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玄関は、静まり返っていた。いつもの光景に、ふぅ、と溜め息をつき靴を脱ぐ。
その時、小さな足音と共に小学生くらいの男の子が近づいてきた。丸いくりくりの目で、こっちをじーっと見ている。
俺は、その子に身長を合わせるために、低くかがむと、下手くそな笑顔で話しかけた。
「や、やあ…快斗。ただいま。」
「……」
ふわふわした柔らかい髪の毛に触れようと手を伸ばす。
…が、男の子はそれをすり抜け、無言で二階に上がっていった。
残された空しい右手を見つめ、再び溜め息をつく。今度はもっと深く。
「あら、なあに?もう帰ってきちゃったの?」
すぐあとに、女性が不機嫌そうに現れた。俺の妻だ。もう…というには遅すぎる時間帯。
遠回しに、まだ帰るな、と言っているようなものだ。
「あ、ああ。ごめん。」
意味もなく謝ってしまうが、妻は興味なさそうに俺の横をすり抜けていく。
「あっそ。言っとくけど、ご飯もうないから。適当に食べてね。」
「うん。分かった。」
俺の返事も待たずに妻は、二階へと続く階段を登っていった。
そして、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。多分、快斗と遊んでいるのだろう。
俺は、二階には上がらず、リビングへと足を運んだ。