら、その合間に寝てはいる。彼が言うところは、それだけのダメージがふうはやの肉体にかかっているということ。
「確かに俺達はふうはやとりもこんに情報収集を頼んだ。でも、自分を犠牲にしてまでしてほしいとは思ってない」
「けど、さ。多少無茶をしないといけないってことはしゅうとも分かっているだろ? 俺達に残されてる時間、多分そんなに多くはない」
「それ、は…」
「特にしゅうと、お前の浸食度が一番心配なんだ」
しゅうとに降りかかっている呪いは、目に見えて分かるものではない。しかし、彼の現在の様子を見るに相当進行してしまっていると考えることが出来る。ふうはやは恐れているのだ。手遅れになり、如何にもすることが出来なくなってしまうことを。
「此の世界で、手遅れになった時にどうなるのかなんて分からない。お前らを失う可能性があるからこそ、悠長にはしてらんねえんだ」
仲間を守る為に自分が犠牲になることは厭わないと、そうふうはやは言う。その言葉は嬉しいが、同じことをしゅうとも思っていた。
「…まあ、そろそろ仕事も少し落ち着く。そうなったら全員んですんげー頑張ろ」
「そう、だね」
互いが互いを思い合っているが故。誰の犠牲もなく、この局面を乗り切る。そう、ふうはやは思っていた。
「ところでりもこんとかざね、遅くねえか?」
「そういえば」
二人が出掛けて、だいぶと時間が経過している。近くのコンビニに行くだけの筈なのに、とそう思った時だった。ふうはやのスマホが着信を告げる。
「りもこん?」
画面に表示されていたのはりもこんの名。何か尋ねたいことでもあったのだろうか。そう思いながら通話ボタンをタップする。
「もしもーし」
だが、彼の声は聞こえてこない。悪戯でも仕掛けられているのだろうか、と思った時だった。
『……て』
「え?」
僅か、りもこんの声が聞こえた。
「りもこん? どうした?」
呼びかけるが、応答はない。幾度も声を掛けると、ノイズのようなものが聞こえてくる。耳を澄ませながら呼びかけを続けると、何かが蠢くような音が聞こえる。そして。
『たすけて』
そう、言葉を残し、通話は切れた。
「今の、って…」
最後に聞こえた声はりもこんのもののように思えた。彼が、助けを求める言葉を放った。その意味が分からず、ふうはやは呆然とする。側で様子を見守っていたしゅうとが、自分のスマホを取り出した。
「落ち着け、ふうはや。こっちからも連絡してみよう」
その言葉にはっとした。確かに自分達からアクションを起こすことは大事だと。それぞれ、りもこんとかざねに電話を掛ける。しかし、そのコールが繋がることはなかった。
「これって…」
幾度か試してみたが、応答はない。二人の間に嫌な空気が漂う。
「何かが、あったんだ」
そうとしか考えられなかった。
「探しに行こう」
「ああ」
動くしかなかった。こうなってしまえば、りもこんの声で求められた助けは事実である可能性が高い。もしかしたら何かの罠かもしれないが、動かない理由にはならなかった・
「二人共無事でいいてくれよ…!」
ふうはやとしゅうとは、外へと飛び出した。その先に広がる光景が、地獄の様相を呈していると、今はまだ知らない。
コメント
2件
投稿ありがとうございます🙇♀️ 今回も最高すぎます!仲間を思うが故に自分を犠牲にしているのがとても切なくて…読んでいる最初は新たな重要な情報をゲットしていい方向に進んでいくのかと思いきや、最後は、えっ!?ってなる展開になっていてドキドキハラハラ過ぎます…!!この続きも気になります! これからも無理なさらず頑張ってください!楽しみにしてます😊😊