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ザインとガルドの得た情報を元に、ヴェルガ教の多元主義派の根城は3か所まで絞られた。
もしかすると他にもあるかもしれないが、今のところはこれが限界――
……そんな中、アリアに叩き起こされたレイラが示したのは、1つの廃城だった。
「……遠いな。他の2か所の方が近いし、そこから確認しても……」
「そうすると、それだけ時間が掛かっちゃいますからねぇ」
レイラが廃城を示したのはただの直感である。
だからこそ、いざとなると……ガルドはやはり、素直に同意することができなかった。
……この地方の地図を広げて、全員で考える。
「大きく迂回すれば、他の2か所をまわった上で、廃城に行くことはできる。
ただ、そうすると時間が掛かるから……。最低でも、馬車ではなく馬を使った方が良いな」
「んー。二手に分かれて、全部確認しよ~、って話になるのかな?」
「旦那の心配を考えれば、そういうことだな」
「でもそうすると、他の2か所がアタリだった場合は……どうするんですか?」
「その場合は、どうにかして馬車組を呼ばないといけないねぇ」
この世界において、遠距離同士で連絡し合う手段は少ない。
例えば教会などには連絡用の水晶があるが、持ち歩きができるものではないし――
「アリアの魔法でどうにかできない? 割と何でもできるイメージなんだけど……」
「そういうことは出来ないんだよねぇ。
……んー、メルちゃんって、『光の饗宴』はどれくらいの大きさを出せるの?」
「はぁ……。精巧なものは大きくは無理ですが、単純なものなら……100メートルくらいでしょうか」
「おー、凄いね。
それじゃ、時間を決めてサインを出せば、双眼鏡を使えば見えるかな?」
「アタリかハズレかを、私の異能で伝える……ということですよね?
そうすると、私は馬組になるわけですが――私、馬って乗ったことが無いんです……。
そもそも、どなたか乗れるんですか?」
メルヴィナの質問に、アリアとザインが手を挙げた。
ガルドは……半分だけ、手を挙げた。
「オレは身体が大きいからな。乗れはするが、馬を選んでしまうんだ」
「乗れる馬がいても、スピードは遅くなりそうですからねぇ……」
「途中でアタリがあったら、馬車組が来るまでに何ができた方が良いだろう?
それなら馬組は、アリアとメルヴィナがいいんじゃないか?」
「そうだな。地図を読むのはオレが得意だから、お嬢さんのサインを見るのはオレが受け持とう」
「それなら俺は……まぁ、旦那がやりやすいように、雑用でもしてるよ」
「あはは、情報屋はそういうのが得意だもんねぇ」
「もっとカッコいいところを、担当したいんだがな!?」
話が収まりかけたとき、もうひとり……レイラの声が聞こえてきた。
「ところで、私はどちらに行けばいいですか?」
「え? レイラは来なくても良いよ?」
「えぇ……!? 今、アリア様は困っているんですよね!?
アリア様はいつも、私がいない間に消えてしまうんですから! 今回は連れて行ってください!!」
「えー……?」
アリアは助けを求めるように、他の3人に視線を送る。
「うーん、何があるか分からないからさ。レイラはここで別れよう」
「いやです、いやです、いやです!! 私も手伝いたいんです!! 絶対に手伝います!!」
「ああぁー……」
レイラの言葉に、アリアの力が抜けていく声が重なる。
強く突っぱねれば置いていくことも可能だろうが、それができないのは……アリアが振り回されている証拠なのだ。
……そんなことを、ガルドは思った。
「レイラさんは魔法使いなんだろう?
安全は保証できないが、それでも行きたいと言うなら――馬車組だな」
「ええぇ!? 私はアリア様と一緒が良いです!!」
「んー、レイラは馬には乗れないでしょ? それなら、最低ラインは……馬車組、だねぇ」
アリアがそう言うと、レイラはメルヴィナを羨ましそうに……強い視線で見つめた。
メルヴィナにも、アリアの苦労が身に染みて伝わってくる。
「わかりました……。それでは、私は馬車組ということで……」
レイラはアリアをちらっと見た。
アリアが小さく頷くと、レイラは嬉しそうに身体を揺らす。
「それじゃ、今晩のうちに準備できるものはして――
……あとは早朝、近くの街から出発しますか」
一同は頷いて、その日の話はどうにか終わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬組――アリアは手綱を握り、馬を走らせていた。
メルヴィナはアリアの腰にしがみついているだけだが……それだけで精一杯だった。
目に入る景色からは緑が徐々に減っていき、馬は広い荒野を駆けていく。
「きゃあああああぁ……! アリアさん、もっとゆっくり、ゆっくりいいぃ……!!」
「ごめーん、時間が無いからがまーん♪」
馬が地面を蹴るたびに身体が浮き、慣れない衝撃が突き抜ける。
「普通ッ! こういうのってッ! 私がッ! 後ろにッ! なるものッ! ですかッ!?」
「喋れるくらいには、慣れてきたみたいだね? はい、スピードあーっぷ!」
「きゃっ、きゃああああぁーっ!!?」
「余裕があったら、馬に治癒魔法を掛けてあげてね~」
「余裕ッ! なんてッ! ないッ! ですぅうううううッ!!!?」
メルヴィナの絶叫は、荒れた大地の彼方に消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車組――ザインとガルド、レイラの3人は、街で手配した馬車に乗っていた。
御者はガルドも知っている青年で、真面目な仕事ぶりには定評があった。
3人は馬車の中で仮眠を取っていたが、そろそろ睡眠も十分な頃合いだった。
「はぁ……。それにしても、こっちは平和なもんだなぁ」
「アリア様がいたら、楽しかったのに……」
レイラはしゅん、としながら、自分の杖をいじっている。
「今は時間が優先だからな。それに……馬は、馬車ほど楽じゃないぞ?」
「ああ、そうそう。きっとアリアも、無茶な走りをしているだろうからな。
……たぶん、馬の限界を見極めて、全力を出していそう……」
「ははは。確かにアリアさんなら、そうしそうだな」
ザインとガルドが話す中、やはりレイラは話に入りにくい。
レイラは静かに、遠くを眺めていた。
「おっと、そろそろ時間だな。えぇっと、方角的には――」
「あれ、じゃないですか?」
レイラの指差す先の空には、何かイガイガした形の光が浮いていた。
……球状の形ではない。つまり、ハズレというサインだ。
「一応、時間と方角をチェックして……。
うん、間違いないな。レイラさん、おかげですぐに見つけることができたよ」
そう言いながら、ガルドはついつい、レイラの頭に手を伸ばす。
しかしレイラは、そんなガルドの手を素早く避けた。
「私の頭は、アリア様しか撫でちゃダメなんです!」
「……ははっ、なるほど。悪かったな」
ガルドは笑いながら、レイラに言った。
レイラとしても、少しだけ……緊張が解れた気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬組からの2回目のサインも、ハズレだった。
つまり今のところ、やはり本命はレイラの示した廃城――
……そしてそれは、彼らの目の前に見えてきた。
自然の痕跡はあちこちにあるが、今、生きている植物は見えていない。
荒れた大地の高台に、無機質にそびえる……そんな巨大で、崩壊が進んだ城。
高台の下には大きな湖が広がっているが、そこにも生き物が暮らす気配は無い。
――ザインたちは御者の青年に金を渡して、少し離れた場所で待っていてもらうことにした。
「ふむ……。人影は……いるな」
「オレとしてはすぐに突っ込みたいところだが……。
安全に倒すなら、アリアさんを待つべきだな」
ガルドが想像よりも冷静なことに、ザインは安心した。
「2回目のサインがあった時間と、距離から推測すると……。
アリアたちが来るのは、1時間後くらいか?」
「……悩ましい時間だな」
時間は既に、夕方を迎えそうになっている。
仮にここにフィオナがいなければ、調査はやり直し……そんな不安も、もたげてくる。
「そもそも多元主義派は、そこまでの人数はいないんだ。
だから、個別撃破を狙っていく、というのもアリだな」
「なるほど……。とはいえ、レイラもいるからな」
「が、頑張ります……!」
レイラについては、馬車の中で御者と一緒に待っていても良かったのだが……。
しかしここまで来てしまったのなら、まぁ仕方が無い。
「とりあえず、城の見張りを先に倒しておくか。少しくらい、時間の短縮になるだろう」
「ふむ、そうしておくか」
ザインとガルドはゆっくりと、廃城の門に向かって行く。
ヴェルガ教のローブを着た男がふたり、周囲を見回していたが――
……ひとりはザインによって、あっけなく倒された。
もうひとりはガルドの鉄拳を食らい、そのまま服を脱がされ、物陰に連れていかれる。
「おい、ここに聖女様はいるのか!?」
「ひ、ひぃ!? お前は何者だ!?」
「いるのか、と聞いている!!」
「服っ! 服を着させてくれ……!」
「ダメだ! 着たければ、早く言うんだ!!」
なかなか言うことを聞かない見張りに、ガルドは苛立ってきた。
そんなガルドを、ザインはどうにか冷静にさせようとする。
しかし一瞬、ふたりが目を離した隙に――
……その見張りは、両手を上に掲げて、魔法陣を作り出した。
「うおおおおッ!! ヴェルガ教、万歳ッ!!」
「ダメでーすっ♪」
しかし突然現れたアリアが、杖を勢いよく横に払った。
見張りの両腕は真横から強打され、おかしな方向に曲がってしまう。
「アリア!?」
「はーい、アリアちゃんですよー。
どうしたの? 拷問でもしてた?」
漂々と聞いてくるアリアの横では、膝から崩れ落ち、顔を地面に擦り付ける見張りの姿があった。
そんな場面に、ふらふらと歩くメルヴィナと、ちょこちょこと走るレイラが追い付いてくる。
「――あたしが拷問しても良いんだけど、可愛い子には見せられない光景だからねぇ。
時間も無いし、一気に突っ込んじゃう?」
「そうだなぁ。……お前がいるなら、それが手っ取り早い気がするよ」
全員、その提案には問題なかった。
ただ唯一、問題があるとしたら――メルヴィナの疲れ果てた表情……だけだった。
#鳴海弦