テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
僕は、不幸体質らしい。
いや、幼いころから不幸体質で、何か恰好をつけるたびに、ロクでもないことが起こった。
例えば、野犬に襲われている同級生に「ここわ俺に任せて先に行け」って言った瞬間、犬に押し倒されて用水路に落ちたり。
バンドで恰好つけてドラムたたいて最後に魅せプをしたくなり、やったら体育館の床が僕のいる場所だけ抜けたり。
恰好つけていたら散々なことが起こっていた。
そもそも、恰好つける必要はなかったのに、ことあるごとに僕という人間はやってしまい、カッコもつかない状況になってしまうんだ。
そんな改装を挟みつつ、僕は今現在治験に来ている。
知らない人のために、治験とは新薬や医療機器の「候補」を人を対象として行い、その効果を確認するというものだ。
受けた後には高額のバイト代が入り、今回の報酬はなんと10万円だった。緊急でお金が必要な僕は飛びつかざるを得なかった。
「で、あなたがここに来た志望理由は?」
でもまあ、目の前にいる人がどんな人かは知らないが、少なくとも。
「お金です」
「いいね、正直で。下手に人のためになりたいっていう人よりかは信用できる。採用」
小学生ぐらいの少女に任せるようなものではないはずなんだよなぁ。
「えっと審査があるって書いてあったんですけど」
「もう終わってるよ」
「え、今の問答で?」
「いや入った瞬間」
自慢気に眼鏡をトントンする少女怖ぁ。
「ち、ちなみに今回の内容って」
「若返りとか諸々」
「帰ります」
「成功したら倍以上の報酬」
「何ぼさっとしてんですか。早くやってくださいよ」
「いいねえ。面白い」
足早に帰ろうとした僕は急いで椅子に座りなおす。
……人間てば愚か。でもそんなものだよね。
そっからは話も早く進んだ。
「君も知っていると思うが、現在ネットやテレビでは魔法少女やヒーローといった超常の存在であふれている。魔法少女はマナを操り、ヒーローはエーテルを操り日々魔人や怪人といった存在を退けているんだ」
「はあ、そうですね」
少し前までは普通に退屈なテレビやたまに炎上している有名人を見るためネットに潜っていたが、数年前から魔法少女やヒーローという存在が出始め注目の的となっている。
精霊とかドラゴンといった存在が人に紛れて闊歩する光景も珍しいものではなくなってしまった。
「まあ、詳しい説明は省くが。要は君の体に眠るエーテルとマナのバランスを崩して若返りができるということだ」
「なるほど」
恰好つけたけど意味わからん。
でも報酬はいいんだよな。理解する必要もないしね。
「じゃ入れるね」
「何を?イタッ」
目の前にいた少女は目にもとまらぬ速さで僕のおなかに見慣れない注射器を刺していた。
「ちょっと待っ――」
意識が朦朧とする。熱いような冷たいような世界が揺らめいて、注射器が引き抜かれるのと同時に地面に倒れ伏した。
やっぱりカッコはつかないよな。やべ、意識落ちる。
「大丈夫。死にはしないさ」
そういう問題じゃないんよ。倫理観迷子か。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「(見慣れない天井じゃん)」
目を覚ますと多くのラノベ主人公が病院で言いがちなセリフNo.1をつぶやいてみた。
実際問題、真っ白な病院の天井が真っ先に目に入るような人生は送ってこなかったから今しかやれるタイミングがないと思ってやってしまった。
「(いやはや何が起こったのか皆目見当もつかないな)」
目元を擦ろうと手を挙げると僕の手とは似ても似つかないプルプルで毒々しい紫の手が見えた。
「目が覚めたかい」
「(どうなってます僕の体)」
「ん-。何が言いたいかわからないが君は今スライムになってる」
なんでやねん。かろうじて人の手を保っているが気が抜けると軟体生物のような動きをする手をぶるんと震わせる。
「マナとエーテルをゼロにしたら安定したから安心だね」
「(まったく安定してませんが)」
「無論報酬も弾むよ」
「(実験の成功おめでとうございます)」
上体を起こしベットを抜けて地面に立とうとすると床にべしゃりと落ちた。
お金に目がくらんで冷静ではなくなっている。こういう時こそ冷静に。
「安心して。君は特異点として成功例の2作目になれたんだから」
少女が心拍数ゼロみたいなモニターを指さし、さらに口を開く。
「君は両方に対して干渉できるんだ。マナとエーテルは正反対の物質つまり君は」
こちらを振り向きかわいい顔を凶悪に歪めながらにんまりと笑う。
「両方を殺せるのさ」
「(ロクでもねえな)」
「30万くらいでどうだい?」
「(っぱ博士ぱねえっすわ。一生ついて行くっす)」
いやいや冷静。冷静さを保つんだステイクール。
「あと、君が気を失っている間に体に機械を埋め込ませてもらったんだけど」
「(何やってんですか?)」
「エーテルが多いと男の子。マナが多いと女の子になるらしいんだ」
「(ホント何やってんですかあんた!)」
情報量が多いのよ。なんか周りも騒々しいし。
「ふーんすぐそばで魔人とヒーローが戦っているっぽいね」
別の画面を開くと戦闘状況が表示される。
空を舞う真っ赤なヒーローと対立する異形の影。
「本来はいらないけど、ほしいし次は実践データね」
「(いらない言うてますやん)」
紫の体を見つめる。心の奥底から力があふれ出るのを感じる。
‘‘憎きドラゴンと戦え‘‘なぜだかそんな風にささやかれる。
「(……仕方ないですね。一瞬で終わらせます)」
その瞬間天井の配管が外れ水が降り注ぐ。抵抗しようにもスライムの体では抵抗むなしく排水溝に流されていく。
「ん-下水につながってるだろうからマンホールから自力で出てよね」
薬の治験に来ただけなのにカッコつけるとぼろが出る……どうしてこうなったんだろう。
48