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「な、何だこれ…ッ」
外の光景に、二人は思わず息を呑む。そこには、何時もの日常はなく、地獄へと迷い込んでしまったかのような景色が広がっていた。
空は紅く染まり、地を照らしている。そして街中に溢れるのは、人ではなく数多の影。
「少し前までこんなことになってなかったよな⁈」
焦ったように言葉を紡ぐふうはや。しゅうとも動揺はしていたが、冷静でいなければと必死に自分に言い聞かせていた。
かざねとりもこんは、この異常と化した世界の何処かにいる。早く見つけなくば、取り返しのつかないことになり兼ねない。
「とりあえず近くのコンビニ迄行こう」
二人はコンビニに買い出しに出て、この事態に巻き込まれている筈だ。りもこんを名乗る者の電話内容だけを信じると、別の場所にいると考えられるがそれでも確認をしなくばならなかった。
「…いないか」
いて欲しい、とそう願うも打ち砕かれる。人間の姿が何処にもない店内。商品は変わらずに陳列されたままだが、探している二人の姿は無かった。
「抑々、何でこんな状態になったんだ?」
「確かに」
しゅうとの言葉に、ふうはやも疑問を持つ。四人がこの世界に入り込んでから、暫しの日数が経過している。その間に何かしら敵側も事を起こす機会など、幾らでもあった筈だ。しかしそれはなく、今事態は動いている。
「……もしかして、俺達の呪いが進むのを待ってた、とか?」
ふうはやの意見は、あながち間違いでもないのではないかと考えられた。自分達は、何かしらの目的の為に此の世界に呼びこまれている。機が熟した、そんな状態であると考えるのは普通なことであった。
「考えられるね。りもこんが仕入れた情報の中にあった母胎。それが絶対に関与しているとも思う」
有力な情報としては、それくらいしか浮かばなかった。だが、何にせよ母胎の場所を特定せねばならない。
「何処かの地下が、みたいなこと、りもこん言ってなかったか?」
「確かそんなこと言ってたな。でもさ、こんな都会にそんな場所なんてあるか?」
考えてみるが分からない。しかし、立ち止まっていても進展はしない。あてずっぽうではあるが、今は動くしか道はなかった。
「あの二人は何処に行ったんだろう…?」
「影にやられたりしてないといいんだけど」
二人の安否は未だ分からない。街の中を歩き回りながら、手がかりがないかを探した。
「うわ、影が此処にもいる」
街中には影がひしめいていた。全ての場面で戦闘をすれば、二人共消耗しきってしまう。避ける為には出来る限り戦闘を回避しなくばならない。
遠回りをしながら、近くの公園や行きそうな店舗を覗いていく。しかしどこにも痕跡はない。
「どうしよう…」
最悪の展開が頭をよぎる。そんな悲観的な考えを振りほどこうとした時だった。
「⁈」
遠くから聞こえる、戦闘のような音。自分達と影以外に動く者がいなくなった街で、それは酷く響いた。
「あっちにかざねとりもこんがいるかも!」
「行くぞ!」
影の妨害など、気にする余裕はない。そう判断し、二人は走り出した。
「これ、やばいよねぇ…?」
目の前に広がる光景を前に、りもこんはぼやく。コンビニに買い物に出た筈なのに、何時しか外は紅く染まっている。往来していた筈の人々は消え、代わりに影が蠢く。
危険と判断し、咄嗟にかざねと二人で路地裏へと飛び込んだ。しかし此処も安全とは全く言えない。影達は二人を探すかのように、蠢き続けている。
「突然、何でだ?」
訝し気な表情でかざねがぼやく。先程までは何時もと同じ日常だった。それが唐突に変貌をした。
「…機が熟した、ってところじゃない?」
四人が閉じ込められている此処は、現実とリンクしている部分も多いが違う時空の世界だ。呪いの為の、呪いが顕在化しやすい場所。そんな所に不幸にも招き入れられてしまった面々。目的が近付いて来ているから、この世界は次の段階へと移行をしたのだろう。
「敵が本格的に動き出した感じか」
「だと思う。…かざね、君の呪いはどれだけ進行をしているんだい?」
りもこんの問いに、かざねは少しばかり黙る。しかし、言わない選択肢はなかった。ひとつ、息を吐いて言葉を紡いだ。
「まあ、結構やばい。ちょっと前に見せた時よりも進行してはいる。…元々、俺の呪いは俺の心臓から始まってる。全部が呪いに覆われた時、きっと俺は人間の姿ではいられない」
かざねの呪いは、自身の身体を人形へと変貌させる。だからこそどれ程の傷を負おうと死ぬことなく、戦い続けることが出来ているのだ。しかしそれにも限界はある。肉体の全てが呪いに侵食されれば、彼は最早人間ではなく呪いそのものとなってしまう。
「成程ね」
りもこんの考察はこうだった。四人の呪いの進行が臨海に達しかけている。だからこそ、元凶であるナニカが動き始めたのだと。世界の変化は、その結果ではないかと。
「分かりやすい感じだな」
「ああ。で、しゅうとの呪いの進行も相当進んでるんだろ?」
「……かなり、不味い方向にな」
今だからこそ、言わねばならぬと決心してかざねは言う。それは、しゅうととかざねの二人でしか共有されてきていなかった情報だった。
「しゅうとの呪いの力である死神は、自分の命を原動力として使用している。だからあいつは段々と身体が動かなくなっていっているんだ。死神の鎌を一度使用する度に、命を削っている。……多分だけど、後数回も使用出来ない筈だ」
「命を全て消費すると…」
「結果は分からない。けど、それが呪いに呑み込まれることに繋がるんじゃないか?」
かざねもしゅうとも、もう時間がない。だが、今の状況は彼等に戦う以外の選択肢を与えてはくれていなかった。敵が求めているのは、彼等の命なのかそれとも成熟した呪いそのものなのか。目的は不明だが、少なくとも生きている状態を望まれていないであろうことは容易に考え付いた。
「…俺達がやらなきゃいけないのって、やっぱり母胎を倒すことだと思うか?」
「そう、思ってる。俺が取り込んだ影が見せた光景。あれが全ての元凶で、倒すべき存在なんだって。でもさ、思うんだよ。全員で辿り着けるのかな、って…」
りもこんの言葉にかざねは思わず黙った。二人は薄々感じている。全員で敵を倒して大団円、という結末に辿り着くことの困難さを。それが、難しいであろうという状況であることも。
「……今、俺達の中で希望があるのはふうはやとりもこんだと思うよ」
かざねは言う。自分としゅうとは、もう長く戦えない。だが、今の影がひしめく状況から考えるに、母胎に辿り着くまでに相当な戦闘があると予測される。自分達はきっと、その全てを乗り越えることは出来ないと。
「しゅうとと決めてるんだ。俺達は最後まで辿り着けない。だから、二人を前に行かせる為の戦い方をするって」
「かざね…」
彼等は覚悟を決めていた。命を代償に、先へと繋げる為の。
「…覚悟を決めてるんなら、俺も話しとかないといけないことがある」
りもこんの告白に、今度はかざねが驚いた顔をする番だった。
「……それって…っ」
かざねが呻く。覚悟は決まった。しかしそれは背負わせてしまうということ。
もう一度、口を開こうとした時だった。路地裏を覗き込んだ、影と目が合ったのは。
「りもこん!」
「かざね⁈」
かざねが庇うように前に出た。影の攻撃が彼を傷つけるが、それを厭わずに飛び込む。
出現させたのは、針。人形を縫う為の、巨大なソレ。飛ばした針が、影の頭蓋を打ち抜く。壁に貼り付けられた影は、衝撃で霧散した。
「ごめん、助かった」
「大丈夫か?」
「俺は大丈夫。けど、かざねのその力って…」
「なんか使えるようになってた。俺も人形になるって暗示にでもなってんのかな? けど、此の針大量に出せるみたいだし戦うには便利っぽい」
努めて何事でもないかのようにかざねは言う。しかしりもこんは知っている。その攻撃ひとつひとつが、彼の呪いを進行させることに繋がっていると。
「…ふうはやとしゅうとと合流しよう。こうなった以上、俺達に許されているのは前に進むことだけだ。遅れを取れば、母胎に辿り着くことすら出来なくなるかもしれない」
「そうだな」
周囲の様子を見回し、二人は路地裏から出る。ふうはや達と合流する為に道を進むが、生憎と影達がそれを許さなかった。
「これ、俺達に力を使わせる為に沸いてきてる⁈」
そう思わせる程、多くの影が出現しては二人に襲い掛かる。一体ごとの攻撃力は然程高くはないが、数が多ければ苦戦することになる。
「りもこん! お前後ろに下がってろ!」
能力的に、かざねの方が戦闘に向いている。故に彼はりもこんを守る為に前へと出る。
「かざね⁈」
「お前は最後まで立ってなきゃいけないんだ!」
最終決戦がきっとある。その時まで、りもこんは立っていなければならない。そんな先を迎える為に、かざねは自分を酷使して影の前に立つ。
「数ばっかりいやがって!」
腕を横薙ぎに振るえば、かざねの周囲に夥しい程の針が出現する。それらはかざねの腕の動きに呼応し、一斉に影へと放たれる。矢が拡散されながら放たれるように、それらは影へと突き刺さった。
しかしすぐにまた影は出現する。幾ら倒したとて無駄だと言わんばかりの数に、かざねの眉間に皺が寄った。
「…ッ、まだ、今じゃねぇ…!」
呪いが侵食しているのが分かる。変質させられた、己の心臓のあった部分がギリギリと軋む音がする。今や全身を流れているのは血液ではなく、綿と糸なのだと自覚をした。
このまま戦っていれば、確実に呪いに呑み込まれる。分かっていて、かざねは戦うことを選んだ。だが、このままでは何も出来ずに終わってしまう。先へ進むことも出来ず、りもこんも守り切れない。そんな結末は迎えたくなかった。
「早く…早く…ッ!」
自分が自分でなくなってしまう前に。ふうはやとしゅうとと一刻も早く合流しなくてはならない。しかしそんな思いを嘲るかのように影達の猛攻は止まらない。
視界が赤く染まり始める。しかしそれでも、と抗い歯を強く噛み締めた時だった。
「「かざね!」」
二人の声が聞こえたのは。
「状況がやばすぎる!」
聞こえてきた戦闘の音。走って行けばそこには、数多の影と先頭を繰り広げるかざねとりもこんの姿があった。
だが、りもこんをかざねは庇っているのだろう。影の多くを自分に引きつけ、次々に屠っている。その姿に、ふうはやとしゅうとの背筋に冷たいものが流れた。
「「かざね!」」
思わず同時に叫んだ。かざねの呪いは、深刻な程彼に影響を与えていた。
かざねの容姿は、既に変質を始めていた。身体に負わされた傷からは綿のようなものが飛び出し、片目は人形に縫い付けられているようなボタンになっていた。
驚きに動きが止まりかけるが、それよりも今は安全を確保するのが優先だった。
「しゅうとはりもこんの近くにいてくれ!」
ふうはやが指示を飛ばし、自分はかざねの方へと走る。その途中で自身の腕を変質させ、近くにいる影を切り飛ばした。
「ふうはや…っ」
「あと少しだけ頑張れるか⁈」
「大丈夫っ」
彼の姿を見るによくはない。しかし、この状況を変える為には共に戦うしかなかった。
二人で次々に影を消していく。倒すことでふうはやを飢餓が襲うが、それを必死に耐えた。そして最後の一体をふうはやの腕が掴む。飢餓に塗れ、目が見開いて血走る。抗うことなく影をその口へと運んだ。
咀嚼し、嚥下する。それと同時に流れ込んでくる情報や記憶、感情。それらの多さに膝を付くも、直ぐに首を横に振って意識を戻し、立ち上がった。
「かざね…っ」
しゅうとがかざねの側へと駆け寄る。呪いの進行が戻ることはない。僅かに首を横に振ったかざねを見て、しゅうとが複雑な表情をした。
「此処まできちまったか…」
ふうはやが呻く。もう、後戻りすることは出来ない。まやかしの日常は完全に破壊された。
「…時間がない。ふうはや、何か新しい情報は得られたか?」
自分の終わりが近いことを最も理解しているのはかざね自身。ふうはやは彼の言葉にはっとした。
「…いや、思った以上に有益なものは得られていない。だが、この先に影がひしめいているのは分かった」
そう言い、先を指さす。影が集まっているということは、重要な何かがある可能性が高かった。
「それに補足する情報になるかもだけど…」
りもこんが口を開く。かざね達に護られながらも、何も戦っていない訳ではない。りもこんも幾つかの影を使役し、そして情報を得ていた。
「母胎みたいな形が見えた。多分、影が集まっている場所なんじゃないかって思う」
「なら、そこに行けば…?」
「多分」
考えても正解は出てこず、選択肢もない。罠の可能性も充分に考えられたが、今の四人には前に進むしか出来なかった。
「かざね、後どれくらい持ちそうか分かる?」
「どうだろ…。でも、次に大きな戦闘があったら分からない」
「かざね、それってどういう…」
一人、ふうはやだけが彼の言葉を上手く咀嚼することが出来ない。意味が理解出来ない訳ではないが、認めようとしたくない思いが働く。
「見て分かるように、俺の呪いの進行度はかなりやばい。姿ももう戻らない。多分、次に思い切り力を使ったら、俺は完全に呪いに呑み込まれるだろうな」
「呪いに呑み込まれちまったら、その時はどうなるんだ…?」
「そんなの分からん。けど、だからって恐れて脚を止めることは出来ない。ふうはや、それくらいお前も分かってるんだろ?」
ふうはやは何も言えなかった。理解と感情が乖離している。納得など出来る訳がない。しかし、それでも前に進むしかないのだ。
「…行こう」
此処も、何時まで安全かは分からない。今、彼等に出来ることは、先に進むことだけ。
誰もいない、静かな道を進む。不思議と道路には車の影はなく。静けさに包まれた街の名赤を真っすぐに進んで行く。「しゅうと、大丈夫か?」
ふうはやとりもこんが前を歩き、後ろをしゅうととかざねが歩く。かざねが心配そうな声でしゅうとを気遣っているのを聞き、前を行く二人は後ろを振り返る。
「少し、休むか?」
先程の戦闘でしゅうとも力を振るっている。それにより、負荷がかかっているのだろう。辛そうに歩く彼に提案をしたが、しゅうとは首を横に振った。
「時間を無駄に出来ないから、先に進もう。俺のことは気にしなくていい」
「そんなこと言うなよ…っ。俺は…俺は、全員で此処から脱出したいよ」
そう言うふうはやの声は、何処か泣きそうだった。彼の切なる願いに、誰も返答をすることが出来なかった。
脚を止めることなく、四人は歩き続ける。不思議と、道中で影に襲われることはなかった。酷く不気味ではあったが、それがかえってこの後に戦闘があるのだろうという思考へと辿り着かせていた。
「……あの先っぽいね」
四人は自然と足を止めた。街中に突如として出現した、黒い壁。其処から先を見通すことは出来ない。
「何か、別の世界に繋がってるみたいだな」
「まあ、此処自体が別の世界な訳だし、こういった感じになるのも分かるかな」
まるで漫画やアニメにでもあるかのような、そんな光景。これから自分達があの中へと入り、敵を倒す。それが出来ればきっとハッピーエンド。出来なければ、バッドエンド。
そんな単純なものかは分からなかったが、少なくとも行かないという選択肢はなかった。
「…行くか」
考えていても事態は動かない。四人は、黒へと足を踏み入れた。
「予想はしてたけど、とんでもない光景だな」
壁の先の空間には、夥しい数の影が蔓延っていた。まるで彼等を迎え入れるかのように、影達はゆらゆらと左右に揺れる。
「この先に、母胎があるのか?」
「あの先にありそうじゃない?」
りもこんが指さした先。影達を潜り抜けた先の地面がほかりと穴を開けているのが見える。
「あー…地下みたいな場所ってそういうこと?」
「きっとね。あそこまで行くの、相当大変だよねぇ…」
「やるしかないか」
影が、動く。まるで何かに命令されたかのように。数多の影が四人へと標的を定めて。
「……さて、しゅうと」
「ああ」
かざねとしゅうとが、ふうはやとりもこんの前に立つ。その意味が分からず、困惑した表情をするふうはやと、覚悟を決めた顔をしたりもこん。
「お前らが此処で消耗する必要はない。俺達が足止めするから、先へ進め」
「ちょ、ちょっと突然なんなんだよ⁈」
「あんま時間がない。早く行くんだ」
「いやいや! 全員で戦えばいいだろ! なんで二人だけ残ろうとしてんだよ⁈」
ふうはやは必至に二人に言う。しかし、それを止めたのはりもこんだった。
「ふうはや、早く行くぞ」
「ちょっ、りもこん! お前まで何で…ッ」
「四人だと、辿り着けないからだよ」
ふうはや以外の三人は理解していた。影は無限に沸く。母胎がある限り。だから全員で進むことなど出来ないと。
「でも、だからって、何で二人なんだよ⁈」
それでもふうはやは反論する。かざねとしゅうとの二人である必要はないと。
「…お願いだ、分かってくれ」
ふうはやの気持ちは痛い程分かる。自分が彼の立場ならば、同じように言うだろうと。でも、この立場を譲ることは出来なかった。
「なあ、ふうはや」
かざねが彼の側に寄る。泣きそうな顔をしている彼の頬へと、そっと手を添えた。
「きっと、きっと大丈夫だ。だから、行ってくれ。頼むから」
その言葉にどれだけの思いが込められているのか、ふうはやは分かっていない訳ではない。しかし認めたくはなかった。此処で彼等を残して先へと進めば、後悔してしまうかもしれない。
「……絶対、追いついて来いよ」
「ああ」
この約束が果たされるのかという保証はない。だがそれでも、決断するしかなかった。
「かざね」
「ああ」
頬から手を離し、かざねは影の方へと向き直る。敵の数は膨大で。今からこれらと戦うのかと思えばげんなりする。だが、それでもやらなくばならない。
「「行け‼」」
影が、一斉に襲い掛かって来た。ほんの少し、戸惑うふうはやの手をりもこんが強く引く。
「行くぞ!」
影を操り、僅かな道を開く。その隙間を、二人は縫うように走る。後ろを見れば、二人は穏やかな表情をしていた。
「さて、と」
「ああ」
かざねの周囲に針が浮かぶ。呪いの侵食と引き換えに、今迄にない程の力を解放する。呼応するように、その姿が呪い人形へと変貌していく。
しゅうともまた、死神の武器である大鎌を出現させた。その周囲には青白い炎が舞い、彼の姿はローブを被った異形へと変貌する。まるで、存在そのものが死神へと変わったかのように、鎌を持つ手は何時の間にか肉が削げ落ち骨へとなっていた。
「…もう、元には戻れないね」
「いいさ。きっと、ふうはやが何とかしてくれる。俺達はそれを信じて、影達を葬るだけだ」
「そうだね」
呪いの侵食は臨界へと達した。いずれ、この意識も呑み込まれてしまうのかもしれない。だが、それでも二人は選択した。自分達を犠牲にしたとて、二人を先へ進ませると。
「行くぞ、しゅうと!」
「ああ!」
「…さあ、此処が穴だ」
かざねとしゅうとにより、ふうはやとりもこんは何なく穴の淵へと辿り着いた。巨大な穴は、ほかりと口を開いてその場に鎮座する。
振り返れば、二人が激しい戦闘を繰り広げているのが微かに見えた。彼等が呪いの力を使い、その命を削っている。決意を知っているりもこんは、彼等の犠牲を無駄にすることは出来ない。
「二人が影を足止めしてくれている今がチャンスだ。急ぐぞ」
「…ああ」
ふうはやも覚悟を決めたのだろう。一度、後ろを振り返るがすぐに前を向く。そしてりもこんと共に、穴へと飛び込んだ。
「…此処にもッ」
穴の先に広がっていたのは、広い空間。暗い筈なのに、不思議と周囲の様子を見て知覚することが出来た。そして奥に、不思議な光があった。
しかし、空間に蔓延るのは数多の影。それらを如何にかしなくば、辿り着くことは出来ない。
「さて、ふうはや」
どうやって先に進もうかふうはやが思案していると、りもこんが振り返った。その表情に、嫌な予感が募る。
「俺とは此処で、お別れだ」
「ど、どういう意味ッ…⁈」
「此処は、俺の出番ってことだよ」
りもこんは語る。三人の想いを。
かざねとしゅうとの呪いの侵食は早く、次に大規模な戦闘になれば全身が吞み込まれる。だからこそ、あの場で足止め要員として残ることを選択したと。
そして今、この場。りもこんはふうはやに言う。自分の呪いの本質は、今此処で使うべきであると。
「俺の呪い、如何やら全部飲み込めるみたいなんだ」
それはまるでおもちゃ箱のように。影を操って情報を取得出来ていたのは、呪いの一部の力でしかなかったと。夥しい影のいる現状、呪いを使って全てを呑み込み、ふうはやを先へと進ませると。
「いやいや! そんなことしなくたって一緒に切り抜ければいいだろ⁈」
「それが出来たら苦労はしねぇよ。ふうはや、お前も気付いてるんだろ?」
振り切ることなど出来ないだろう。誰か一人が残り、もう一人を先へと進ませる。それしか出来ないと。
「なら俺が!」
「俺の呪いじゃあ母胎を破壊出来ない。それが出来るのはふうはやだよ。だから、俺が残るのに意味はある」
りもこんの言っていることは分かる。しかし、進みたくなかった。これ以上仲間を置いて行くなど、したくなかった。
「大丈夫だって! それに、お前がボスを倒してくんないと此の物語も完結しないだろ?」
「でも、それで解決するかもわかんねえし…」
「それなら尚更出来ることをしないと。かざねとしゅうともそれを願って俺達を前に進ませた。俺も同じ気持ちだよ。だからふうはや、お前は先に進んでくれ」
選択肢など、最初から存在していなかった。三人は最初からふうはやを進ませる為の策を考えていたのだから。
「りも…」
「俺が影を呑み込むからさ。その隙に奥へと行くんだぞ。頼んだからな!」
「りも‼」
それ以上ふうはやが何かを言う前に、りもこんは影の方へと突き進む。そしてその瞳に光が失われるのと同時、呪いが彼を変貌させる。
それはまるで、壊れたおもちゃ箱。バネのような両手足を振り回し、鋭い歯の生えた口の中へと影を次々に放り込んでいく。
『ハヤク!』
りもこんの声に背中を押され、ふうはやは走り出す。目指すのは、母胎。
「無事で、無事でいてくれよ…!」
そう、強く強く願い、ふうはやは光へと飛び込んだ―――
コメント
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うわぁー!待ってました! 読み進めていけばいく程涙が止まらないです😭😭fuさんの「全員で脱出したい」というセリフも、kzさんの頬に手を添えて「きっと大丈夫。頼むから。」というセリフで我、号泣です😭 4人の絆と覚悟が胸にグサグサと刺さりすぎて、明日学校に行けるか心配になってきました🥺 いつか小説出して欲しいくらいほんとにお上手です!!今回も楽しませて頂きました!ありがとうございました😊