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見張りを全て倒したアリアたちは、まずは廃城の周りを調べた。
もしも他に出入り口があったら、敵を逃がしてしまうかもしれない。
……幸いなことに、他の出入り口は全て破壊されており、そこを通るのは難しい状態だった。
「――ガラガラだねぇ」
廃城の中は広く、何も無い部屋も多かった。
1階から順番に確認を行い、何も無いこと、誰もいないことを確認していく。
もしかして、最後まで誰もいないのでは……? もちろん、フィオナもここには……。
そんなことを考えながら階段を上っていくと、ヴェルガ教の信者たちが――
「あらよっと」
「邪魔だ」
……ザインとガルドによって、あっさりと倒された。
「急に出てきたねぇ。
多分、謁見の間があるっぽい階だから、ここにボスでもいるのかな?」
「そういうものなんですか?」
「こういう場所を根城にする連中は、そういうお約束が好きなんだよ。
ボスが倉庫にいたら、台無しでしょ?」
「確かに……」
アリアの説明に、メルヴィナは不思議な納得をした。
「さて、レイラも頑張るよ~。階段が多いけど、もう少し~!」
「は、はい……! はひぃ~……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――廃城の3階。
恐らく謁見の間だった場所に入ると、一番奥の玉座にひとりの男が座っていた。
壁や柱の一部は崩れており、手入れはまるで行き届いていない。
廃れた城に、ただ居座っている――そんな感じだ。
アリアたちはゆっくりとその男に近付いていく……。
しかし突然、アリアは男に飛び掛かり、杖を思い切り振り下ろした。
――ガアァアアァンッ!!
「ふえー。先制攻撃、失敗……」
杖の攻撃を防いだのは、男を中心に張られていたバリアだった。
大聖堂で主教が使っていたものと同じであれば厄介だが、どうやらそれよりも粗悪な魔法のようだ。
「……くくく。舐めた真似をしてくれる」
男はそう言ったが、ザインもそう思っていた。
いわゆるお約束を完全に無視、というか……。まるで慎重ではない、というか……。
そんな中、ガルドが男に言った。
「お前はヴェルガ教の者だろう? フィオナ様をどうした!?」
「ふむ、やはり聖女の連れか。ここに来るまで早かったな。
お察しの通り、私はヴェルガ教――多元主義派の長の、ダリウスという」
「やはり、多元主義派の仕業か!」
「ああ。先日、我らが敵の原理主義派が壊滅したようなのでね。
喧しい連中がいなくなったから、我らは行動を起こしたのだよ」
「元々、聖女を狙っていたの?」
「原理主義派の連中は、世界の滅びにしか興味が無いようだったが――価値のあるものは、そこではない。
真に価値のあるものは、滅びから生まれる再生なのだ……ッ!!」
「だから聖女を攫った……と?
でも結局、世界を1回は滅ぼすってことだよね? 原理主義派と変わらないじゃない」
アリアの言葉に、ダリウスは苛立ちながらも笑った。
「――さて。
わざわざ追ってきたお前たちには悪いが、ここで死んでもらおう」
「バリアがあるとはいえ、この人数差でそういうことを言うの?」
アリアたちは5人、ダリウスは1人。
そこには圧倒的な人数差がある。
「くくく。この城には、まだ私の部下がいるのだ。
多元主義派の幹部――四戒司祭がなッ!!」
……『四戒』というからには、部下の人数は4人なのだろう。
ただ、1対1で戦う必要は無いから――
「こんなところで、私が何故ひとりでいるのか分かるかな?」
「……虚栄心のため?」
「はははっ、違う違う。
私が四戒司祭の連中に、試練を与えるためだよッ!!」
アリアたちは、その真意を測り損ねた。
「……アリア様! ここ、嫌な気配が――」
「お前らが立っている場所。そこに転移魔法陣を作っておいたのだ!!
――さぁ、四戒司祭の生贄になれッ!!」
レイラの言葉はダリウスの言葉にかき消され、そのまま床に魔法陣が現れた。
そして強い輝きと共に――アリアを除く4人は、忽然と姿を消してしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――眩しい光が収まると、レイラの前にはひとりの男が現れた。
ヴェルガ教のローブをまとっているが、杖は……魔法使いのものに見える。
「こ、ここは……? アリア様は……!?」
「……ふむ。こんなおチビちゃんが俺の相手かい」
「え? え?」
男の言葉に、レイラは混乱が止まらない。
「俺は四戒司祭の、グロームだ。
ここに来た者をイイカンジで惨殺すると、他の連中より序列が上がる……ってコト」
「ざ、惨殺!? 私を、ですか!?」
「魔法使いなのに、理解が遅いね?
――まぁ、とりあえず動かなくさせてもらうよ!!」
グロームの手に魔法陣が生まれると、次の瞬間、天井から床に向かって稲妻が落ちた。
……しかしレイラは、すんでのところで回避する。
「きゃぁ!?」
「……え? 何で避けられるの?」
稲妻というものは、見てから避ける……なんてことは普通できない。
落ちる直前の兆候を捉えられれば別かもしれないが、それの隠蔽については、グロームには自信があった。
「な、何でと言われても……何となく?」
「ほう……。それならもう一度、食らいたまえ!!」
「ひゃっ!? きゃー!? うわぁーんっ!!」
――ズガンッ! ズガンッ!! ズガンッ!!!!
グロームは何度も稲妻を落とすものの、全て避けられてしまう。
「当たらない、だと……!? 何故だ! 何故だぁーッ!?」
「何となくですううううぅッ!!!!」
涙目になりながら避け続けるレイラだったが、ふと、グロームの動きが単調なような……気がしてきた。
何度もよけながら、何となく隙があるようなところで、レイラは杖の先に魔法陣を作り出す。
「――うわーんっ!!」
刹那、グロームに向けて、レイラの魔法……炎の攻撃が飛び出した。
それは初歩的な魔法ではあったが、それにしては炎が広範囲に及ぶ。
グロームは炎の中心は簡単に避けたものの、避けた先にも炎が生み出されており、さらに避けた先でも……同じ状態だった。
「熱ッ!? こんな初歩魔法、もっとしっかり収束させろよッ!!」
グロームは隙だらけになっていた。
信じられないような回避力を持ちながら、魔法の腕はまるで初心者――
……強者ばかりを相手にしていたグロームにとって、予測不能の相手だった。
「つ、次は頑張りますッ!! 私の魔法は、アリア様のためーっ!!!!」
「え? う、うわぁ――ッ!!!?」
グロームの腹に押し込まれた杖の先で、巨大な火の弾が生まれる。
ゼロ距離であれば、さすがに避けることはできない――
……奇跡的に、レイラの勝利が確定した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――眩しい光が収まると、ザインの前にはひとりの女が現れた。
ヴェルガ教のローブをまとっているが、その手には短剣を持っている。
「……転移させられたか。早くアリアのところに戻らないとな」
「あら、つれないわね。アタシ――ネブラさんを前にして、他のオンナの話をするの?」
「オンナ……? ……ああ。まぁ、アイツは女だったな」
ネブラの言葉に、ザインは少し悩んでしまった。
女性……という以前に、アリアはアリアだった。
「そんなことじゃ、モテないわよ? でもそんな悩み、もう持たないでイイからね!!
――アンタは、ここで死ぬんだからッ!!」
そう言うや、ネブラは凄まじいスピードでザインに斬り掛かってきた。
しかしザインは、それを何とか回避する。
「うおぉ……!? これは、本物っぽい強さ……!」
「残念ながら、本物よ!!
アンタを殺して、アタシはダリウスの愛を勝ち取るのッ!!」
ネブラの攻撃は絶えない。しかし、何とか避けることはできている……。
……アリアにガルド。身近には、強い人間がいる。
ずっと一緒にいるからこそ、自分の強さも証明しなければ――
「――でぇいッ!!」
「ぐぁッ!?」
凄まじい連撃の中、ザインの頭突きが成功した。
ネブラは強く打った顔を押さえながら、ザインとの距離を空けていく。
……そんな彼らの間には、先ほどまでネブラが持っていた短剣が落ちている。
「武器を落とすなんざ、三流だぜ!!」
ザインはその短剣を拾い、ネブラに斬り掛かる。
ネブラは必死にその刃を避ける――が、ザインは違和感を覚えた。
……異様なまでに、今の攻撃を恐れた? もしかして――
ザインが刃に鼻を近付けると、記憶にある知識が蘇ってきた。
これは……猛毒だ。
「――アンタ、頭もいいのね。それに胆力もある……。
いいわ、アタシも本気を出してあげるッ!!」
……結構です!! ザインはそう思ったが、それを顔に出すことはできない。
油断をすれば、本当に死んでしまう……そんな瀬戸際だった。
「もしかして……何か、異能でもお持ちで……?」
「正解よ。アタシの異能――『蜃気楼の鏡』ッ!!」
その言葉と共に、ネブラの周囲には……ネブラが何人も現れた。
全てが存在しているようで、作り物である雰囲気はまるで無い――
「げぇ……ッ!?」
「ふふふ、アンタにアタシが見つけられるかしら?」
「いやいや、これは正直――」
……レイラが戦うべき相手では?
あいつなら直感だけで正解が分かるだろうし……ザインはそんなことを思ってしまった。
しかしそうはいっても、今はどうすることも出来ない。
ザインは頭を高速で回転させて考えた。
異能を持たない自分が、異能を持つ相手にどう勝つのか――
――異能は凄いもの。異能は人智を越えたもの。異能は万能なもの。
……本当にそうか?
今までアリアと一緒にいて、一緒に見てきた異能。
それは全て、万能だったか?
例えば今、自分は足を止めているのに、向こうからは攻撃してこない――
……もしかして、できない?
「――そこだッ!!」
ザインは猛毒が塗られた短剣を投げた。
部屋の隅にある木箱に向かって――
ズガッ!!
――短剣が木箱を突き抜ける音がした後、そこから……血が溢れてきた。
ザインの周りのネブラは姿を消していき、そして木箱の影からは――本物のネブラが姿を現した。
「……どうして、分かった……?」
「近寄りたくない相手なら、短剣を投げて仕留めようとするだろ?
一番安全に投げるなら……お前が今いる、そこだ」
「ふふふ……。アンタぁ、いいオトコだねぇ……」
そう言い残すと、ネブラはその場に倒れた。
猛毒の塗られた短剣が刺さったのだ。きっとこのまま、死んでしまうのだろう。
「悪いな。彼女探しは、今はしないことにしてるんだ」
自分を殺そうとした人間を、助ける義理は無い。
ネブラを一瞥すると、ザインは元の場所――謁見の場を求めて、走り出した。